第77話 ファーストダンジョン7

 ◇◇◇◇◇


 龍太郎、影武者龍次郎、第3周目ボスバトルの巻。


 大きな扉がさらに大きく見える。


龍太郎:「龍次郎。大丈夫か?」

龍次郎:「ああ、大丈夫だ。」


 レベル100対レベル20。

 普通に考えれば、かなり無謀な挑戦だが龍太郎には秘策があった。


 再度、龍太郎と龍次郎は、お互いに鼓舞を掛けていざ出陣の時!


 龍太郎はゆっくりと扉を開ける。

 本日3回目のボス部屋突入!


 中央にレベル100ドッペルゲンガーが、ゆっくりと姿を現す。

 レベル100だけあって、今までより威圧感がすごい。


 龍太郎は、まず重力操作マックスで自分と影武者龍次郎のスピードアップ!

 さらに重力操作マックスでドッペルゲンガーのスピードダウン!


 念のため、プランBに突入した場合のお膳立ては完了した。

 ただ、どれくらいレベル差が埋まったかというと、全くの未知数で想像できていない。

 突入してしまえば、一か八かの戦闘になることは容易に想像がついた。


 さらにさっきの戦闘において、すでに超覇気は効かないことがわかっているので使えない。

 本当に薄氷の賭けでしかない。


 頼むぞ!なんとか成功してくれ!


 行くぞ!


 支配!!


 龍太郎は、今まで温存していた支配スキルをドッペルゲンガーに向けて放った。


 支配スキル。

 洗脳スキルと催眠スキルの合成によって出来たスキルだが、少し特殊な条件に変わっていた。

 洗脳も催眠も使えなくなる代わりに、人間、もしくはその他生物1体のみに対して、完全に精神を支配できるというものであった。

 この恐ろしいスキルを使う機会があるとすれば、ここしかないと龍太郎は思っていた。

 そして、初めて使った支配スキルはレベル100ドッペルゲンガーに通用するのかも、全くの未知数。いわゆる賭けであったが……。


 どうだ!?


 ドッペルゲンガーは動かないが、何か苦しみ出したみたいだ。

 頭を抱えて、もがいている。

 と同時にドッペルゲンガーの体から強い衝撃波が発せられ、龍太郎と影武者龍次郎は後方に吹っ飛び、ものすごい勢いで壁に激突した。


 うわー!ドカーン!!


龍太郎:「痛ぇ!くっそ!龍次郎!暴走したぞ!」

龍次郎:「ああ!やべぇ!龍太郎!プランBだな!」


 すぐさま、2人は立ち上がり臨戦体制を取るが、凄まじいエネルギーの衝撃波で、ドッペルゲンガーに近づくことが出来ない。


龍太郎:「なんじゃこれ!?どうなってる?」


 衝撃波の向こうで、うっすら見えてきたのは、さきほどまで真っ黒龍太郎だったドッペルゲンガーが、モノトーンではあるが龍太郎とは違う人物に変わっているようだった。


???:『ここはどこだ?われに自我が戻ったのか?』


 なんだ?ドッペルゲンガーの声か?


 龍太郎の頭の中にドッペルゲンガーの声が聞こえている。


龍太郎:『おい!お前!』


 龍太郎も頭の中でドッペルゲンガーに声をかけた。聞こえているかはわからないが、アイちゃんに喋るのと同じ要領で。


???:『ん?人間か?あーっはっは。なるほどな!

 人間なのに大した魔力を持っているな!

 上位精神魔術の〈支配〉でわれを縛ったか?

 そして、お前が我のあるじということだな?……ふむ、面白い。

 まあ、そのおかげで我の自我が戻ったというわけだな。よかろう。』


 これって、支配が成功したってことか?


龍太郎:『龍次郎!支配スキルが成功したみたいだ。』


龍次郎:『ああ、そのようだな。』


龍太郎:『ちょっと、こいつと話してみるぞ!』


龍次郎:『ああ、わかった!

 いつでも行けるように待機しておく。』


 衝撃波が止んで、その中央にドッペルゲンガー改め、全身モノトーンのナイスミドルなおじさん?が立っている。

 いかにも中世貴族のような感じの高貴な出立ちだ。


龍太郎:『ちょっといいか?』


???:『我か?』


龍太郎:『ああ、お前ってレベル100のドッペルゲンガーだよな?』


???:『違うぞ。我は魔人だ。

 先程までは自我が失われていたがな。

 個体強度のことなら、レベル99だな。』


龍太郎:『魔人!?魔人ってあの魔界の住人?』


???:『ああ、そうだ。元住人ではあるがな。』


 ちょっと、よくわからんことになってきたぞ!魔人って本当にいたのか?


龍太郎:『よくわかってないんで、いろいろ聞きたいことが山ほどあるんだけど、とりあえずまず、俺に精神支配されたってことでいいか?』


???:『ああ、そのようだ。

 人間に精神支配されるとは思わなかったが、主なら仕方がないな。』


龍太郎:『それどういう意味?』


???:『主の魔力量のことだ。人間なのに魔王並みの魔力量があるようだ。』


龍太郎:『魔王?』


???:『ああ、魔界を統べる王のことだ。知らないのか?

