第95話 川崎ブレイク1
◇◇◇◇◇
ネット配信では、生中継で川崎で発生したダンジョンブレイクの特番が始まった。
ちなみにこの時代には、テレビ放送というものはすでに廃止されており、その電波の周波数は全て携帯事業者に再割り当てされている。
なので、全ての情報は、ネットから配信されているのだ。ほとんどの大手ネット配信は発生直後からこの事件の速報に切り替えている。
『プッピップ〜!プッピップ〜!パラ!
皆さん。こんばんは。
本日は川崎で発生した未曾有の災害である川崎ブレイクの特番を急遽番組を変更してお伝えします。
現在、午後7時です。
発生からすでに1時間が経過しています。
ここからは生中継で現地の様子などを踏まえて今後の展望などをお伝えしたいと思います。
なお、被災者および被害状況に関する詳細情報については、別配信の第二チャンネルを準備いたしましたので、そちらをご覧ください。
では、早速始めて参りましょう。
進行は、私、探検者チャンネルアナウンサーの梶木間吾郎が努めさせていただきます。よろしくお願いします。
そして、本日は解説者として急遽この方たちにお越しいただいています。
元陸上自衛官で評論家の坂田進さん。
元エクスプローラで評論家の後藤三平さん。
本日は、解説よろしくお願いします。』
『『よろしくお願いします。』』
『では、まずは現地の様子を中継でお伝えしていきます。現場の山本さん。』
『はい、山本です。
こちら、川崎上空から中継しております。
午後6時から始まったダンジョンブレイクの猛威は、1時間経った現在も一向に止まる気配を見せていません。
ゴブリンと呼ばれるモンスターに対して、自衛隊による包囲網からの陸上戦にて応戦はしていますが、その数は一向に減る様子がなく、むしろ、増え続けている様に思われます。
包囲網の内部では、いまだに破壊や殺戮が行われており、ほぼ壊滅状態です。』
現場の様子が映像で生々しく映し出されている。
今回は業界内で一切の規制なしで現場の様子を国民に伝えるという方針が、国の許可も得て決まっていた。
よって、全ての情報がネットを通じて、全世界に配信されている。
『では、このまま現場の映像を見ながら番組を進行させていただきます。
坂田さんは、20年前の災害をご存知だと思いますが、それと比較して今回の災害についてどう思われますか?』
『ええ、20年前は同時多発的に全国の6か所での対応を迫られました。
また、突然の出来事だったために対処が遅れ、全てを鎮圧するのに1週間以上かかっています。私も当時は現役だったので、渋谷の鎮圧に参加していましたので、よく覚えています。
それに比べて、今回は1ヶ所の発生であり、また、各国の情報から可能性の話はされており、そういう意味では、準備が出来ていたことから、初動については、とても早かったと思います。
ただし、私もモンスターについては詳しくないのですが、20年前の時は動物のような形のモンスターでしたので、自衛隊のみで制圧可能な状況にあったと思います。
ところが、今回はゴブリンという人型のモンスターが大量発生しています。
個々の強さと言いますか、個体強度というものが前回とは圧倒的に違いますね。
現在は、陸上自衛隊が頑張って包囲網を突破されない様に努力はしていますが、押し返すというところまでは行っていません。
残念な話ではありますが、ここはなんとか持ち堪えて、上位エクスプローラの派遣を待つという方法に切り替えている様です。』
『なるほど。ということは今回の方が厄介なモンスターが発生しているということですね。
確かに、上空のヘリが数機、ゴブリンの投擲によって撃墜されるという前回にはなかった事象も発生しています。
上位エクスプローラの派遣に関しては、現在のところ、まだ2名のみとなっている様ですが、この辺りは後藤さん、どう見てますか?』
『まあ、僕も協会の人間じゃないから予想も交えてになるけど、この時間帯ってのがねぇ、一つあるんじゃないかねぇ。
上位エクスプローラってのは、だいたいがあっちに潜っちゃうと1、2週間は出てこないわけよ。
さらにたまに日帰り組ってのもいるんだけど、基本的にエクスプローラって夜型が多いんだよねぇ。
だから、こっちの時間で言うと昼過ぎくらいから潜り始めて、夜中か明け方に戻ってくるみたいな。
だから、上位エクスプローラでこの時間にこっちにいるのってだいぶと少ないわけよ。
今、派遣してるのって、国士無双の2人でしょ?しかも、2人ともDランク?
