第83話 初めての……

 ◇◇◇◇◇


 美紅からの思わぬ発言にカレンはどうするのか、迷っている。

 本当はカレンも早く合流したい……。


カレン:「でも、舞夢もすでにAランクになってるみたいだし、あれからもレベルが上がってるかもしれないし。」


 華那は端末を叩いた。


〈クラン:検索結果〉


【クラン】国士無双

【登録日】2030年10月10日

【ランク】A

【代 表】喜多川北斗(A:1)

【メンバ】喜多川南斗(A:2)

 ・

 ・

【メンバ】宝生舞夢(A:88)

 ・

 ・


華那:「本当だ!もう88位だって!

 彼って龍太郎先生とカレンちゃんと同じ歳だよね?」


玲奈:「こういう人をエリートって言うんだね?

 私たちとは正反対の位置にいる人だ。」


 4人娘も宝生のことは知っている。

 それくらい有名人なのだ。


華那:「でも、私たちは先生の凄さも知ってるから、雲の上の存在って感じだと同じくらいだね。」


 これにはカレンも首を傾げた。


カレン:「でも、天堂くんもまだレベル5でしょ?

 私たちと同じくらいじゃない?

 いくら凄いって言っても、個体強度の差は埋まるかどうかわからないし……。」


華那:「あれ?先生、まだ言ってなかったの?」

詩音:「先生って今はレベル20だよ。」


カレン・美紅:「「え?」」


 カレンと美紅は、唖然とした表情で龍太郎の顔を見て驚いている。


カレン:「嘘?なんで?私が天堂くんと会った時はまだレベル1だったよね?」


美紅:「そんな短期間で上がっちゃうもんなの?

 あんた、みんなを騙してるんでしょ!?」


龍太郎:「いや、騙してないぞ。

 確かにちょっと前まではこいつらと同じレベル4だったんだけど、いろいろあってだな。

 最近、一気に上がったんだよ。」


美紅:「えー!一気に16レベルも上がるって、どんだけいろいろあったって言うのよ!?」


龍太郎:「正直に言うから、このことは秘密だぞ。」


 それから、龍太郎はファーストダンジョンであった出来事をブルーノの件は伏せて話した。


美紅:「マジで!?」


龍太郎:「ああ、マジだ。協会も知ってる。」


 さらにカレンと美紅は目が点……。


 少しの沈黙ののちに、カレンが意を決して喋り出す。


カレン:「天堂くん。正直言うと私もそろそろ合流したいかなって思ってるんだよ。

 ちょっと、羨ましかったんだよね。

 私が天堂くんを誘って、一緒にやっていくって決めたのに、どんどん先に行っちゃうし、置いていかれるし、楽しそうだし。

 それに天堂くん、言ってくれたよね?

 迎えに来てくれるって……。

 ごめんね。これじゃ、美紅ちゃんのこと言えないね。」


龍太郎:「ああ、言ったな。俺も悪いと思ってるよ。

 俺が勝手に決めて、勝手に宝生と勝負して、勝手に負けて、勝手に出て行ったからな。」



美紅:「……で、あんた、どうすんのよ!」


龍太郎:「お前に言われなくても、わかってるわ!」


 珍しく、龍太郎が声を荒げた。

 美紅はビックリして悲鳴を上げた。

 ただ、龍太郎も自分のせいだと思ってる。


龍太郎:「悪い。つい、大声出してしまった。

 夢咲さん。宝生に連絡してくれるか?」


カレン:「天堂くん……。

 わかった。ごめんね。」


 カレンはスマホを取り出して、宝生に電話した。


 プルプルプルプルプルプルプルプル。


宝生:『あ!カレン姫!珍しいね。嬉しいよ。

 突然どうしたんだい?

 ついに決心がついたかな?』


カレン:「舞夢。いたんだね?」


宝生:『ああ、ちょうど帰ってきたばっかでさ。

 今、クランハウスにいるんだよね。

 結構大変だったよ。

 もうさ。一回出たらなかなか帰って来れないじゃない?

 なのに、カレン姫の電話のタイミングにこっちにいるって、運命感じちゃうよね?

 それで、今どこにいるのよ?』


 宝生は突然のカレンからの電話にハイテンションモードになっている。


カレン:「私もクランハウスにいるんだけどね。

 ちょっとお願いがあって。」


宝生:『ん?何何?なんでも言ってよ。

 何か欲しいものでもあるのかな?』


カレン:「天堂くんのことなんだけど。」


宝生:『ん?天堂!?あいつがどうしたのさ!?』


 先程と変わって、宝生の口調が激しくなる。


カレン:「天堂くんともう一度勝負して欲しいの。」


宝生:『はあ!?それは無理だね。

 もう勝負はついてる。

 いまさら、勝負する理由がないだろ?』


カレン:「そうなんだけど……。」


宝生:『あいつ、まだ、そんなこと言ってるのかよ!

 ふざけたやつだな!

