第72話 ダンジョンブレイク?

 ◇◇◇◇◇


 初日のダンジョン攻略を終えた龍太郎たちネオ・ダイアモンズのメンバーはクランハウスで休憩していた。

 不釣り合いな超豪華な部屋でくつろぎ中。

 4人はシャワーも着替えも完了している。

 俺ってやっぱり安全牌?

 俺がいるのに全く気にしてないんだが……。


亜実花:「ねえ、みんな!

 昨日の記事がネットニュースで出てるよ!

 〈世紀の下剋上!天堂龍太郎〉だって!」


玲奈:「すごいね!先生、一躍有名人だね!

 で、あーみん。なんて書いてあるの?」


亜実花:「うーんとね……。」


 記事の内容は以下のようだ。



 世紀の下剋上!天堂龍太郎


 今年度秋季の第一将持国天は、ソロでDランクの天堂龍太郎が称号を得るという前代未聞の怪事件が発生した。


 天堂は現在20歳。ランキング2600位の平凡なエクスプローラであり、容姿も特質すべきところのない典型的な落ちこぼれの一人だ。

 先月、夢咲カレン率いるクランに加入するも、数週間で追放されている。

 ただし、追放された後にカーバンクルの誘いを断るという、よくわからない経歴も持つ謎の人物。


 ところが、今回の大総選挙で正体不明の組織票が動き、第一回中間発表で第10位になったことによりネットでバズり一躍話題となる。

 そこからはイケてない容姿に落ちこぼれという要素も加わって、面白がって投票する国民が急増し、最終的にこの事件を引き起こす結果となった。まさに怪事件である。



龍太郎:「おい!全く褒めてないじゃん!

 イケてないとか落ちこぼれとか!」


詩音:「まあ、いいじゃない。

 先生の良さは私たちが知ってるから。」


玲奈:「そうだよ。でも、この感じだと今回限りって感じがするね。」


亜実花:「あ、まだ続きがあるよ。

 ネオ・ダイアモンズのことだよ。」


 続きの記事は以下のようだ。



 さらに今回、第一将持国天になった特典により、天堂はAランククランを結成した模様。

 クラン名は、ネオ・ダイアモンズ。

 このクラン名もすごく安易だった。

 メンバーに旧ダイアモンズの4名を加えて結成したという理由である。

 この4人との接点は不明だが、全員がランキング3100位台のエクスプローラで、渋谷管轄内では落ちこぼれ組と呼ばれている。

 そして、初のDランクエクスプローラのみで構成されたAランククランが誕生という、さらに怪事件が発生している。


 この落ちこぼれ5人組がどうなっていくのか?今後の活躍に期待したい。



龍太郎:「これ、さっきより酷いな。

 何が期待したい。だ!

 誰が書いたんだよ!

 バカにしすぎだろ!」


詩音:「私たちも変な感じで有名になったね。

 他の記事も似たような感じだね。

 私たちってあんまり情報ないからね。」


華那:「先生。ごめんね。

 私たちが落ちこぼれ組だから、先生まで一緒にされちゃってる。」


龍太郎:「いや、俺のことは全く問題ない。

 むしろ、お前たちのことをバカにされてムカついてるんだよ。」


華那:「それは仕方ないよ。本当だからさ。

 でも、やっぱり悔しいから、先生!

 私たちをよろしくね。」


龍太郎:「ああ、そうだな。

 これは完璧に見返してやらないとな!

 よし!俺たちのクランの目標が出来たぞ!

 全員、Aランクエクスプローラだ!」


華那:「ふふ。すごく大きい目標だね!」

詩音:「でも、頑張るよ。」

玲奈:「私もやってやる!」

亜実花:「そうだ!やるぞ〜!」


 みんなの顔が良い笑顔になっている。

 今に見てろよ!

 本当の下剋上を見せてやるからな!



龍太郎:「それじゃあ、俺呼ばれてるから今から協会に行ってくるよ。」


華那:「うん、わかった。代表、頑張ってね。

 明日もよろしくお願いします。」


龍太郎:「おぅ。しっかり休んどけよ。」


 そう言うと、龍太郎は一人で協会本部に向かった。



 ◇◇◇◇◇



 協会本部最上階、副会長室にて。


野神:「天堂くん。お疲れのところ、来てくれてありがとう。

 紹介するわね。

 隣にいるのが、会長の工藤秀策よ。」


工藤:「工藤だ。よろしく。」


 今日は何?なんで会長までいる?


龍太郎:「野神さん。今日は何の用ですか?」


野神:「ええ。昨日は引っ越しもあるだろうから、今日にしたんだけど、Aランククランの代表には特別に通知しておくことがあってね。」


 何?Aランククランってややこしいのか?


