第79話 ブルーノ、かく語りき2

 ◇◇◇◇◇


 ブルーノとの会話の続き。


ブルーノ:『天啓か?聞いたことがないな。

 まあ、人間界の地球というところでは、我の知らぬなんらかの力が働いているということだな。』


龍太郎:『そうか。地球が特殊ってことか。』


AI:〈うん、そうだね。〉


 これ以上、この話題は避けたいな。

 たぶん、マリアの組織が関係してるはず。

 僕も詳しくは知らないけど。


ブルーノ:『主よ。何か他に聞きたいことはあるか?』


龍太郎:『うーん。そうだな。

 侵食って、どういう意味だ?』


ブルーノ:『おー、それか。

 魔界が創生する魔物界とは別に、例外的に魔物界を増やす方法が、侵食だな。

 新たに創生するより、圧倒的に簡単だ。

 境界門から魔物や魔獣を送り込み、人間を根絶やしにした上で、同時に魔素を送り込むことで、人間界の生物を魔物や魔獣に変えて行く工程のことだ。』


龍太郎:『げ!そんなことになったら大変だぞ!

 地球が魔物界にされるってことかよ!

 くっそ!ふざけるな!』


AI:〈マスター!落ち着いて!〉


龍太郎:『ああ、アイちゃん。

 これはマズいぞ!

 でも、俺にはどうしたらいいかわからん!』


AI:〈そうだね。個人でどうにかなるモノではないよね?

 そうすると野神さんかなぁ?〉


龍太郎:『そうだな。でも、どうやって話せばいい?

 こんな話、信じられるか?』


AI:〈もう信用して、そのまま話すしかないよね?〉


龍太郎:『そっか。ならそうしよう。

 地球の危機だからな。

 隠しても仕方がないよな。』


ブルーノ:『そうだな。我も協力しよう。

 地球は、最初の総攻撃に耐えたようだしな。

 地球には、それに対抗できる戦力があるのだろう。』


AI:〈それって、地球で言うと20年前だね。

 確かにそれが最大の厄災だったよね。〉


龍太郎:『ああ、俺の生まれた年だ。』


ブルーノ:『そうか。

 今で侵食が始まって20年か。

 侵食は最初に最大の攻撃を仕掛ける。

 だいたい、ここで決着がつくのだよ。

 それに耐えるとそこからの侵食は時間をかけて行うみたいだな。

 魔人にとって、20年はさほど長くはない。

 消耗戦に持ち込むということだな。』


龍太郎『魔人か……。魔人は長生きなのか?』


ブルーノ:『そうだな。自分の年齢を忘れるくらいには長命だな。人間とは比べ物にならん。』


龍太郎:『ブルーノは魔界で何があったんだ?』


ブルーノ:『我は嵌められたのだ。

 我は自分で言うのもなんだが、真っ当に生きてきた。だが、他の貴族にあらぬ疑いをかけられて、家族、一族みな処罰され、我だけが、魔回廊に落とされた。

 そして魔人の中でも元々少ないシャドウ種族は我一人になった。』


龍太郎:『そうか。悪い貴族がいたんだな。

 それにしても、ブラックな社会だな。』


ブルーノ:『そうだな。今となってはどうしようもないが……。』


 なんとも言えない空気が流れた……。



龍太郎:『そう言えば、ブルーノは元貴族魔人だよな。

 ここは居心地が良くないんじゃないか?』


ブルーノ:『ああ、そうだな。

 ダンジョン内ではさほどでもなかったが、ここ平地に至ってはかなり居心地が悪い。

 まあ、主が近くにいることでだいぶと緩和はされているようだが。』


龍太郎:『そうすると人間界だともっとだよな?』


ブルーノ:『ああ、人間界では我は活動できない可能性があるな。』


龍太郎:『それは困ったな。』


ブルーノ:『そこでだ。我は主の影の中に潜むことにするぞ。』


龍太郎:『そんなスキル持ってんのか?』


ブルーノ:『スキルではない。

 我々シャドウ種の特徴とでもいうものだ。

 我の固有超能スキルは別にある。』


龍太郎:『え?スキルなら〈擬態〉だよな?』


ブルーノ:『そんなスキルは持っておらんぞ。』


龍太郎:『嘘!』


 ちょっとスキル鑑定!

 ん?〈擬態〉じゃない!

 〈黒雲雷武こくうんらいぶ〉!?

 〈擬態〉はどこ行った?

 まあ、すでに登録済なんで別にいいけど。


龍太郎:『なんかすごそうなスキル持っておられるようで。』


ブルーノ:『主は他者のスキルを視ることが出来るのか?

 そうだな。我のスキルは、かなり特殊な部類だと思うぞ。

 貴族魔人になるようなものは、大体がユニークなスキルを持っておるものだ。』


龍太郎:『ついでに登録なんかも出来ちゃうんだぜ!

 ブルーノ!握手!』


ブルーノ:『ああ、よくわからんが。』


 龍太郎は、ブルーノと握手!


 ほら来い!来い!


〈ピピプピプ……他者の超能を確認!〉

〈超能【黒雲雷武】は登録出来ませんでした。〉


 はい!登録!って……。

 ん……?はい!?


