第86話 思わぬ結末1
◇◇◇◇◇
龍太郎と宝生の勝負が始まった。
まず、北斗の開始の号令と共に、ややフライング気味に宝生が間合いを詰めて、龍太郎を殴りかかっている。
相変わらず、宝生は笑みを浮かべたまま。
宝生は先制を取ったことで、すでに勝負あったと言う感覚で余裕がある様子。
少し、初動の遅れた龍太郎は受け身に回る。
宝生:「ほらよ!これでどーだよ!」
宝生の拳が龍太郎の頬に当たると思いきや、龍太郎はスレスレ間一髪でそれを避けた。
ほぅ。今のを避けたか。
見ていた北斗も一瞬で決まったかに見えたが、なんとか龍太郎は持ち堪えた。
宝生は、この模擬戦に慣れているのか、北斗の開始の号令の始め!の〈は〉の音と同時に、攻撃に入っていた。
そのため、一瞬出遅れた龍太郎は防戦を余儀なくされてしまった。
最初の攻撃は間一髪避けたはずだったが、龍太郎の頬が切れて血が大量に流れている。
龍太郎:『危ねぇ!油断した〜!』
宝生は、今日は少し調子が悪く動きが重いと感じつつも、怒涛の攻撃を続けていた。
それを龍太郎は、拳を紙一重で避け、また蹴りについてもキチンと足で防御して、ダメージは最小限に留めている。
北斗と南斗から見ると互角の対決に見えていた。ただ、やや、宝生の方が優勢か?
一方、少し遠くから見ているカレンたちには、2人の動作が速すぎて何が起こっているのかわからない。
それほど、2人の体術戦は異常な速度で繰り広げられていた。
カレン:「ねえ、美紅ちゃん、見えてる?」
美紅:「いえ、全く。」
心配そうに見つめるカレン。
途中、宝生の攻撃を受けた龍太郎の頭の中で機械音が鳴る。
〈ピピプピプ……他者の超能を確認!〉
〈超能【暗黒騎士】は登録出来ませんでした。〉
『何?こいつのスキルも登録できないじゃん!?なんで?』
世の中には登録出来ないスキルも存在するみたいだ。ブルーノの場合は、なんとなく魔人だからかなぁと理解したけど、どういう仕組みなんだろうか?
AI:〈マスター!勝負に集中して!〉
龍太郎:『あ!悪い。そうだな!』
宝生の方は、一方的な怒涛の攻撃の中で、すでに勝負はついたと思っている。
ふっ。小蝿も以前よりは強くなってるみたいだけど、やっぱ僕って天才!
今回も楽勝だな!
そろそろ、決着つけますか!
片や、終始受け身に回っている龍太郎の方は?と言うと?
おいおい!なんだよ!こいつ!?
どうなってんだ!?これマジなのか?
遅ぇ〜よ!マジくそ遅ぇ〜!
しかも、攻撃がすごく単調だし!
よく、こんなので、自信満々に余裕ぶっこいてたな!マジ、ダセェ!
攻撃の威力は強いが、こんな単調な攻めでなんとかなると思ってんのかよ?
どうなってんだよ!おい!
龍太郎は、これほどまでに差が埋まっているとは想像してなかったがために、逆に宝生の実力に驚愕していた。
龍太郎は、一旦、後ろに飛び下がり、素早く左ジャブを放った。龍太郎の最初の攻撃。
これが、宝生の鼻先にヒットした!
宝生の鼻からは、赤い液体がタラリ。
これには受けた宝生の方がビックリして目を向いている。
龍太郎は間髪入れずに、渾身の右ストレートを放つと見せかけて、それをガードしに行った宝生の脇腹に渾身の左ボディフックを炸裂させた。これもクリーンヒット!
その攻撃に宝生は、勢いよく後ろに吹き飛ぶも……。
龍太郎:『硬ぇ!痛ぇ!』
龍太郎の放った渾身の左ボディフックは、綺麗に決まったはずだったが、宝生の装備の防御力が優れており、あまりダメージを与えられなかったばかりか、逆に龍太郎の拳の方が大きなダメージを喰らった。
ほぅ。予想外に天堂の方が体術戦に慣れているようだな。
ただ、あの音からして拳をやられたな。
北斗もこの攻撃で見る目が変わった様子。
龍太郎:『くっそ!左拳が逝ってしまったぞ。
ここで治癒浄化空間を使うわけにはいかないしなぁ。右のみでなんとかするか。』
片や、宝生はノーダメだったにも関わらず、龍太郎の攻撃を喰らったことに精神的ダメージを受けていた。
宝生:「はぁ!?天堂!貴様ぁ!」
すぐさま、宝生はさらに激怒の攻撃を仕掛けるも、龍太郎が難なく避けていく。
そこに宝生の左ストレートに合わせて、龍太郎が右ストレートのクロスカウンターを叩きつけるように炸裂させた!