僕もDランクだから分かるんだけど、ゴブリンってDランクには相当キツイんだよねぇ。
やっぱり、Aランクくらいじゃないとあの数は無理なんじゃないかなぁ?
そういう意味では、彼女たちは、僕的には、よく引き受けたと思ってるわけよ。』
『そういうことでしたか。
エクスプローラは、潜ってしまうと通信手段がありませんので、戻ってくるのを待つしかないということなんですかね?』
『あ!もう一つ言うと、タイミングも悪いよねぇ。数日前に喜多川兄弟が国士無双を脱退したよねぇ。彼らがいれば、一番良かったと思うんだけど、アメリカに行っちゃったからねぇ?
何があったんだろうねぇ?
期待のホープの宝生くんもアレだし。』
『そうですね。喜多川兄弟は渡米後、現在音信不通になっている様ですね。
宝生さんの件は、今回はやめておきましょう。』
『逆にさぁ。梶木間さんよ。
伝説のお千代さんと源三さんはどうしたか情報は入ってるのかい?
あの人たちならなんとかなるんじゃないか?って思うんだよねぇ。
引退したとは言え、現役なら今でも喜多川兄弟を除くと日本でワンツーだよなぁ。
そうだろ?』
『うーん。その情報は私では分かりませんね。
協会から連絡は行ってないんでしょうか?
ふむふむ。あ、すいません。
今、スタッフからの情報で、お千代さんと源三さんは、現在、この後の計画のためにすでに待機中ということです。
この後の計画とは、一体何なんでしょうか?
坂田さんはご存知ですか?』
『ええ、ある後輩から聞いた話だと、次のエクスプローラが到着後に包囲網から一点突破してダンジョンブレイクのゲートまで道を作るという計画がある様ですね。
そして、上位エクスプローラがゲート内部に侵入して中から叩くという計画があるそうなんですけど、ただ、ゲート内部は未知数ですし、誰もそんなリスクが高い役目には手を上げないと思っていたんですが……。
計画に対して待機中というのは、そういうことなんですかね?
もしそうなら、少し期待が持てますが。』
『坂田さん!ナイス情報だよ。
ここからは僕が少し補足しておこうかねぇ。
その計画が進行中だと仮定すると、お千代さんと源三さんは温存ということだねぇ。
知らない人もいるから言っとくと、エクスプローラのスキルってのは、使いすぎると魔力枯渇ってやつになるんだよねぇ。
これって強力なスキルの方が消費量も多いんで、すぐになっちゃうのよ。
それで温存ってわけだねぇ。
あと、スキルによっては、こっちの世界では使えないスキルもあるからねぇ。
そういう事情があるかもしれないよねぇ。
いや、でも僕も腹落ちしちゃったよ。
そうするとやっぱり、伝説のお二人はすごいねぇ。感動するねぇ。
命を賭けて、ゲート内部に入ろうってんだから、泣けるよねぇ。』
ネットのSNS上でも、なぜ伝説の二人を派遣しないのか?というコメントで炎上していたが、この特番が流れてようやく鎮火したらしい。
お千代さんと源さんにとっては、どうでもいいことだったが、完全にとばっちりである。
一部のネットのコメントは、悪意の塊だ。
『坂田さん。後藤さん。ありがとうございます。
ちょっと待ってくださいね。
ただいま、新しい情報が入った模様です。
協会からの情報によると、追加のエクスプローラが派遣される様です。
派遣されるエクスプローラは、渋谷管轄のネオ・ダイアモンズの7名だそうです。
渋谷ゲートから戻ってすぐの派遣だそうで、協会本部からヘリに乗り込んだ様です。
現場には5分程度で到着するようです。
後藤さん。ネオ・ダイアモンズと言えば、先日の大総選挙で第一将持国天に選抜された天堂龍太郎さんが新しく設立したクランですよね?』
『そうだね。代表が天堂龍太郎でしょ。
そこに百枝華那、高梨玲奈、玉置詩音、佐々島亜実花の旧ダイアモンズの4名が加わって設立したAランククランだよねぇ。
そのあと、我らが夢咲カレンちゃんと早乙女ミクミクの旧ゴッドブレスユー!の2人も合流して、現在は7名になってるよねぇ。
ただ、このクランって、全員がDランクエクスプローラなんだけど、大丈夫なんかねぇ。
とても戦力にならない気がするよ。
下手すりゃ、瞬殺されるんじゃね?
