第58話 ダイアモンズ4

 ◇◇◇◇◇


 吉野の挑発に乗るか?乗らないか?


華那:「先生。やめておいた方がいいよ。

 相手は国士無双だよ。

 それに私たちなら慣れてるから。ね?」


 百枝さんのひとことで龍太郎も冷静になったみたいだったが……。


吉野:「落ちこぼれってのは、プライドもないんか?

 だったら、ここで全員土下座しな。

 それで許してやるから。ほら。ほら。」


 本当にクズだ。ムカつく!

 他人を下に置いて満足するタイプの典型だ。

 エクスプローラに限らず、自分が大したことない奴が、こういうことを言う。

 学生時代から身をもって経験している。

 こういう奴は、一度下手に出ると調子に乗って続けてくる。


龍太郎:「みんな、ちょっと待ってて。」


 龍太郎は、あーみんを百枝さんに預けて、みんなに下がるように言った。


吉野:「ほぅ。やる気になったんかい?

 昔を思い出すよな。

 お前はいちいち突っ掛かってくるが、ちょうどいい憂さ晴らしの相手だったからな。」


 生徒たちは心配して止めたが、龍太郎はそれを制止して、吉野の前に対峙した。


 こいつの実力はわからないが、とりあえず様子をみるか。


 龍太郎は、あえて吉野にはスキルは使わない。


吉野:「ほら行くぞ!スキルなし!」


 吉野は、龍太郎に一瞬で近づいて、顔面を狙って殴りつけた。


 確かに速い。昔とは全く違う。

 これがスキルの効果でないなら、相当にレベルが上がっていることはわかった。

 だが、龍太郎にすれば、ものすごく遅く感じる。


 余裕で吉野の攻撃を躱していた。

 吉野は、まさか躱すとは思っていなかったのか、勢い余って前方に転がった。


吉野:「あれ?どうなってんだ!?」


 何が起こったのかわからない吉野は、不思議そうな顔をしていた。


 よし!大丈夫そうだな。

 龍太郎は、パッシブの俊速に加えて鼓舞と重力操作を重ねがけしているため、異常に動体視力と移動速度が跳ね上がっていた。


 吉野は、起き上がって再び龍太郎に殴りかかったが、それも紙一重で躱された。

 何回やっても当たらない攻撃に、吉野が焦り出した。


吉野:「おい、お前!ちょっと待て!

 レベルいくつなんだよ?」


龍太郎:「俺か?低いが言う必要ないよな。」


吉野:「嘘だろ!俺は国士無双でパワーレベリングしてるんだぞ!

 お前!どうなってんだ!?」


龍太郎:「それも言う必要ないよな!

 じゃあ、俺の番だな!」


 龍太郎は、一瞬で吉野の目の前に移動して、軽くビンタした。ものすごく軽くです。


 にも関わらず、吉野は一回転してその場に倒れた。


 あれ?軽くやったつもりなんだが……。


吉野:「痛ってーーーー!

 やったなー!父さんにもぶたれたことないのに〜!」


 おい!お前はニュータイプか?


 吉野は打たれた頬を押さえて、涙目で龍太郎を見ながら後退りしていた。


〈ピピプピプ……他者の超能を確認!〉

〈超能【料理】を登録しますか?〉


 あ!そっか。料理登録!イエス!


〈ピピプピプ……超能【料理】を登録しました!〉

〈ピピプピプ……超能【料理】の解放に成功しました。〉

〈ピピプピプ……超能王の効果により超能【料理】を最適化します。〉

〈ピピプピプ……超能【料理】は超能【料理長】へと進化しました。〉


 料理長って何!変なスキル!

 片足の元海賊ですか〜!?

 おい!カゼひくなよ!←これ最高

 くそお世話になりました!!!



吉野:「天堂!覚えてやがれー!」


 吉野はそう言うと、龍太郎が海賊たちの名シーンを回想している間に、一目散に消えていった。


 出たー!チンピラの常套句!

 でも、ちょっとスッキリしたかも。


 吉野が立ち去った後、生徒たちに囲まれた。


華那:「怖かったー!先生、大丈夫?」


龍太郎:「ああ、大丈夫。」


詩音:「でも、国士無双だよ。なんか心配。」


龍太郎:「そうだな。でも心配するだけ無駄だぜ!その時はやり返すだけだ。」


 決まった!ちょっとカッコつけてみた。



 ◇◇◇◇◇



 クランハウスDー201にて。


華那:「はぁ、到着!先生ありがとう!」


 へえ、ここがダイアモンズのクランハウスか?

 やけに生活感があるなぁ。


龍太郎:「なんか、部屋が狭くないか?」


華那:「あ!そうなの。

 私たち、ここに住んでるから。」

玲奈:「そうそう。どーせ、一緒に住もうって言ってたから、それならここでもいいじゃないって感じでさあ。」

詩音:「協会に聞いたら、別に好きにしていいって。」

亜実花:「節約だよ!効率もいいし、安全だし、言うことナッシングだよ。」


龍太郎:「確かに、安全で便利かもな。」


 彼女たちは、喋ってる間に着替えたりしているが、ここは気にしないフリをしておこう。

 変に突っ込むと変な返しが来そうで、逆に怖い。


 玉置さんは、何も言わずに俺の前にコーヒーを出す。

 やはり、この中ではお世話役みたいな感じなんかな?気が利く人だ。


詩音:「私たち着替えるけど、気にしないでね!」


龍太郎:「ぐふっ!」


 危ねえ!思わずコーヒー吹きかけた。


龍太郎:「いつもこんな感じなのか?」


詩音:「え?着替え?