AI:〈あらら……。〉


龍太郎:『こういうこともあるんかい!』


ブルーノ:『どうした?』


龍太郎:『登録出来なかった!』


ブルーノ:『登録とはなんだ?』


AI:〈マスターは、他人のスキルを登録出来るんだよ。そして、条件が揃えば、それを開放して使えるようになるんだけど、ブルーノのスキルは登録出来なかったみたいだね。〉


ブルーノ:『ほぅ。それはすごい能力だな。

 しかし、我のスキルは登録出来なかったか。』


龍太郎:『ああ、登録出来なかったのは、ブルーノが初めてだぞ。ショック大。』


ブルーノ:『ということは、主は複数のスキルを持っているということか?』


龍太郎:『ああ。結構増えたな。』


 龍太郎は、持っている大まかなスキルをブルーノに説明した。


ブルーノ:『それは……。

 我の知る限り、魔人の中でもスキルを複数持つものはおらんはずだ。

 末恐ろしい能力だな。』


龍太郎:『そうなのか?

 やっぱり、墓場案件だよなぁ。』


ブルーノ:『主よ。そろそろ良いか?』


龍太郎:『ん?何が?

 ああ、いいぞ。』


 ブルーノは、龍太郎の影の中にスルスルっと入って行った。

 龍太郎には何も感じないが……。


ブルーノ:『おぅ。これは素晴らしいな。

 主の影の中は快適だな。』


龍太郎:『ふーん。そうか。なら良かったよ。

 ってか、影の中でも会話できるんだな。』


ブルーノ:『これは念話だからな。』


龍太郎:『それじゃ、今日はもう帰るか!

 ファーストダンジョンが消えちゃったしな。』


 龍太郎は、スキルを使って一瞬で異世界ゲート前の販売ショップ付近に転移した。


 おー!すごい時短!

 これなら今後の探検もいい感じになるな!


 これとは別に直接クランハウスに転移しようとしたが、流石に異世界から現世界への転移は出来ないみたいだった。

 この辺は、若干の制約があるみたいだ。



龍太郎:『ちょっと、販売ショップに寄っていくからな。』


 そう言うと、龍太郎は販売ショップに入っていった。

 今日の販売員はお千代さんであることは、来た時に確認済みだ。


龍太郎:「お千代さん!ちょっといいか?」


千代:「また来たんかい。

 今日は帰りが早いじゃないか?」


龍太郎:「ああ、ちょっとトラブルがあってな。それで聞きたいことがあるんだけど。」


千代:「なんだい?」


 龍太郎は、収納箱から宝箱を取り出してお千代さんに見せた。


龍太郎:「これ、なんだかわかる?」


千代:「宝箱だね。珍しいねぇ。

 それがどうしたんだい?」


龍太郎:「ドロップアイテム。

 ファーストダンジョンの。」


千代:「もしかして、ボス部屋じゃないだろうね?」


龍太郎:「ああ、そうだな。」


千代:「まさか、ソロで行ったんじゃないだろうね?」


龍太郎:「なんとか倒せた。」


千代:「お前!あれほど行くなと言っておいたのに。

 まあ、無事だったなら良かったよ。

 もう行くんじゃないよ。

 あいつは化け物だからねえ。

 まあ、1回で帰ってきたってのは褒めてやるよ。」


龍太郎:「いや、2回倒したぞ。」


千代:「はぁ!?お前、2回も行ったのかい?

 はぁ。本当にもう……。

 よく無事で済んだねぇ。肝が冷えるよ。」


龍太郎:「いや、行ったのは3回だな。

 倒したのは2回だけど。」


千代:「……。お前、頭がおかしくなったんかい?」


龍太郎:「何がだよ!頭は悪いけど、おかしくはなってないぞ!」


 お千代は、無言で龍太郎を見ている。


千代:「はぁ。確かにお前は嘘をつく子ではないよねぇ。本当なのかい?」


龍太郎:「ああ。本当だ。嘘つくわけないだろ!」


千代:「3回も行く時点でバカだけどねぇ。

 呆れてモノも言えんわ。」


龍太郎:「お千代さんだって、何回か周回したんだろ?

 じゃあ、お千代さんも同じだな。」


千代:「お前、そんな噂を信じとったんかい?

 私は1回しか行ってないよ。

 あんなところ、2回も行くなんざ、バカのやることだよ。」


龍太郎:「えー!マジか!?」


千代:「そうだよ。噂さ。私は1回だけ。

 もっと言うと他に討伐に成功した奴はいないよ。お前が2人目だよ。

 しかも、2周回したとなったら、お前が初めてだよ。全く。」


龍太郎:「……。」


千代:「無知ってのは怖いねぇ……。

 本当に生きてて良かったよ。

 で、この宝箱がどうしたんだい?」


龍太郎:「ああ、これ開かないんだよ。

 で、お千代さんなら開け方知ってるかなと思ってさ。」


千代:「知らないねぇ。実物は初めて見たよ。

 そうだねぇ。なら、紗英ちゃんに聞いてみるかねぇ。」


龍太郎:「紗英ちゃんって、協会の野神さんか?」


千代:「知ってるのかい?

 だったら、紗英ちゃんに直接聞いてみるといい。あの子にわからなかったら、まずわからないよ。」


龍太郎:「そっか。だったらそうするよ。

 他の用もあるしな。ありがとな。」


 龍太郎は、要件が済むとさっさと出て行った。


 全く、どうなってるのかねぇ?

 そういえば、3週目って言ってたねぇ。

 討伐もせずにどうやって出てきたんだろうねぇ?

 まあ、今度会ったら、もう行かないように釘を刺さないといけないねぇ。


 実は、もうすでにファーストダンジョンは消滅して跡形もないのだが……。


 お千代さんの心配をよそに龍太郎は、異世界ゲートを通って現世界に戻って行った。


 ◇◇◇◇◇

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