第87話 思わぬ結末2

 ◇◇◇◇◇


 宝生は北斗の手によって、協会の医務室に運ばれていた。

 もうすでに南斗は帰っている。

 代わりに朱美とジェシカが駆けつけていた。


 宝生の怪我の具合は、そんなに大したことはなく、魔力枯渇による消耗によるものでベッドの上で寝かされていた。


宝生:「うっ。」


北斗:「気づいたか?舞夢。」


宝生:「ボス。僕は?」


 宝生は、ここが協会の医務室であることを認識した。


北斗:「舞夢。俺に何か言うことはあるか?」


 宝生は、異世界ゲート内での出来事を思い出していた。


宝生:「ボス……。」


 宝生は、何かを喋ろうとしたが、それ以上の言葉が出てこない。

 代わりに涙が溢れてきて、嗚咽が止まらなくなっていた。


 それを見た北斗が声を掛けた。


北斗:「まあいい。舞夢よ。

 エクスプローラは自己責任だ。わかるな。

 自分でやった行動は自分で責任を取る必要がある。

 だから、お前がお前の信念で天堂を殺ろうとしたなら俺は何も言わん。好きにすればいい。

 ただ、お前は感情で行動を起こした。

 俺の配下である以上、俺はそれを認めない。

 お前は自分が強くなったと思っているが、お前の弱点は心の弱さだ。

 それを考えて、償いを受けるんだ。」


 宝生は、何も言えずに自分の行動の重大さを今頃になって後悔していた。


 僕は感情のまま天堂を殺ってしまった……。


 それを考えると宝生は、どうしようもなく震えが止まらなくなっていた。


 その様子をじっと見ていた北斗は、しばらくしてから宝生に声を掛けた。


北斗:「舞夢。天堂は生きているぞ。」


 え?天堂が生きている?


北斗:「どうやってお前のビッグバンを回避したのかはわからなかったがな。

 ただ、確かに天堂は生きている。

 舞夢よ。お前にその気があるなら、罪を償って戻って来い。

 朱美、あとは頼んだぞ。」


 そう言うと、北斗は医務室を後にし、協会本部に今回の件を説明しに行った。


 このような、エクスプローラ同士の事件については、警察ではなく協会が対処することになっている。


 このあと、宝生は退院を待って身柄を拘束され、その後、協会内の懲罰委員会にかけられることとなった。



 ◇◇◇◇◇



 時は少し遡って……。


 異世界ゲート前販売ショップ。


 今日はお千代さんが店番の日です。


千代:「何やら、今日は外が騒がしいねぇ。

 全く、何を騒いでんだかねぇ……。

 これじゃあ集中できないよ。」


 お千代は、暇つぶしにお茶を啜りながら、趣味の書道の練習をしていた。


 お千代は、販売ショップの店内に私費をかけて改造させて、小さいながらも書道のできるスペースを確保するほど、書道にはまっている。


 元々、小さい頃から書道は嗜んでいたのだが、エクスプローラ引退後に本格的に再開した唯一の趣味で、すでに書展にも出展し、入賞するほどの腕前になっている。



龍太郎:「あ!お千代さん?書道?」


千代:「ああ、そうだよ。

 ん?お前、どこから入ってきたんだい?」


龍太郎:「どこからって……。」


 マズい。咄嗟だったんで販売ショップに転移してしまった。

 なんて言ったらいいんだ?



千代:「まあいい。今日はどうしたんだい?」


 あれ?気にしてない?セーフ?


龍太郎:「ああ、ちょっとここの外でな。」


千代:「それでかい?外が騒がしいと思ったよ。」


龍太郎:「ああ。俺行くわ。じゃあ、また。」


千代:「ああ、行っといで。」


 お千代は気づかないふりをしていたが、明らかにショップ入り口から入ってきていないのは分かっていた。


 あの子、何やら移動系のスキルを持ってるのかねぇ?本当によくわからない子だよ。



 ◇◇◇◇◇



 それから、販売ショップを出た龍太郎は、カレンたちを見つけて、真っ直ぐカレンの元に走って行った。


 突然、カレンの前に現れた龍太郎。


 カレンは放心状態で涙を流している。

 そのカレンに抱きついている美紅。

 その横で固まって抱き合って号泣している4人娘。


 それを見た龍太郎は、なんとなく思った。


 あの後何が起こったのか分からないけど、何か良くないことが起こったんだろうな。と。


 龍太郎は、声を掛けた。


龍太郎:「夢咲さん?」


 突然現れた龍太郎に声を掛けられたカレンは、龍太郎の姿を確認した瞬間に、本当に驚きすぎて声を出せずに泣くのを止めて固まってしまった。


 龍太郎は、もう一度声を掛けた。


龍太郎:「勝ったよ。夢咲さん。」


カレン:「天堂くん?」


龍太郎:「ああ。」


 先程まで号泣していた4人娘や美紅も、その光景に何が起こったのかわからず、驚きを通り越して思考が追いつかず、ただただ龍太郎を眺めていた。


 そしてカレンは、確認するようにもう一度聞き返す。


カレン:「本当に天堂くん?」


龍太郎:「ああ。」


 その龍太郎の声を聞いて、我に返ったカレンは思わず、勢いよく龍太郎に抱きついて、思いっきり抱きしめて、今度は声をあげて泣き始めた。


カレン:「天堂くーーーん!わーーーん!」


 それを見た4人娘と美紅も、龍太郎が生きていたと分かって、みんなで抱きついて、揉みくちゃ状態。みんなで泣き笑い泣き笑い。


華那:「先生ーー!」

詩音:「良かったーー!」

玲奈:「もうーー!」

亜実花:「あーーん!」


 

