第52話 洗脳

 ◇◇◇◇◇


 その日、バタフライ・コーポレーション本社の社長室に秘書室の3人が報告に来ていた。


朱美:「ジェシカ。どうしたの?

 やけに早いわね。」


ジェシカ:「社長!天堂龍太郎。

 あいつはヤバいです。」


朱美:「ん?いきなりどういうこと?

 何があったの?」


 ジェシカは朱美の前でスライディング土下座の態勢を取った。

 後ろの二人も慌てて同じように土下座の態勢を取った。


ジェシカ:「すいません。もう調査出来ません。」


朱美:「わかったから、ちゃんと説明しなさい。」


 それから、ジェシカはゲート内であった事実を申し訳なさそうに説明した。

 聞いている朱美も信じられないという表情で聞いていた。


朱美:「あの天堂龍太郎がねぇ。

 未知瑠の魅了もジェシカの威嚇も効かないってことよね?

 それどころか、3人とも逆に威嚇されて、そのうち2人は気絶したということ?

 宝生との勝負の時は、全くそんな様子は無かったのだけれど、どうなってるのかしらね?」


ジェシカ:「はい。おっしゃる通りです。

 面目ございません。」


 ジェシカは、土下座のまま頭を擦り付けてひたすらに恐縮している。


朱美:「わかったわ。3人とも立ちなさい。

 ジェシカがどうにも出来ないとなると、ちょっと興味が湧いてきたわ。

 後は私が調べてみるわ。」



 ◇◇◇◇◇



 時を戻そう。

 

 龍太郎は、買取センターを出てスクーターで意気揚々と帰ろうとした時、声をかけられた。


朱美:「天堂くん、ちょっといいかしら?」


 声をかけたのは朱美。


龍太郎:「またかよ!

 お前のところの室長に言っといただろ!」


朱美:「へえ。ジェシカのことを室長って知ってるのね?」


龍太郎:「え?そういえば、言ってなかったんだったっけか?」


AI:〈マスター!役職までは聞いてないよ!〉


 あちゃー!やっちまった!


朱美:「天堂くん。ジェシカのことはいいわ。

 あなたとは敵対するつもりはないの。

 ちょっと話がしたいんだけど。」


龍太郎:「いや、やめておく。

 いまさら、敵対しないって言われても信用出来ないからな。」


朱美:「あらそう。私の会社っていろいろやってるのよ。いろいろね。

 天堂くんって夢咲カレンと仲が良かったわよね。ちょっと心配よね?」


龍太郎:「それどういう意味だよ!」


朱美:「別に深い意味はないわよ。

 それより、2人で話をしましょうよ。」


 こいつ。めっちゃ腹立つなぁ。

 でも、ここで折れるのも嫌だな。


龍太郎:「わかった。考えとくよ。」


朱美:「あらそう。良かったわ。

 なら、ここに連絡ちょうだい。」


 朱美は龍太郎に名刺を渡した。

 その渡した名刺は滅多に渡さない方の名刺で、裏にプライベートの電話番号が記載されたもの。


朱美:「その裏に書いてある方の番号にかけてもらえる?

 直接、私にかかるからね。」


龍太郎:「ああ。」


朱美:「でも、そんなに待ってられないから、3日以内に連絡ちょうだいね。

 それを過ぎたら、彼女はどうなるかしらね。」


龍太郎:「ああ。わかったよ!クソ!」


朱美:「ふふふ。じゃあ連絡待ってるわ。」


 そう言うと、朱美は高級な車の後部座席に乗り込んだ。

 運転してるのは、ジェシカだった。

 たぶん、洗脳によって俺のところに来られないんじゃないか?


 しかし、ここまでしつこく付き纏う理由はなんなんだ?


 まあ、夢咲さんには気を付けるように言っておいた方がいいな。


 もう!今日の順調が台無しだよ!

 モンブラン大人買いしてやる!



 ◇◇◇◇◇



 龍太郎は、スクーターで家に帰ってすぐにカレンに電話をかけた。


 プルプル。


カレン:『天堂くん?どうしたの?』


龍太郎:「夢咲さん。悪い。今いいか?」


カレン:『うん。もちろんいいよ。』


龍太郎:「さっき、バタフライ・コーポレーションの朱美社長に声をかけられてな……。」


 そこから、朱美との会話を説明した。


カレン:『そうなんだ。わかった。

 私たちもゲートの中で声かけられたんだよ。

 安藤未知瑠って人。

 それ以降ね。なんか、美紅ちゃんがその人のことばっかり気にしてるんだよ。』


龍太郎:「ああ。あいつな。俺も会ったよ。

 あいつ、魅了スキル持ちだから。

 俺も危なく引っかかるところだったぞ。」


カレン:『えー!そうなの?

