第94話 緊急事態
◇◇◇◇◇
討伐から戻った龍太郎に協会から緊急事態の電話が入った。
ガチャ!
末廣:『こちら、探検者協会の末廣と申します。
天堂さんですか?』
龍太郎:「あ!はい、天堂ですけど。」
末廣:『お戻りになったばかりのところ、誠にすみません。
緊急の連絡になりますので、副会長にお繋ぎします。
このまま少々お待ちください。』
ピン!ピロピロピン!ポンピンポン!
野神:『天堂くん。緊急なので手短に話すわよ。ダンジョンブレイクが発生したわ。場所は川崎よ。今から行ける?』
龍太郎:「はい?ダンジョンブレイク!?
うーん……どーせ、強制でしょ?」
野神:『そうね。ありがとう。
このまま、状況を説明するからヘリポートの場所に向かってくれる?
場所はわかるわね?』
龍太郎:「ああ、大丈夫だ。今から行くよ。
みんなに話すからちょっと待っててくれ。」
メンバーの6人に川崎でダンジョンブレイクが発生し、召集令状が届いたことだけを説明して、全員で協会敷地内にあるヘリポートへ足早に向かっている。
龍太郎:「野神さん、みんなには説明したぞ。
もうすぐヘリポートに着く。」
野神:『じゃあ、そのままヘリに乗ってくれる?』
龍太郎:「ああ、わかったけど、野神さん。
一つ問題があるんだけど。
俺たち全員、こっちじゃ装備がないんだよ。
それだと俺くらいしか、討伐に参加できないと思うんだけど。」
はっきり言って、野神さんからの招集を伝えて向かってはいるが、みんなからは装備なしで対応できるのか、疑問の声が出ていた。
野神:『装備は事前に準備しているわよ。
ヘリに積んでいるから、各自それを使ってちょうだい。ただし、異世界ゲート内の装備よりは格段に性能は劣るので注意してね。』
要するに初期装備に近いものだそうだが、このメンバーで体術勝負できるのは、俺くらいしかいないので、準備してくれていて助かった。
それからすぐにヘリポートに着くと、一人の自衛官が待っていて案内してくれた。
名前は
階級は陸曹長だそうだが、よく知らない。
龍太郎よりは年上だとは思うが、かなり若い陸上自衛官だ。
ネオ・ダイアモンズの7名が、自衛隊の準備したヘリコプターに乗り込むと即座に川崎方面に飛び立った。渋谷から川崎だと約5分程度で到着するとのこと。
野神:『じゃあ、状況を説明するわね。
ダンジョンブレイクが発生したのは、川崎駅前ロータリーのど真ん中よ。
今から約1時間前の午後6時に突然現れて大量のゴブリンが発生したの。
今のところ、モンスターは普通のゴブリンとビッグゴブリンの2種類。
現在、自衛隊がメインで対処に当たっているけど、苦戦しているわね。
渋谷管轄からは、国士無双が先に向かってるけど、ほとんどのメンバーがダンジョン内にいるので、現地にいるのは、楠木さんと片桐さんの2名だけなの。
残念ながら、あまり戦力になってないわ。
それと横浜管轄からはまだ派遣できていないから、ネオ・ダイアモンズには出来るだけ数を減らしてもらいたいの。』
龍太郎:「マジかよ。現場の状況は?」
野神:『もう大パニック状態よ。
駅や街はめちゃくちゃに破壊されているし、火災も収まっていないわ。
その時間はちょうどラッシュアワーってこともあって、すでに大勢の犠牲者が出ているの。
今も被害が広がらない様に、自衛隊員が周りを囲んで応戦している状況よ。
実際には、上空から様子を確認してちょうだい。それの方がより分かると思うわ。』
そのあと、義藤さんが引き継いで上空から、現状の様子を説明してくれた。
義藤:「天堂さん。見えてきました。
あれがダンジョンブレイクの現場です。」
龍太郎:「うわ!これはひどい。」
20年前の事件を知らない世代には、これが現実かと思うくらいに戦場と化している。
至る所で爆発や火災が発生しているが、全て放置されている状態で、午後7時で日が暮れているにも関わらず、その周辺のみ、ものすごく明るく映っていた。
義藤:「周りを囲んで応戦しているのですが、中には取り残された一般人もいるため、ミサイル等の大型兵器は使用できません。
主に銃器での応戦になっています。
我々もこの様な事態は初めてなので、かなり苦戦しています。かなりまずい状況です。
なんとか被害が広がらない様に足止めをするのが精一杯の状況です。」
龍太郎は、俯瞰スキルを使って川崎駅周辺全体の状況を上空から確認したが、応戦している自衛隊は大量に発生したゴブリンズのスピードとパワーについていけていない。
圧倒的に個の戦闘力が劣っている。
ゴブリンズは、多少の銃撃を受けたところで、致命傷にはなっておらず、それに構わず攻撃を緩めることはない。
異世界のモンスターに対して、近代兵器は効果が薄いのかもしれない。
人間を殺して食う、女を犯す、この2つの目的しかないゴブリンズはひたすらに人間を襲う。
なお、自衛隊の基本的なスタイルは、防護盾を最前線に張り巡らせて、その間隔から銃器による攻撃を仕掛けている様だ。
完全な防御態勢での応戦で、ゴブリンズを押し返す力はない様に見えた。
すでに被害範囲は数キロ四方に広がっていて、さらに広がっている様に見える。
確かにこれはまずい状況だ。
ネオ・ダイアモンズのメンバーは、すでに各自装備を装着して準備は完了している。
義藤さんからは、まず、朱美社長と合流して、ゴブリンズの包囲網の1点を突破して欲しいと言われた。
これが自衛隊の作戦であり、俺たちへの要求の様だ。
朱美社長とジェシカさんは、確かに見慣れない装備を装着して、包囲網の西側の鶴見川付近で参戦している様子を確認した。
ただし、ジェシカさんはともかく、朱美社長は全く戦力にはなってない模様。
非戦闘系スキル保持者の悲しいところだ。
すでにエクスプローラは引退していたのに、国士無双を引き継ぐためだけに再登録しただけなので、ものすごくタイミングが悪い。
やむなく、前線に出されているのだろう。
すごく気の毒だ。
引退して大企業の社長にもなったのに、下手すりゃ命を落とすことになるぞ。
龍太郎:「義藤さん。かなり範囲が広いな。
しかも、ダンジョンブレイクのゲートからも、まだモンスターがわらわらと出てきているみたいだぞ。」
義藤:「え?そこまで見えるんですか?」
龍太郎:「え?ああ、レベルが上がって視力が良くなったみたい。」
普通なら見えないけど、スキルとは言えないもんな。墓場案件だし……。
義藤:「そうですか。
エクスプローラとはすごいもんなんですね?