 それを見た北斗は、一瞬信じられないと言った表情で、何が起こっているのか分からなかったが、とにかく気絶している宝生を担いで龍太郎の元へ駆けつけた。

 南斗もその後ろからついて行く。


 龍太郎の前に立った北斗が声を掛けた。


北斗:「天堂!すまなかった。

 俺が注意していれば防げた事故だった。

 この通りだ。」


 北斗は、龍太郎に深々と頭を下げた。


 龍太郎は、北斗に担がれた宝生を見てから、北斗に聞いた。


龍太郎:「あの後、どうなったんだ?

 俺も周りが真っ暗くなってからのことがよく分かってないんだけど。」


北斗:「ああ、俺もお前がなぜ、ここにいるのかが理解できていないがな。

 まず、黒い球体にお前が包まれたよな?

 これは、舞夢の特殊能力でビッグバンというものらしい。

 この能力の詳細は知らないが、その黒い球体に包まれるとそのあと爆発して跡形もなく消滅するんだよ。」


 ひえー!そうだったんかい!?

 めっちゃヤバいじゃんかよ!


 あの時、アイちゃんに言われなかったら、俺って跡形もなく消滅してたってこと?


 おい!宝生!何やってくれてんだよ!?


龍太郎:「そういうことか……。

 こいつ、無茶苦茶するなぁ!

 宝生は絶対に許さん!」


北斗:「ああ、そうだな。こいつは超えてはいけない一線を超えた。それは間違いない。

 今回の件は、俺から協会に連絡しておく。

 俺が責任を持って、こいつに罰を与える。

 決してうやむやにはしない。

 あと、お前には俺がこいつに代わって償いをさせてもらう。

 何でも言ってくれ。」


 やっぱり、なんか北斗さんのイメージが思ってたのと違うんだよな。こういう人なのか?


 龍太郎は、カレンの方を見た。

 カレンは、それを察して北斗の目をじっと見たあと、軽くうなづいた。


龍太郎:「ああ。じゃあ、宝生のことは北斗さんに任せるよ。

 それと、これは北斗さんのせいじゃない。

 今後、宝生のことをキッチリ対応してくれればそれでいいよ。」


北斗:「ああ、分かった。それは責任を持って対応しよう。

 ただ、俺も一度言った以上、何の償いもなしというわけにはいかないな。

 お前に要求がないなら、おれの勝手にさせてもらうぞ。」


龍太郎:「ああ、気持ちだけ受け取っておくよ。」


北斗:「ところで、お前の方はどうやってあの球体から脱出したんだ?」


 うっ、やっぱり来た!

 そうだよな?そうなるよな?


 この質問に関しては、ここに居る全員が疑問に思っていたことで、みんなが龍太郎の答えに興味津々のご様子。


龍太郎:「それは秘密だ。墓場案件なんでな。」


北斗:「何だ、その墓場案件ってのは?」


 しまった!墓場案件って言ってしまった。


龍太郎:「忘れてくれ。墓場とは関係ない。

 ただ単に秘密ってことだよ。」


 これには、みんなが納得していない様子だったが……。


北斗:「分かった。これ以上は聞かないでおこう。

 ただ、俺はお前と敵対する気は全くない。

 むしろ、天堂!お前を買っている。

 今回の件で、さらに興味を持った。

 今後、気が変わったら声を掛けてくれ。」


 うーん。なんでこの人は俺なんかに興味があるんだろう?前も誘われたよな?

 国内トップランカーだぞ?

 まあ、敵対しないってのはありがたい。

 目をつけられたら困るからな。


龍太郎:「ああ、分かった。ありがとう。」


北斗:「それじゃ、俺たちは戻る。

 宝生のことは間違いなく責任を持って対処しておく。

 じゃあ、またな。

 ジュニア、行くぞ。」


 そう言うと、宝生を担いだ北斗、それに南斗が異世界ゲートから戻って行った。



 北斗たちが、ゲートから出たことを見計らって、龍太郎が声を掛ける。


龍太郎:「夢咲さん!勝ったぞ!」


カレン:「うん!」


 その一言で、沈黙していた場が一気に盛り上がった。

 みんな一斉に歓喜の声をあげている。


 これで前回の宝生の条件は解放された。


 何より、一度消滅してしまったと思った龍太郎が生きていた。


 カレンは、心の底から喜びが溢れてきて涙が溢れてくるのを止められなかった。


 天堂くん。良かった。


 ◇◇◇◇◇

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