第53話 ヘッドハンティング
◇◇◇◇◇
次の朝、龍太郎は狩りの予定をやめて、朱美社長に連絡を取った。
プルプル。
朱美:『はい。どなたかしら?』
龍太郎:「俺だ。天堂だ。」
朱美:『あら。早かったわね。
連絡くれてありがとう。
私と会う気になったのかしら?』
龍太郎:「ああ。そうだ。話がしたい。」
朱美:『わかったわ。こちらも準備があるから正午にうちの本社に来てくれるかしら?
場所は……。
1階の受付には、伝えておくから。』
龍太郎:「ああ。わかった。」
朱美:『それじゃ、後ほどね。
楽しみにしてるわ。』
正午か。なんだよ、準備って。
ま、それまで筋トレでもして時間を潰すか。
◇◇◇◇◇
龍太郎は、約束の時間にバタフライの本社まで来ていた。
龍太郎:「天堂です。社長と面会の約束が。」
受付:「はい、伺ってます。
少々お待ちください。」
受付で待たされていると、例の女が来た。
龍太郎:「また、お前か!」
翔子:「社長がお待ちです。
ついて来てください。」
秘書室の翔子の後をついて行く龍太郎。
エレベータを昇って最上階。
社長室に到着して、部屋に入った。
朱美:「天堂くん。いらっしゃい。
そこにかけて。
翔子。コーヒーをお出ししなさい。」
龍太郎:「いらない。話をしよう。」
朱美:「あらそう。」
龍太郎は朱美の正面に座った。
朱美:「私も聞きたいことがあるんだけど、先にどーぞ。天堂くん。」
龍太郎:「ああ。何のために俺たちを調べている?」
朱美:「単純に君に興味があるからよ。」
龍太郎:「なら、夢咲さんや早乙女さんは?」
朱美:「あら。そっちもバレてるのね。
やっぱり、あなたって不思議よね。
宝生に完膚なきまでにやられたってのは、何か隠しているのかしら?」
龍太郎:「隠してねえ。単純に俺が弱いだけだ。」
朱美:「そうは思えないんだけどね。
まあ、いいわ。
それじゃ、こちらからの質問ね。
あなたはどんなスキルを持っているの?」
龍太郎:「それは言えない。言う必要がない。」
朱美:「あらそう。
なら、単刀直入に言うわね。
あなたを引き抜きたいの。
ヘッドハンティングってやつね。
条件はそれに見合うだけのものを準備するわよ。」
龍太郎:「断る。俺たちに関わるな。
俺たちもお前たちには関わらない。」
朱美:「条件くらい聞いてくれてもいいのに。
普通のエクスプローラにはとても手にできないくらいの条件なんだけど。
それに宝生との約束も破棄させてもいいのよ。」
龍太郎:「だから、断る。
俺は自分で強くなって、自分で何とかする。」
朱美:「そう。決裂したわね。
まあ、そうなることもあるんじゃないかと思ってね。
翔子。モニターを映しなさい。」
翔子:「はい。」
翔子は、社長室に備え付けられたモニターに映像を映し出した。
朱美:「これ何かわかる?」
龍太郎:「おい!何やってんだ!?」
映し出された映像には、カレンと美紅が映っていた。
朱美:「何もしないわよ。
天堂くんにうちの会社のことをわかってもらおうと思ってね。
一応、準備させておいたの。
夢咲カレン1人で良かったんだけど、なぜかもう一人ついて来ちゃったのよね。
早乙女美紅だったわね。」
龍太郎:「準備ってこういうことかよ!?
ふざけんなよ!
今すぐに2人を解放しろ!」
朱美:「わかったわ。
その前に天堂くん。
私の提案はどうするの?」
さすがに、これは堪忍袋の尾が切れたぞ!
龍太郎:『アイちゃん。悪い。
こいつらを洗脳する。』
AI:〈マスター。この状況じゃ仕方ないよ。〉
実はアイちゃんとの話で、洗脳スキルはその効果の危険性から極力使わないようにしようと決めていたのだが……。
龍太郎:「朱美社長。それとそっちの女。
今から俺の言うことは絶対だ。
わかったな!」
龍太郎は、強めに洗脳スキルを使った。
朱美:「ええ、わかったわ。」
翔子:「はい。」
これ、ホントにヤバいよな。
いきなり従順になりやがった。
龍太郎:「で、夢咲さんたちはどこにいる?」
朱美:「このビルの会議室よ。」
龍太郎:「なら、俺をそこに案内しろ。」
朱美:「ええ。ついて来て。」
龍太郎は、朱美と翔子を引き連れて、一つ下の階の専用会議室に入った。
部屋の中には、後ろ手に手錠をかけられたカレンと美紅が椅子に座らされていた。
ご丁寧に足にも手錠をかけて。
その見張り役はジェシカと未知瑠。
カレンと美紅は、龍太郎を見つけて、モゴモゴと叫んでいるが、口にはタオルが巻かれていて何を言っているかわからない。
ジェシカは、龍太郎を見て後づさりするも、未知瑠が龍太郎に食ってかかった。
ジェシカ:「おい!なぜここに来た!?