 どうりでおかしいと思ったよ。

 たぶん、私も少しかかってると思う。』


龍太郎:「え?大丈夫だったのか?ヤバくない?」


カレン:『私は第六感で危険って判断できたから良かったけど。美紅ちゃんはダメだね。』


龍太郎:「わかった。解除した方がいいな。

 今から会うか?」


カレン:『天堂くん。解除できるの?』


龍太郎:「ああ。たぶん大丈夫だ。

 魅了の上位スキルを取ったからな。」


カレン:『それってさらにヤバそうなんだけど?

 なんてスキルなの?』


龍太郎:「うん。洗脳スキルだな。」


カレン:『ひえっ!ヤバ!?

 壺買わされそうなやつだよね?』


龍太郎:「俺もこれはヤバいと思ってるんだけど。

 でも、そういうのには使わないから!」


カレン:『本当に?なんか一気に危ない人になってるよね?』


龍太郎:「大丈夫だから!

 で、どうする?」


カレン:『うん。早い方がいい。

 今からでもいいの?』


龍太郎:「ああ。そっちが良ければ、今から行くよ。」


カレン:『うん。わかった。美紅ちゃんも呼んでおくからすぐに来て!』



 ◇◇◇◇◇



 龍太郎は、また家を出てスクーターに乗ってカレンのマンションに。


 3、0、3、だったよな!


カレン:『はいはい!早かったね!今開けるから上がってきて!』


 カレンの部屋に着くとすでに美紅も来ていた。


龍太郎:「おす!久しぶり!」


美紅:「久しぶり。あんた大丈夫だったの?」


龍太郎:「ああ。もう大丈夫だ。

 そっちは、大丈夫じゃないみたいだな。」


美紅:「え?何が?どういうことよ!」


龍太郎:「安藤ってやつは、バタフライの社員なんだよ。危険なの。わかってる?」


美紅:「あんた!あったそうそう喧嘩する気?

 安藤さんの悪口言わないでよね!」


カレン:「もう!ちょっと待って!

 まだ、美紅ちゃんには説明してないから。」


 カレンが美紅に未知瑠のことについて説明したのだが……。


美紅:「安藤さんが魅了スキル持ちって、そんなのなぜあんたがわかるのよ!?」


龍太郎:「え?あー、しまった!そうだったな!

 それは第六感だ!

 俺の直感がそう言っている。」


美紅:「しょーもな!あんた馬鹿なの?」


龍太郎:「もういい!

 夢咲さんと早乙女さんは俺の目を見てくれ!」


 カレンと美紅は龍太郎の目を見た。


美紅:「何なのよ!早く言いなさいよ。」

カレン:「天堂くん、いいよ!お願い!」


龍太郎:「おぅ。じゃあ。

 安藤未知瑠は、バタフライ・コーポレーションの社長秘書室の社員だ!

 安藤は危ないやつだ。もう近づくな!」


 龍太郎は、洗脳スキルを使って、カレンと美紅に洗脳した。


カレン:「天堂くん。これで終わり?」


龍太郎:「ああ。多分いけてるはず。

 早乙女さん。安藤未知瑠をどう思う?」


美紅:「そうね。危ないやつ。え?」


龍太郎:「夢咲さんはどう?」


カレン:「うん。危ないやつ。何これ?

 なんか笑っちゃうね。」


龍太郎:「じゃあ。成功だな。

 あいつは、朱美社長から言われて2人を調べてたんだと思うぞ。

 なぜかはわからないけどな。

 それは、今度朱美社長に会ったら聞いてみる。」


カレン:「うん。気をつけてね。」


龍太郎:「ああ。それともう一つ言いたいことがある。

 俺の目を見ろ!

 2人はこれから家にいる時以外、外に出る時は常に一緒に行動するんだ。いいな?」


カレン:「うん、わかった。」

美紅:「あんたに言われるの癪だけど、言われなくてもそうするわよ。」


龍太郎:「オーケー!これで俺も少しは安心だ。」


美紅:「ていうか、あんた一体何のなの?

 なんか隠してない?」


 あー、やっぱり早乙女さんにも疑われてるな。


龍太郎:「早乙女さん。

 俺のことは詮索しちゃダメ。

 そして、そういうことを外で喋ってもダメ。

 いいな?」


美紅:「あ?うん。わかったわよ。って何?」


 ちょっと気が引けるが、まだ早乙女さんに打ち明けるのはやめておこう。


龍太郎:「それじゃ、もう遅いし俺は帰るから。」


カレン:「うん。わかった。

 天堂くん。ありがとうね。」


 こっちの方も解決したし、朱美社長には早めに会って話した方がいいな。


 明日にでも会いに行くか。


 ◇◇◇◇◇

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