 うーん、男の人がここに来たの初めてだから、よくわかんないけど、先生なら全然平気かな。」


 どういう意味?俺なら大丈夫って?

 俺って完全に安全牌ってことか?

 間違ってないけど……。ショック大……。

 しかし、完全に先生になってしまったな。

 俺の方が後で生まれたのに。


龍太郎:「ところで、佐々島さんを医務室に運ばなくていいのか?」


詩音:「うん、後で連れて行くよ。

 あーみん、いつも大袈裟だから。

 たぶん、この調子のときは大丈夫だよ。」


亜実花:「えー!ひど〜い。

 本当に痛かったんだから!」


詩音:「もう、動けるでしょ!

 早く着替えなよ。」


亜実花:「もう!わかったよ。ブー。」


 あ!本当に着替え出した。

 あーみんの性格、よく分かってんな。



華那:「でさ。先生。いつ行くの?」


 着替え終わったリーダーの百枝さんが俺の横に座って聞いてきた。顔が近いよ!


龍太郎:「ん?行くってどこに?」

 

華那:「もう!ファーストダンジョン!」


龍太郎:「ああ。それな!

 来週の月曜日からかなぁ。」


華那:「やったーん!ちょうどいいね!

 何時に集合したらいい?」


 おぅ?もう決定事項の様に喋ってる!


龍太郎:「じゃあ、朝8時にここに来るよ。」


華那:「うふふ。約束だよ。指切りね。」


 まあ、いっか。こういうのも。

 少しの間、先生してみますか?

 どーせなら、安全牌の先生じゃなくって、同級生の設定が良かったよな。無理か。


龍太郎:「じゃあ、俺行くわ。」


華那:「うん、じゃあ、月曜日待ってるからね!」

玲奈:「先生!遅刻するなよ〜!」

詩音:「ありがとう!先生!」

亜実花:「またね〜!先生!ちゅ!」



 ◇◇◇◇◇



 龍太郎の出て行ったクランハウスの続き。


華那:「先生、かっこよかったね!」


詩音:「あれ?どうしたの?

 リーダー!もしかして惚れちゃったか?」


玲奈:「それって禁断の教師と生徒ってやつか〜?春の木漏れ日の中に〜♪高校教師!」


華那:「えー!もう!詩音!玲奈!」


詩音:「でも、珍しいね。リーダーがそういうの。」


玲奈:「本当に惚れちゃったんじゃないの〜?」


華那:「別にいいじゃん!」


詩音:「え?そうなの?本当に?」


玲奈:「顔は普通だよ。ああいうのがいいんだ?」


亜実花:「あ〜!ズルい〜!

 あーみんが先に惚れたのに〜!」


詩音:「え?こっちもマジで?」


亜実花:「うん。マジだよ。

 だって〜、カッコよかったもん!」


華那:「そっか。ライバル出現か!?

 あーみん!勝負だ!」


玲奈:「ちょっとー!2人で何言ってんの〜?

 私も混ぜてよー!」


華那:「玲奈も参戦ってどうなってんの?

 さっき、顔は普通って言ってたじゃん!」


玲奈:「私はもともと、ああいう顔がタイプなの!」


亜実花:「え〜!ライバル多いよ!

 リーダーも玲奈ちゃんも後からズルい〜!」


華那:「ちょっと待って!私が先だから!

 玲奈とあーみんが後でしょ!

 詩音、なんとか言ってよ〜!」


詩音:「えーっとね。実は私も……。」


3人:「「「えーーー!詩音(ちゃん)も〜!」」」



 沈黙……。



華那:「そっか……。全員がライバルかぁ。

 なんか、面白いね。」

玲奈:「そうそう。楽しくなっちゃうね。」

詩音:「ふふふ。そういうことかぁ。

 こんなことあるんだね?」

亜実花:「え〜!全然楽しくな〜い。」


華那:「これはルールが必要じゃない?

 抜け駆けの告白はなし。ってどう?」


詩音:「そうだね。そうするか!」


玲奈:「私もいいよ。魅力で勝負だね。」


亜実花:「え〜!いいよ。私の勝ちじゃん。」


華那:「そのあーみんの自信はどこから来るのよ?

 一番、ルール破りそうなんだけど!

 じゃあ、ルール破ったら1ヶ月おやつ抜きね!あーみん!わかった!?」


亜実花:「え〜!それは無理〜!」


 龍太郎の知らないところで、モテ期発生中。

 当の龍太郎は完全なる安全牌と思っているのだが……。


 この件は、来週の月曜日までお預けです。


 ◇◇◇◇◇

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