社長!どうしたんですか?」
龍太郎は、それには反応せず、未知瑠とジェシカにも怒りに任せて、強めの洗脳をかける。
龍太郎:「お前たち!
今から俺の言うことは絶対だ!
わかったな!」
ジェシカも未知瑠も無言でうなづいた。
龍太郎:「じゃあ。夢咲さんと早乙女さんの手錠を外せ!」
未知瑠は、2人の手錠を外した。
自由になったカレンと美紅は、すぐに口のタオルを外して、龍太郎の方に駆け寄った。
カレン:「天堂くん!」
カレンは、龍太郎に思い切り抱きついた。
美紅も龍太郎の後ろに隠れた。
美紅:「もう!一体どうなってんのよ!!」
2人とも、恐怖と安心によって号泣している。
龍太郎:「2人とも、何もされなかったか?」
カレン:「うん。一応、何もされてない。」
美紅:「でも、怖かったわよ。何なの、この人たち!」
龍太郎:「そっか。
おい!お前たち!そこに座れ!」
龍太郎の怒号によって、朱美、ジェシカ、未知瑠、翔子の4人は、会議室の床に正座していた。
龍太郎:「これ以上、俺たちに関わらないこと。今日あったことは誰にも喋らないこと。
いいな!わかったな!」
朱美:「ええ、わかったわ。」
ジェシカ:「ああ。約束する。」
未知瑠:「わかったよ。」
翔子:「はい、そうします。」
龍太郎は、カレンと美紅にも尋ねた。
龍太郎:「夢咲さんと早乙女さんもそれでいいか?」
カレン:「うん、ありがとう。」
美紅:「えー?それだけ?
すごく怖かったんですけど!」
早乙女さんは不満そうな顔をして反論した。
龍太郎:「なら、どうしたいんだ?」
美紅:「そう言われても、よくわからないけど、何にも無しじゃ納得できない。」
カレン:「美紅ちゃん。無事だったんだから。」
美紅:「カレンさん。そうだけど……。」
龍太郎:「早乙女さん。
俺もこれ以上関わりたくないんだよな。」
美紅:「なら、いいわよ。もう!」
美紅もこれで納得していれば良かったのだが……。
龍太郎:「じゃあ。朱美社長。
もう一つ、最後の質問だ。
なぜ、俺たちを調べていたんだ?」
朱美:「それはね……。」
朱美は隠すことなく、次々と危ない情報を喋っていく。
うわー。聞かなきゃ良かったよ。
ただ、これって犯罪絡みだったんか?
しかも、連続通り魔の犯人も藻部って。
俺が通り魔狩りをした犯人になってた訳な。
いろいろ複雑すぎる。
カレン:「天堂くん……。」
美紅:「私、すごいこと聞いちゃった。」
これ、どうするんだ?
国士無双って、ヤバいって聞いてたけど、本当の意味で反社じゃんか。
捕まった方がいいとは思うが……。
うん。聞かなかったことにしよう。
これ以上絡むともっと危険な目に遭うかもしれない。
こういうのは、警察に任せよう。
俺には正義感とかも全く無いしな。
龍太郎:「夢咲さん。早乙女さん。
今聞いたことは忘れるんだ!
俺も忘れるから。」
カレン:「うん、わかった。」
美紅:「そうだね。」
これも洗脳スキルで、関わらないように念を押した。
龍太郎:「朱美社長。事項はわかった。
言った通り、俺たちに関わらないこと。
俺たちも今聞いたことは、誰にも言わない。」
朱美:「ええ、ありがとう。
わかってるわ。天堂くん。
ただ、一つお願いを聞いてくれないかしら。」
この時、龍太郎はわからなかったが、バタフライの4人は、龍太郎から何回も強い洗脳をかけられたことにより、龍太郎を見る目が変わっていた。そう、教祖のような存在に。
龍太郎:「何だ?お願いって。」
朱美:「たまにでいいんだけど、個人的に食事に付き合って欲しいんだけど。」
龍太郎:「いや、ダメだ。」
朱美:「そう。残念だけど、わかったわ。
気が変わったら連絡ちょうだいね。」
龍太郎は、それに答えることはなかった。
龍太郎:「じゃあ、夢咲さん。早乙女さん。
行こうか?」
カレン:「うん。」
美紅:「そうね。」
龍太郎たちは、バタフライ幹部4人に見送られて、本社のロビーから外に出て行った。
龍太郎たちが出て行く際に、朱美社長たち4人が深々とお辞儀をして見送ったがために、社員たちはあの3人は何者なんだ?と誰もが不思議がった。
そのうちの1人が、第七柱女神の夢咲カレンだったので、彼女だけは納得されたのだが。
他の2人についても、バタフライ・コーポレーションの中で一時噂になった。
◇◇◇◇◇
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