龍太郎:「はぁ。何でしょう?」


野神:「実はね。国内では混乱を防ぐためにあまり公にはしていないんだけど、世界ではある事件が発生しているの。」


龍太郎:「はぁ。世界の事件ですか?」


野神:「今年の9月11日、ダンジョンがこの世界に発生してからちょうど20年目の日ね。

 初めてのダンジョンブレイクがアメリカのフロリダで発生したの。」


龍太郎:「はぁ。ダンジョンブレイクって何?」


野神:「日本には6ヶ所のダンジョンゲートがあるわよね。そのゲートは発生以来、ずっとその場に存在しているわよね?

 でも、ダンジョンブレイクは、ゲートが発生してから24時間程度で消滅するの。」


龍太郎:「はぁ。」


野神:「この現象は、9月11日を境に世界の各地でランダムに発生し始めているの。

 日本ではまだ発生していないけどね。

 でも、いつ発生してもおかしくないわ。

 そして、ダンジョンブレイクが発生すると、

通常のダンジョンゲートと同じように大量のモンスターがこちらの世界に溢れ出てくるの。

 それが発生するとその周りに甚大な被害が生じるわ。20年前の日本と同じようにね。」


龍太郎:「マジか?それはヤバいっすね。」


野神:「それで協会は日本政府からの要請で、もしダンジョンブレイクが発生した際にはエクスプローラを派遣しなければいけなくなったの。

 派遣するエクスプローラは、Aランククランとごく一部のBランククランに限定してるわ。

 今日はその依頼です。」


龍太郎:「はぁ。それは強制ですか?」


野神:「そうですよ。」


龍太郎:「はぁ。めんどいことになったな……。」


 ここで初めて会長の工藤が口を開いた。


工藤:「はっはっは。お前、面白いな。

 面と向かってめんどいって言った奴はお前が初めてだよ。」


龍太郎:「そうなのか?普通そう思うけど。」


工藤:「だろうな。ただ、大人は黙って聞くんだよ。普通な。」


龍太郎:「俺は普通じゃないってことだな。

 まあ、自分でもわかってるけど。」


工藤:「いいじゃねえか。普通だと面白くないぞ。

 ただ、これは断れねえ。強制だ。それは変わらんぞ。」


龍太郎:「はぁ。わかったよ。」


 この工藤さんも俺に対してフラットに接してるな。源さんみたいな感じか?


野神:「天堂くん。ありがとう。

 緊急の場合は、あなたに連絡が行くからメンバーと共にクランハウスに集合してください。

 自衛隊のヘリで現地に向かうことになるわ。

 一応、報酬も出るからね。」


龍太郎:「ああ、わかった。」


野神:「で、話は変わるけど、昨日の話の続きね。

 協会は工藤も含めてあなたに協力を惜しまないわ。秘密も守ります。

 何を隠しているのか、教えてくれるかしら?」


 来た〜!来ると思ってたけど……。


龍太郎:『アイちゃん!どうする?』


AI:〈うーん。わからないよ。

 協力してくれるなら心強いけど、信用していいのかは難しいね。

 マスターの判断に任せるよ。〉


龍太郎:『丸投げかよ!』


AI:〈そう。丸投げだよ。悪い?〉


 俺に判断できないから聞いたのに!


 うーん。ここは冷静に判断だな。

 夢咲さんは、野神さんは信用していいって言ってたよな。問題はこの会長だ。


龍太郎:「野神さん。工藤さんって信用できる?」


野神:「プッ!何それ!直球なのね?」


工藤:「俺が信用できるかってか?

 どう言う意味だ?」


 野神さんは笑ってるが、会長はちょっと怒ってるような、怒ってないような。


野神:「そうね。私は彼を信用してるわよ。

 この人は……そうね。

 猪って感じかしら。」


工藤:「おい!野神!猪はないだろう!」


野神:「あら、褒め言葉なんだけどね。

 工藤はまっすぐな性格なのよ。

 それに約束したことは必ず守るわ。

 それは保証します。」


工藤:「お前、それで褒めてんのか?

 ま、いっか。そう言うことにしとくか。

 天堂よ。何を隠してんのか知らんが、俺も協力するぞ。

 実はお前のことは源さんから聞いててな。

 あの人が言うには、お前は失礼でアホな奴だそうだ。だが、裏表はないとも言っていた。

 たぶん、俺と似ている。と勝手に思ってるわけだ。

 だから、信用していいぞ。」


 なんとも、この人の理論はすごいな。


龍太郎:「わかりました。信用しますよ。

 俺の秘密を話します。

 その代わりに絶対言っちゃダメだからね。

 モルモットは嫌なんで。」


工藤:「おぅ。約束だ。」


 ま、いっか。もう、話しちゃおう。

 墓場まで持っていくのしんどいし。


 ◇◇◇◇◇


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