はい、そうなんです。
いまだにモンスターがゲートから流出しています。なので、モンスターは減るどころか、どんどん増える一方です。
ですので、出来れば、皆さんには包囲網から一点突破して、ゲート内に入って内部からの討伐をお願いできればと考えています。
ゲートからのモンスターの流出が無くなれば、我ら自衛隊にて終息させられる可能性が上がります。可能でしょうか?」
龍太郎:「自衛隊の作戦って無茶苦茶だな?
完全に他力本願じゃん。
自分らでなんとかしようって気はないのか?」
義藤:「そうですね。私もそう思いますが、上からの指示で。」
龍太郎:「あ!そうだよな。悪い。
義藤さんに言ってもしゃーないよな。
こういうのは、現場に来ないお偉いさんたちが会議室で決めてるんだもんな。
ちょっとは現場に来いってんだよな!」
義藤:「そうですね……。」
龍太郎の嫌味に義藤も返事に困っている。
そこにいきなり、魔人ブルーノが話しかけてきた。
ブルーノ:『主よ!もし、主のみでゲート内に入るなら、我も協力しよう。
少し、退屈していたところなんでな。』
龍太郎:『お!ブルーノ。それいいかも。』
よし!決まった。
ゲート内には、単独で行こう。
龍太郎:「とは言いつつ!義藤さん!
ゴブリンズは多分大丈夫だと思う。」
義藤:「そうですか!それは良かった。」
龍太郎:「じゃあ、みんな。
ゲート内には俺だけで行くからさ。
みんなは、朱美社長と合流してくれ!」
カレン:「うん、わかった。
天堂くんだけなら大丈夫だよね。
私たちじゃ、包囲網の中に入っていくのは、足手まといになっちゃうからね。
みんなもいいよね?」
他のメンバーも異論ないようだった。
龍太郎:「オーケー!
じゃあ、義藤さん!
このヘリでゲートの真上まで行ってくれ!
そのまま、飛び降りるから。」
義藤:「それは無理です!
すでに包囲網の内部で上空に入った自衛隊のヘリ数機が、ゴブリンからの投擲によって撃墜されていますし、テレビ局の中継で近づいたヘリも同様に撃墜されてるんです。
ヘリで上空に入るのはかなり危険です。」
龍太郎:「え?そうなの?
ゴブリンズも無茶苦茶するなぁ。
じゃあ、ものすごく上空でいいからさ。
投擲の及ばない範囲の上空だったらなんとかなるか?」
義藤:「ええ、それは可能ですけど、そうすると天堂さんが大丈夫ですか?
このヘリにパラシュートは積んでいますが、実際に訓練を受けてませんよね?」
龍太郎:「あ、それはいいから。
パラシュートは要らない。
そのまま飛び降りるから。」
義藤:「そんな無茶な……。」
龍太郎には、飛翔スキルがあるので自分だけなら、どんな高さでも多分大丈夫と踏んでいる。
ただ、義藤の方は、平然と飛び降りるというこの青年は、まだ若くDランクということを聞いている。いわば、まだ駆け出しのエクスプローラということだ。
正直、上からの指示とは言え、包囲網を突破することさえ疑っているのだが、彼は笑顔で平然と飛び降りると言っている。
そして、答えに困っていると……。
龍太郎:「義藤さん。
エクスプローラって自己責任でやってるから、何があっても義藤さんは責任持たなくていいよ。心配してくれてありがとな。」
その言葉に義藤は、天堂には自分が想像できないような何かがあるのだろうと吹っ切れた様に言葉を返した。
義藤:「天堂さん。分かりました。
あなたを信用します。
ただ、相当上空に上がることになるので、覚悟してくださいね。」
龍太郎:「ああ。大丈夫だ。」
義藤は、ヘリのパイロットに4000メートル上空に上がる様に指示した。
そして、ヘリがダンジョンブレイクのゲートの真上に到達したところで。
龍太郎:「じゃあ、この辺だな。
みんなは、朱美社長のサポートよろしくな!
あとはアレで連絡するから!」
そう言って、龍太郎は上空4000メートルのヘリからパラシュートなしのスカイダイビングに飛び出して行った。
◇◇◇◇◇
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