大丈夫かよ?カレンちゃん。』
またまた、ネットのSNS上では、ネオ・ダイアモンズに対してのディスりコメントがリアルタイムで大炎上の模様。
特に棚ぼたで第一将に選抜されただけの龍太郎には、容赦のないコメントが。
それにカレンちゃんを派遣しないで!と言ったカレン親衛隊のコメントも多く出ていた。
さらに協会に対する批判も出始めている。
『後藤さん。現在、ネット上は大荒れです。
やはり、派遣されたのが、またもDランクだったことの様ですね。』
『まったく。外野が好き勝手に言うよねぇ。
現場の人は命掛けてんだよねぇ。
僕も外野だけどさぁ、外野が言っちゃいけないことってあるんだよねぇ。』
そこに遮って、中継先の山本さんが割って入った。
『梶木間さん。山本です。』
『はい、山本さん、どーぞ。
現場に動きがあったんでしょうか?』
『今、渋谷方面から高速で自衛隊のヘリが近づいてきました。
派遣されたエクスプローラを乗せたヘリだと思われます。
予定では、西側の鶴見川方面に向かうと見られてますので、もうすぐ到着すると思われます。
って、えーーーーーーー!
あ!すいません!見えますでしょうか?
ヘリが突然、急上昇を始めました!
ものすごい勢いで上昇しています!
一体何をするのでしょうか!?
これも作戦の一部なんでしょうか?
もう肉眼では確認できませんので、超高感度望遠カメラで確認しています。
パイロットによると約3000〜4000メートルまで上昇した模様です。
って、えーーーーーーー!
あ!すいません。見えますでしょうか?
急上昇したヘリから一人のエクスプローラと思われる人物が飛び降りました!
男性です!天堂龍太郎さんと思われます。
ものすごい勢いで落下しています!
一体何をするのでしょうか!?
これも作戦の一部なんでしょうか?
どんどん地上が近づいていきます。
このままだと落下点は、ゲートのある川崎駅前ロータリー付近だと思われます。
このままのスピードだと、パラシュートは間に合わないのでは?
あーーー!もうダメです!
天堂さんがそのまま地上に墜落します!
あーーー!事故です!
って、え?あれ?
確かに、天堂さんと思われる人物が地上にパラシュートなしで墜落したと思ったのですが、何もなかった様に着地しています!
すごいです!感動しました!
梶木間さん!今の見ましたか?
この感動、伝わってますかねぇ?』
『はい、伝わってますよ!
私も信じられないですよ。
後藤さん。これはどういうことでしょう?』
『僕も信じられない。
でも、あれは天堂龍太郎で間違いないよ。
ひょっとして、彼は棚ぼた第一将じゃなかったのかい?』
『私も驚きました。
これは期待してもいいんじゃないですか?』
この映像を見た視聴者が、SNSでまたもやリアルタイムで呟いていた。
天堂龍太郎って何者だ?
単独でゲートに落ちていったぞ!
本当にDランクかよ?
いや、そもそも人間なのか?
でも、ゴブリンに囲まれてるけど、大丈夫?
いや、今のところ大丈夫っぽい。
違った意味で、SNS上が天堂龍太郎で炎上していた。
◇◇◇◇◇
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