 あんなポンコツとは2度とごめんだね。

 まさか、あの小蝿と会ってないだろうね?』


 龍太郎は小蝿と言われてカチンと来た。


龍太郎:「ああ、ここにいるぞ!」


 カレンの会話はスピーカーフォンになっていたので、つい会話してしまう龍太郎……。


宝生:『お前!なぜ、そこにいるんだ!?

 カレン姫に近づかない条件だったよな!』


カレン:「舞夢!違うでしょ!

 あれで天堂くんはクランを脱退したのよ。

 それが条件だわ。」


宝生:『ん?そうだったっけ?

 でも、なんか腹立つなぁ。

 カレン姫と一緒にいるって。

 で、また小蝿はやられたい訳?』


龍太郎:「小蝿じゃねえ!やられたい訳でもねえよ!

 もう一度勝負だ!宝生!」


宝生:『うーん。ダメだね!』


龍太郎:「怖いのか?」


宝生:『怖い訳ないじゃん!お前、馬鹿か!

 お前と勝負するメリットが無いんだよ!

 弱いくせにいい気になるなよな!』


龍太郎:「弱いかどうかやってみればわかる。」


宝生:『はぁ!?ムカつく!』


 そのあと、宝生の無言が続いた。

 電話は切れていないみたいだが……。


龍太郎:「おい!宝生!」


 呼んでも、全く返事がない……。



 しばらくして、宝生が突然喋り出した。


宝生:『天堂!お望み通り勝負してやるよ。

 ただし、条件があるからな。

 明日の正午12時、ゲート内の販売ショップ前にカレン姫と一緒に来い。』


 どういう風の吹き回しだ?

 長い沈黙の後、急に勝負に応じると言う。


龍太郎:「ああ、わかった。条件はなんだ?」


宝生:『来た時に言う。じゃあな。』


 そして、電話が切れた。


カレン:「天堂くん……。」


龍太郎:「ああ、よくわからないけど、結果、勝負することになったな。ついにか。」


カレン:「うん。でも、条件ってなんだろうね?」


龍太郎:「まあ、碌でもないことだろ?

 夢咲さんに会うなとか。

 こっちの条件は決まってる。

 夢咲さんの合流だ。」


カレン:「天堂くん。大丈夫かな?」


龍太郎:「ああ、任せとけ!もう失敗はしない。

 じゃあ、せっかくのパーティだけど、俺抜きでやってくれ。俺は帰る。」



 空気を読んで、詩音が返事をする。


詩音:「あ!うん。わかった。先生!頑張ってね。」


カレン:「じゃあ、私も帰るね。

 美紅ちゃんは残って。」


美紅:「え?カレンさんも帰っちゃうんですか?」


カレン:「うん。明日のことを考えるとね。」


美紅:「えーっと。はい、わかりました。

 天堂さん!私の合流もかかってるんだからね!勝ってよね!」


龍太郎:「お前のはついでだ。」



 そして、龍太郎とカレンは、ネオ・ダイアモンズのクランハウスを後にした。


 二人は並んで歩いているが、お互いに何も話せず、ただ、並んで歩いている。


 ……無言、きついな。


 ……なんか、話したほうがいいかな?



カレン:「天堂くん……。頑張ってね。」

龍太郎:「ああ。」


 また、無言になっちゃった。



カレン:「天堂くん?」

龍太郎:「何?」


カレン:「こうやって二人になるって久しぶりだね。」

龍太郎:「あ!本当だな。」

カレン:「出会った頃は、二人だったのにね。」

龍太郎:「確かに。」



カレン:「ねえ、こっち見て。」

龍太郎:「ん?何?」


 カレンが龍太郎の目を見つめる。


龍太郎:「ん?どうした?不安か?」

カレン:「正直言うと不安だよ。

 天堂くんと一緒にいたいし……。

 でも、天堂くんが頑張ってくれてるのに信じるしかないよね?」


 カレンは、龍太郎の歩いている正面に向いて立ち止まった。


カレン:「ねえ、天堂くん。私の目を見て!」

龍太郎:「ん?また第六感か?」


 カレンは、自分の顔を龍太郎の顔に近づけていった。

 そして、龍太郎の唇に軽くキスをした。


 ……え!?


 龍太郎は目が飛び出るくらいに驚いている。

 が、何も喋れないで立っていた。


カレン:「えーっと、ちょっと恥ずかしいね。

 勝利のおまじない……かな?

 じゃあ、明日ね。」


 そう言うと、カレンは真っ赤な顔で自分のクランハウスの方に向かって走り去って行った。


 龍太郎、人生で初めてのキス。

 何が何だか分からないうちに。

 それからも思考が追いつかないまま、少しの間、立ち尽くしていた。


 アイちゃん:ふふふ。マスター。

 ブルーノ:ほぅ。うぶいな。

 影武者龍次郎:……。(思考停止中)


 片や、カレンも初めてのキスだった。

 まさか、自分でもそんな気はなかったのだが、つい、キスしてしまった。

 全身から火が出る思いで走っている。


 20歳にもなって、初めてのキスってどんだけだよ!と思うなかれ。

 二人とも、人付き合いがそんなになかった故に、そういうことも経験してこなかったということです。


 嗚呼、青春の1ページかな。


 ◇◇◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る