第47話 カーバンクルの弟分
◇◇◇◇◇
渋谷レッドムーンの続き。
あれからも龍太郎と琴音は飲み続けている。
龍太郎:「琴音姉さん。飲み過ぎじゃない?」
龍太郎も呼び方が変わってるが、そう呼べと言われたから仕方なくそうしている。
琴音:「今日はいいのよ。
長旅帰りのリフレッシュタイムなんだから!
私は癒しが欲しいのよ!」
だいぶと口調が変わって来たぞ!
クールビューティはどこに行った?
龍太郎:「癒しって疲れてるってこと?
2週間以上も潜って何してんの?」
琴音:「えーっと、今はね。ある調査をしてるのよ。
もう大変よ。未開の地に行ってるからね。
精神的にどばーって疲れちゃうわ。
ずーっと、脳みそが疲れてるって感じ。
回復スキルじゃ体の疲れは取れても、頭の疲れは抜けないのよね。
困ったもんよ。まったく!」
龍太郎:「未開の地かぁ。それは難儀だな。
Aランクになると調査もしないとダメなのか?」
琴音:「うーん。そうじゃないんだけどね。
私たちってすごいじゃない。
だからかなぁ。なんてね!」
龍太郎:「よく分からん理由だな。」
琴音:「まあ、いろいろあるのよ。
明日も撮影だし。頭が痛いわよ。もう!」
なんか、姉さん、愚痴り出したぞ。
酔うとこんな感じの人?
よっぽど、疲れてんだな。
龍太郎:「じゃあ、お礼にちょっとこれはどう?」
浄化!どーん!
龍太郎は琴音に浄化スキルを使った。
AI:〈あ!マスター!〉
アイちゃんが気づいた時には時すでに遅し。
琴音:「あーーーん!何これ!?
気持ちいい〜!最高〜!」
AI:〈マスター!浄化使っちゃったら……。〉
龍太郎:『ん?』
琴音:「龍くん!これって浄化でしょ!?
すごく、気持ちいい。ありがとう!
おかげで頭がスッキリしたわよ!
龍くんって浄化スキル持ちだったのね?」
あーーーー!?そうだった!
どうしよう?秘密だったんだ!
AI:〈マスター!誤魔化して!〉
龍太郎:「えーっと、琴音姉さん。
そうなんだ。黙ってたけど。
これ秘密にしておいて欲しいんだけど。」
琴音:「そうなのね。もちろん秘密にしておくわよ。
そっか。浄化持ちなのね。
ふふふ。いいこと教えてもらっちゃった。」
ふぅ。良かった。
龍太郎:「絶対に言わないでくれよ。」
琴音:「ふふふ。もちろん。
酔いも醒めちゃったけど、一気に脳みそがクリアになった感じ。すごいわ。
ねえ、龍くん。うちのクランに入らない?」
龍太郎:「うちってカーバンクルか?」
琴音:「そうよ。今やってる調査って本当に大変なの。特に精神的に。
他のメンバーも同じような感じでね。」
龍太郎:「悪いけど、それは断る。
その代わりに戻ってきた時には、浄化をかけるから。」
琴音:「あ、そっか。そうだね。
龍くんには戻るところがあるんだもんね。
ごめんね。気がつかなくって。
でも、ちょっとお願いがあるんだけど。
他のメンバーにもかけてくれないかな?
秘密は守らせるからね!」
龍太郎:「うーん。それなら大丈夫かな。」
琴音:「ありがと。じゃあ、もうここを出ましょ!
ちょっと一緒に来て!」
◇◇◇◇◇
どこに行くのかと思ったら、ついて行った先は協会内部のクランハウスだった。
A地区って初めて来るよな。
なんかD棟地区とはえらい違いだな。
ここまで差があると笑えるな。
それもそのはず。協会としては当然の事。
なにせ貢献度が違うのだから。
そして、クランハウスAー111に到着。
琴音:「龍くん。どこでもいいから座って。
コーヒーでいい?」
龍太郎:「ああ。ありがとう。」
やっぱ、Aランクのクランハウスは、すんげ〜豪華だな!
ここは最上級ホテルのスイートルームか?
夢咲さんが喜びそうだなぁ。
これも目標の一つにしよう!
琴音がコーヒーを持ってきた。
そして、龍太郎の横に座る。
なぜ、横に座る?
琴音:「龍くん。もう一回あれ、かけてくれる?」
龍太郎:「浄化か?いいぞ。」
浄化!ばーん!
琴音:「あーん!気持ちいい〜!これ最高だわ〜!
景虎と亜蘭もビックリするわよ。ふふふ。」
浄化をかけた時の琴音姉さんの声が、やけに艶めかしいんだけど。
正直、ドキッとするよな。
そういえば、夢咲さんもこの前会った時、かけてくれって言ってたよな。
その時もドキッとしたな。
まあ、確かに気持ちいいけど。
そういう使い方じゃないんだけどな……。
程なく、景虎がクランハウスに到着。
景虎:「琴音。急に呼び出してどうした?
おぅ。天堂!お前、来てたのか?
久しぶりだな。どうだ。順調か?」
龍太郎:「まあ、なんとか。」
同じタイミングで亜蘭も到着。
亜蘭:「ハロー!休暇日に呼び出すなんて、なんかあった?
あれ?天堂がいるじゃん!」
龍太郎:「どーも。お邪魔してます。」
琴音:「ふたりともすごく早かったね。」
景虎:「お前がすