第90話 意外な来訪者1

 ◇◇◇◇◇


 いつも通りレベルアップ探検を終えて帰ってきたネオ・ダイアモンズ御一行様がクランハウスに到着すると意外な人物が待っていた。


龍太郎:「え?なぜ、ここにいるんだ?」


朱美:「天堂さん。そろそろ帰ってくる頃だと思ってお待ちしてましたよ。」


龍太郎:「俺を待ってたのか?」


朱美:「はい。遅くなりましたけど、第一将持国天の選抜おめでとうございます。」


龍太郎:「ああ。ありがとう。って、何の用だよ?

 もう関わらないって言ったはずだけど。」


朱美:「そうなんですけど、今日は喜多川北斗の代理で来ましたのでセーフです。」


龍太郎:「北斗さんの代理?セーフ?」


朱美:「はい、そうですよ。

 ですから、少し時間をいただけますか?」


 龍太郎の前に現れたのは、朱美社長。

 相変わらず、妖艶なスーツ姿で大人の女性のお色気ムンムンなスタイル。流石は夜蝶女王。

 横には室長のジェシカを引き連れている。

 こちらは、対照的にラフな格好だが、ナイスバディが強調されているラテンスタイル。


 カレンと美紅は、この2人を知っているが、4人娘はこの超絶美人な2人が誰か知らないので、気になっている。


華那:「先生。この人たちは誰?」


龍太郎:「ああ。バタフライ・コーポレーションの社長とそこの秘書室長だよ。」


詩音:「あ!聞いたことあるよ。

 超大企業じゃん!って、そこの社長!?」


朱美:「ふふふ。知ってくれてるのね。嬉しいわ。

 でも、天堂さん。今日はバタフライ・コーポレーションの社長とは違う立場で来てるの。

 少し、話を聞いてもらえる?」


龍太郎:「夢咲さん。どうする?」


 カレンは少し考えて答えた。


カレン:「まあ、今日は北斗さんの代理ってことだし、話を聞くくらいなら。」


龍太郎:「そっか。わかった。

 朱美社長。少しだけだぞ。」


朱美:「ありがとう。ええ、結構ですよ。

 天堂さんとお話ができるだけで嬉しいわ。」


 朱美社長は本当に嬉しそうにしている。

 横にいるジェシカもホッとした表情だ。


龍太郎:「それじゃ、中で話をしようか。」


朱美:「ええ。」


 龍太郎たちと一緒に、朱美とジェシカもクランハウスに入っていった。



 ◇◇◇◇◇



 クランハウスの1階の部屋で龍太郎とカレンの前に朱美とジェシカが座っている。

 詩音が朱美とジェシカにコーヒーを出して、他のメンバーも興味があるのか、全員がその場で話を聞こうと立ち去ろうとしない。

 美紅だけは、なぜかあまり乗り気ではなさそうだが、確かにこの2人にはあまり会いたくなかったのだろう。気持ちはわかる。


 龍太郎もコーヒーを啜りながら、朱美社長に話しかける。


龍太郎:「で、北斗さんの代理って言ってたけど、どういう用件なんだ?」


朱美:「相変わらず、単刀直入なのね。

 こちらは久しぶりに会えて嬉しいんだけど。」


龍太郎:「いいから、用件を言ってくれ。」


朱美:「ふふふ。じゃあ、用件をお話ししますね。

 まず、今回、私は国士無双クランの代表としてここに来ています。」


龍太郎:「はぁ!?どういうこと?」


朱美:「喜多川北斗と南斗の両名は数日前に国士無双クランを脱退しました。

 代わりに私とここにいるジェシカが、クランに再登録をして、同時に私が代表を引き継いだというわけです。

 活動はしないので、名前だけですけど。」


龍太郎:「ちょっと待て!何があった?

 まさか、あの勝負が原因か?」


朱美:「いえ。そうじゃないわ。

 少し前から決めてたみたいなの。

 だから、あなたたちの勝負とは無関係よ。

 それと懲罰委員会にかけられた宝生舞夢は少し前にクランを除名になっているわ。

 今日、こうして伺ったのはその件です。」


龍太郎:「ん?宝生の件?どういうことだ?

 俺はアイツを許すつもりはないぞ。

 本当にめちゃくちゃしやがったからな。

 下手すりゃ、俺は死んでたんだぞ!」


朱美:「それは聞きました。

 宝生が迷惑をかけたみたいですね。

 あなたが無事でよかった。

 それは私も許すことはないし、喜多川が彼を除名したのよ。」


龍太郎:「そうか。なら、宝生の件で何の用だ?」


朱美:「これも喜多川が決めたことなんだけど、その件で喜多川があなたに償うと言ってたでしょ?

