第80話 協会に相談だ!

 ◇◇◇◇◇


 異世界ゲートを通って、現世界に戻ってきた龍太郎は、おもむろにスマホを取り出して協会の野神さんに電話をかけた。


 プルプル!ガチャ!


野神:『野神です。天堂くんね。

 今日はどうしたの?』


龍太郎:「野神さんに言いたいことと聞きたいことがあるんだけど。」


野神:『何かしら?』


龍太郎:「まず、ファーストダンジョンは無くなった。」


野神:『はぁ!?』


龍太郎:「それから、宝箱の開け方を教えて欲しい。」


野神:『はぁ……。』


龍太郎:「それから地球のことなんだけど、ちょっとヤバいことになってて。」


野神:『ちょっと待って!

 盛りだくさんすぎて追いつけないわ!

 天堂くん!今どこ?』


龍太郎:「ゲートから帰ってきたばかりだな。」


野神:『なら近いわね。

 今からこっちに来られる?』


龍太郎:「ああ、今から行くよ。」


野神:『はい、待ってますね。

 副会長室まで来てくれる?

 受付には言っておくから。』



 ◇◇◇◇◇



 探検者協会副会長室。


野神:「天堂くん。話してくれる?

 ファーストダンジョンが無くなったって言ってたけど。」


龍太郎:「ああ、跡形もなく消滅した。」


野神:「どういうこと?」


龍太郎:「たぶん。ボス部屋を壊したからかなぁ?」


野神:「はぁ!?ボス部屋って壊せるの?」


龍太郎:「うーん。正直に話すから驚かないでくれ。

 今日、ソロでボス部屋に行って、ドッペルゲンガーを討伐してきたんだけど……。」


野神:「ちょっと待って!待って!

 あなた、ドッペルゲンガーを倒したの?」


龍太郎:「ああ、2回ほど。」


野神:「2回!?

 はぁ……呆れたわ……。

 もう、驚くに決まってるでしょ!

 まあ、よく無事で帰れたわね。

 それがせめてもの救いね。」


龍太郎:「ああ、お千代さんにも言われたよ。

 てっきり、お千代さんが複数回討伐してると思ってさ。

 でも、聞いたら1回だけなんだってさ。

 正直、危険だったと思ってるよ。」


野神:「それはそうね。

 今までお千代さん以外に討伐したことがないんだからね。

 その頃、お千代さんの討伐の情報が出回って、挑戦したエクスプローラはたくさんいたけど、みんな帰らぬ人になってしまったのよ。

 それ以来、挑戦する人はいないと思っていたけど、ひょっとしたら知らないだけかもね。

 あとで再度通知しておく必要があるわね。

 それで、ダンジョンが消滅したってどう繋がるの?」


龍太郎:「ああ、3回目のボス部屋で……。」


野神:「3回目!?ちょっと!待って!

 はぁ……あなた、3回も行ったの!?

 本当に呆れたわ。

 もういいわ。驚くだけ損よね。

 続けてちょうだい。」


龍太郎:「ああ、3回目のボス部屋で、ドッペルゲンガーを精神支配したら、魔人だったんだ。」


野神:「はぁ……魔人ね。

 はいはい、続けていいわよ。

 まずは聞くだけ聞くわ。」


龍太郎:「その魔人を倒さないとボス部屋出られないと思ったんだけど、魔人がボス部屋を壊しちゃったんだよな。

 それで、急いでダンジョンを出たんだけど、そのあと消滅したんだ。」


野神:「わかったわ。

 ファーストダンジョンはもう無いのね。

 あとで全員に通知しておくわ。

 自然消滅ということにしておきましょう。

 ボス部屋を壊したなんて、誰も信じないでしょうから。

 それで、魔人はどうなったの?

 というか、魔人って何?」


龍太郎:「ああ、これも言っておきたかったことの一つなんだよ!

 魔人ってブルーノって言うんだけど、そのブルーノの話だと……。」


 龍太郎は、ブルーノに聞いた世界の成り立ちについて紗英に話した。


龍太郎:「な!まずいだろ!

 これも誰に話したらいいかわからなくってさ。でも、野神さんしかいないかなって。」


 紗英は、とても信じられないと言った表情で龍太郎の顔を見ている。


野神:「はぁ……。もう、どれだけ驚かせば気が済むのかしら……。

 天堂くんが嘘を言わないことはわかってるけど、事が大き過ぎるわ。

 ちょっと、待ってくれる。」


 紗英はスマホを取り出して、どこかに電話をかけた。


 プルプル!プルプル!ガチャ!


工藤:『おぅ、紗英か?どうした?』

野神:「今すぐに来てちょうだい!」

工藤:『はぁ!?用件はなんだ?』

野神:「いいからすぐに来て!」

工藤:『ああ、わかったよ。』


 プープー。


 バタン!


工藤:「おい!なんだよ!いきなり!