 そもそも、ここはどこだ?』


龍太郎:『ここは、ファーストダンジョンの第三階層のボス部屋だよ。』


???:『どこだそれは!?

 お互いに聞くことが多そうだな。』


龍太郎:『ああ、とにかく支配されたということは敵ではないということだな。ナイス!

 でも、どうするかな?

 いろいろ、聞きたいことがあるけど、お前を倒さないとこの部屋を出れないんだよな。』


???:『そうなのか?それは困ったことだな……。

 主の命令には逆らえんのだが、せっかく、自我が戻ったのだ。他に方法はないのか?

 例えば、その扉を壊してしまうとか。』


龍太郎:『それが出来れば、苦労はしないんだけどな。』


???:『そうか。では、試してみよう。』


龍太郎:『へ?』


 モノトーンおじさんは、おもむろに扉の方に一瞬で移動したと思ったら、普通のグーパンチで扉を壊してしまった。嘘っ!?


 扉どころか、扉のある壁全体に穴が開いて、向こう側に転移ゲートが見えてますけど!?


???:『主よ!扉が開いたぞ!』


龍太郎:『ああ……。グッジョブ……。』


 こいつヤベェ!マジヤベェ!

 支配が効いてなかったら、瞬殺されてたぞ!


龍太郎:『ふぅ。ま、とりあえず部屋を出るか。』

 

 これって討伐成功ではないよね?

 レベルアップも失敗だよね?


???:『主よ!ここはダンジョンと言ったな。もうすぐ、ここは無くなるぞ。』


龍太郎:『へ?なんで?』


 言ってるうちにボス部屋が崩れ始めた!

 たぶん、強引にボス部屋を壊したからだ。


 龍太郎は、急いで扉の向こうにある転移ゲートで第一階層に戻り、さらにファーストダンジョンの入り口から外に出た。


龍太郎:『ふぅ!危なかった〜!

 まさか、崩れるとは思わなかったよ。』


???:『どのみち、我はどうにでもなったがな。主がいるところなら転移できるようだ。』


龍太郎:『へぇ。そうなのか。それは便利だな。

 ところで、せっかく仲間になったんだから自己紹介しておくか。

 こっちは、見えてないけど3人いるんだよ。

 お前で4人目な。

 まずは、俺が天堂龍太郎。まあ、人間な。

 そして、見えないけど、俺の隣のココ!(指を差してる)にいるのが、影武者龍次郎。

 俺の影武者ってスキルで出来た分身体。

 俺の戦闘パートナーだな。』


龍次郎:『龍次郎だ。よろしく!』


???:『ああ、よろしく頼む!

 なるほど、確かに魔王にも影武者がいたな。

 主も王なのか?』


龍太郎:『俺は王ではないぞ。普通の一般人だ。

 で、もう1人は、アイちゃん。

 人工知能なんで実体はない。

 俺の相談役だな。』


AI:〈マスター!僕の紹介はいいのに。

 まあ、アイちゃんだよ。

 これって聞こえてるのかな?〉


???:『ああ、聞こえておる。よろしくな。

 では、我の紹介だな。

 我は魔人族のシャドウ種。

 名はブルーノ・フォン・アインバッハだ。

 魔界での爵位は子爵であった。』


龍太郎:『ブルーノさんだな。

 子爵って貴族だったのか?』


ブルーノ:『ブルーノでよい。ああ、そうだ。元貴族だ。

 ただ、いろいろあって魔界を追放され、魔回廊に落とされた。そこで自我を失った。

 それからは記憶にないから、どれくらい経ったのかはわからんが、そんなに短い時間ではないだろう。

 お。ダンジョンが消えたな。』


龍太郎:『嘘っ!?消えてる!これってヤバくない?』


 先程まであったファーストダンジョンの入り口が何もなかったかのように消えていった。


ブルーノ:『察するに、どれくらいの侵食度かは分からんが、ここは末期の人間界だな?

 なら、ダンジョンは生まれたり、消滅したりするものだ。気にしなくてよい。』


龍太郎:『ここは異世界なんだけど……。

 人間は住んでないと思われ。

 しかも、ダンジョンも無くなったって話は聞いたことないぞ?』


ブルーノ:『どうも、話が繋がらないようだな。

 一度、お互いの話を整理する必要があるだろうよ。主よ。』


龍太郎:『ああ、そうみたいだな。

 なら、食いながら話そうぜ。

 美味しい肉と水があるからさ。』


ブルーノ:『ほぅ。それは楽しみだ。

 では、いただくとしよう。』


 精神支配で新しく仲間(従者)となったブルーノ。

 元魔界の住人で魔人貴族(子爵)。


 彼との会話で、今まで知らなかった驚愕の事実がいろいろと判明していくのだが……。


 ◇◇◇◇◇

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