それは綺麗なタイミングで宝生の顎にクリーンヒットした。
宝生は勢いよく地面にめり込むように頭から倒れ込み、そのままダウンした。
北斗:「そこまでだ!」
龍太郎が、さらに追い討ちを掛けようとしているのを見て、北斗はすかさず終了の合図を出したのだった。そして勝負は終了。
合図を聞いた龍太郎は、一瞬呆然となったが、自分の勝ちだと分かって右手を高々と上げて大きく叫んだ。
龍太郎:「よっしゃ〜!勝ったどー!」
それを見たオーディエンス部隊は一斉に飛び上がって抱きついて喜んでいる!
一瞬、意識が飛んでいた宝生は、一人だけ状況がわかっていなかったが、目の前で右手を上げて叫ぶ龍太郎の姿を見て、自分が負けたことを把握したのだった。
宝生はすぐさま立ちあがろうとしたが、意識とは裏腹に足に来ていて、思うように立ち上がれない。
宝生:「おい!待て!待てよ!
まだ終わっちゃいないぞ!
まだ、やれる!僕はまだやれる!」
宝生の叫びが虚しく響く。
そして、北斗が声をかけた。
北斗:「舞夢よ。お前の完敗だ。
俺が止めなければ、お前は病院送りだった。
結果を受け止めろ。
そして、もっと、強くなれ。」
その状況を見ていた龍太郎は、北斗のイメージはやはりそんなに悪くないのかもと思った。
何が真で、何が虚か。
やはり、人って難しい。
宝生:「嫌だ!こんな結果は納得しない!
天堂!お前なんかに!お前がいなければ!」
そう言うと、興奮気味の宝生は、両腕を上げて両手のひらを龍太郎に向けた。
それを見た北斗が叫んだ!
北斗:「止めろ!舞夢!」
龍太郎は、真っ黒な球体に包まれた。
そして、その後、その真っ黒な球体は一瞬で跡形もなく弾け飛んだ。
それを見ていたオーディエンス部隊は先程まで抱き合って喜んでいたのとは対照的に、大きな悲鳴をあげた。
4人娘:「「「「きゃーーーーー!」」」」
この真っ黒い球体の正体は、宝生が持つ暗黒騎士の能力で一旦発動すると止められない。
宝生が名付けた名は〈ビッグバン!〉
球体の大きさは、最大で人間の大きさくらいは丸ごと包み込めるほどになる。
その反面、魔力量の消耗は異常に激しく、あまり使えないとっておきの最終手段だった。
それを怒りに任せて、事もあろうことか、龍太郎という人間に対して発動してしまった。
それほどまでに、プライドが高く、挫折を知らない宝生の思考状態は、今回の勝負で激しく混乱していた……。
また、この能力について事前に知っていれば、龍太郎なら避けられたのかもしれない。
が、何も知らない龍太郎は、その宝生の振る舞いが何を意味するのかがわからなかった。
ただ、その行動を不思議そうに見ていた。
そして、黒い球体ビッグバンの弾け飛んだ後には、何も残っていなかった。
龍太郎は木っ端微塵に吹き飛んでいた。
いや、むしろ、存在自体が消去されたと言った方が正しいかもしれない。
それを見たカレンは、その場に膝から崩れ落ち、半ば放心状態になっていた。
カレン:「嘘……天堂くん……。」
カレンの頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。
ネオ・ダイアモンズの4人娘も突然の最悪の出来事に驚き、抱き合って泣き崩れた。
4人娘:「「「「先生ーーー!」」」」
美紅も同様に泣きながら、カレンに抱きついている。
一体、これほどまでに残酷な結末があっていいのだろうか?
束の間の喜びが、一瞬で脆くも崩れ去った瞬間だった……。
北斗:「舞夢!お前、何をしたのかわかっているのか!?」
普段、あまり感情を表に出さない北斗が、舞夢の胸ぐらを掴んで叫んでいた。
南斗:「北斗!これは流石にマズいぜ!」
宝生には、もうその北斗の叫びは聞こえてなかった……。
最大出力でビッグバンを発動した宝生は、目を開けながら、意識はすでに宝生から切り離されていた。
宝生vs龍太郎 龍太郎の勝利
ただ、そこに龍太郎の姿はなかった……。
◇◇◇◇◇
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