 おぅ。天堂か。なんかやらかしたか?」


 工藤は、隣の会長室に居たようで、すぐさま飛んできたようだ。


野神:「いいから、座ってちょうだい。

 やらかしたレベルの話じゃないから。」


工藤:「何なんだよ!」


野神:「天堂くん。さっきの話をもう一度話してくれる?」


 龍太郎は、さっき言ったファーストダンジョンが無くなったこととブルーノから聞いた世界の成り立ちについてもう一度話した。


 工藤のリアクションは凄まじく、紗英の比ではないくらい驚いていたが、その都度、紗英が黙って聞くように宥めていた。


 そして、龍太郎が一通りの話を終えて……。



工藤:「はぁ……。黙って聞くのが苦痛だったぜ。」


野神:「でしょうね。私も同じ気分よ。

 気持ちがわかったでしょ?

 で、その魔人はどうなったの?」


龍太郎:「その魔人ってブルーノね。

 今は俺の中にいる。」


工藤:「はぁ!?どういうことだ。

 お前の中って、未婚の母になったのか?」


龍太郎:「違げぇよ!そんなわけねぇだろ!

 俺の影の中だよ!」


工藤:「はぁ。そういうことか。

 まあ、それでも十分におかしいがな。

 だと危ないんじゃないか?」


龍太郎:「いや、どうも人間界だと出てこれないらしいんだ。それに俺の仲間というか従者みたいな感じだから、ブルーノは信用していいぞ。」


工藤:「人間界ってのも不思議な感じだな。

 まあ、いろんな世界がありゃ、そういう言い方になるのか。」


 2人には、ブルーノが仲間になった経緯を話した。


工藤:「なるほどな。天堂が異常なことは十分にわかったよ。もう、驚かねえ。

 紗英、どうするよ。

 俺たちでも、これは手に負えないぜ。」


野神:「そうよねぇ。流石にねぇ。」


 紗英は、困った顔をして考えている。


野神:「一度、乃亜のあに聞いてみるわ。」

工藤:「そうだな。こういう内容なら、三上みかみくらいしかいないか。」


龍太郎:「ちょっと待ってくれ!その三上乃亜さん?って人は信用できるのか?」


野神:「ええ、大丈夫よ。私たちと同じ協会発足時の古株よ。工藤ともう一人の同志って感じね。

 今は日本探検者研究所の所長をやってるわ。

 彼女は信頼できるわ。保証する。」


龍太郎:「うーん。わかった。

 くれぐれも墓場案件だから、俺のことはバレないようにしてくれよ!」


野神:「承知してるわ。

 でも、事が大きすぎて、協力者は必要よ。

 とても、放置しておける案件ではないから。」


龍太郎:「そうだな。じゃあ、野神さんを信用するよ。」


野神:「でもね。これは地球の存亡に関わる案件だわ。ことによってはWEAの協力が必要になってくる可能性はあるの。

 その覚悟もしておいてちょうだい。

 もちろん、勝手には行動に移さないから。」


龍太郎:「うーん。わかった。しゃーないな。」


野神:「あとは何だったかしら?」

工藤:「は!まだあるのかよ!」


 工藤は呆れている。


龍太郎:「ああ、宝箱の開け方を教えて欲しいんだよ。」


野神:「ドロップアイテムね。開かないの?」


龍太郎:「ああ、開かない。開け方もわからない。」


野神:「聞いたことないわね。」


龍太郎:「なんか文字が書いてあるんだけど。」


野神:「へぇ。それも聞いたことないわね。」


龍太郎:「そうか……。せっかく初のドロップアイテムだったのに!」


野神:「どんな文字が書いてあったの?」


龍太郎:「うーん。ちょっと待って!」


龍太郎:『アイちゃん!どんなだったっけ?』


AI:〈マスター。こんな感じだね。〉


龍太郎:『お!サンキュ!』


 龍太郎は、紙とペンを借りて宝箱の一面に書かれた文字を写した。


野神:「文字といえば文字だけど、ちょっと見たことのない形ね。

 わかったわ。これも乃亜に聞いてみるわ。」


龍太郎:「お!サンキュ!」


野神:「これで終わりかしら?」

工藤:「もう終わりにしてくれ!」


龍太郎:「そうだな。もう帰るわ。」


野神:「じゃあ、何かわかったら連絡するから、そっちもまた何かあったら、何でもいいから連絡してちょうだい。」


龍太郎:「ああ、わかった。ありがとう!」


 龍太郎は、副会長室を出て行った。


工藤:「おい!野神よ。

 天堂は、本当に何者なんだ?」


野神:「そうね。あの性格じゃなければ、大変なことになっていたでしょうね。

 少なくとも、私たちにとっては幸運だったんじゃないかしら?」


工藤:「ああ、そう思うぜ。

 あれはお千代さんでも抑えが効かない存在になりつつあるぞ。」


野神:「そうね。お千代さん、源さんに匹敵する重要人物には違いないわ。いえ、それ以上ね。

 ただ、あまり公にならないように注意するわね。」


工藤:「ああ、それがいいだろうな。

 世界レベルでヤバいことになる。

 三上にもその辺は周知しとけよ。」


野神:「なら、工藤から彼女に言ったら?」


工藤:「いや、やめとく。お前から頼むよ。」


野神:「ふふふ。そうするわ。」


 このあとすぐに、協会から日本所属の全エクスプローラに対して、ファーストダンジョンが消滅した事実が通知された。


 ◇◇◇◇◇


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