 その件についてです。」


龍太郎:「ああ、言ってたな。

 でも、それは断ったぞ。」


朱美:「いいえ、彼はそうは思ってないわ。

 それに彼は一度決めたことは覆さないの。」


龍太郎:「はぁ……。北斗さんってどんな人なんだ?」


朱美:「それは難しい質問ね。

 本当の彼は私にもわからないわ。

 ただ、尊敬できる人よ。」


龍太郎:「ふーん。噂通りではないってことか。」


朱美:「そうね。噂では、ものすごく悪党って感じですものね。

 まあ、あながち間違った噂ではないかもしれないですけどね。

 現にいろいろと悪いこともしてますから。」


龍太郎:「よくわからないな。

 ただ、俺も噂では判断したくないな。

 俺も噂には振り回されてきた方だし。」


朱美:「ふふふ。そうですか。

 では、今日の用件をお話しますね。

 先日の償いとして、喜多川北斗が天堂さんにバタフライ・コーポレーションの株を1%譲渡するとのことです。

 また、手続きに関する費用は全て我が社が負担しますので、天堂さんは株を受け取るだけで結構です。手続きも我が社でしておきますので。

 こちらが契約書です。

 内容を確認してもらえますか?」


 朱美社長が、龍太郎の前に契約書を差し出す。


 これには、周りのオーディエンスの方が驚いていた。

 いくら、1%とは言え、超大企業の株である。資産的には相当な金額になることは容易に想像できた。


龍太郎:「ちょっと、待ってくれ。

 俺は北斗さんから償いを受ける理由がない。

 だから、北斗さんには気持ちは受け取ったと言っておいてくれるか?」


朱美:「それは無理ですね。私が怒られます。

 あの人はそういう人なんです。

 私もこれは流石にやりすぎだと思ったんだけど、株式の譲渡は極めて珍しいのよ。

 今回が2回目ですね。

 それほどの決断をしてるの。

 よっぽど、天堂さんのことを気に入ったのかもしれないですけどね。」


龍太郎:「うーん。そう言われても困ったな。」


朱美:「天堂さん。持っていて困ることはないですから、喜多川の気の済むようにしてもらえないですかね?」


龍太郎:「2回目って、最初の譲渡は?」


朱美:「最初は私ですね。社長を拝任した時に。その時に私も共同オーナーになっています。」


龍太郎:「じゃあ、俺も共同オーナーってこと?」


朱美:「はい、そうですよ。

 天堂さんが譲渡を受け入れた場合の持ち株比率は、

 喜多川北斗が78%

 喜多川南斗が20%

 私、楠木朱美が1%

 そして天堂さんが1%

 この4名が今後、共同オーナーになります。

 私としても嬉しいですよ。」


龍太郎:「なんか俺だけ場違いな感じだな。」


朱美:「いえいえ、そんなことないですよ。

 それに我が社も順調に利益を出していますから、配当ももらえますよ。」


 オーディエンスの中で、美紅が口を開いた。


美紅:「天堂さん!すごいじゃない!?

 損はないんだから貰っておきなさいよ!」


 誰もが口を挟むのを躊躇していたのに、こういうところは美紅は空気が読めてない。


 何を興奮してるんだか……。

 自分がもらえるわけじゃないんだからな!


 まあでも、北斗さんの好意ってことだよな。

 良い方に考えるか?


龍太郎:『アイちゃん!どう思う?』


AI:〈良いんじゃない?貰っておけば。

 万が一の時は返せば良いんだから。〉


龍太郎:『そっか。ならそうするか。』


龍太郎:「朱美社長。ありがたく受け取ることにするよ。北斗さんに礼を言っておいてくれ。」


朱美:「わかりました。

 では、契約書にサインしてくださいね。」


 オーディエンスも何やらざわついている。


 契約書の確認は、俺が確認するふりをして、実はアイちゃんにお願いした。


AI:〈マスター!問題ないよ。〉


龍太郎:『オケ。さんきゅ!』


 龍太郎は、契約書にサインした。


朱美:「はい、契約完了ですね。

 これで共同オーナーの仲間入りです。

 おめでとうございます。」


龍太郎:「ああ、朱美社長。ありがと。」


 こうして、龍太郎は喜多川北斗からの償いという形でバタフライ・コーポレーションという大企業の共同オーナーになってしまった。


 なんだか、龍太郎も予期せぬ未来がやってきているのかもしれない。


 ◇◇◇◇◇

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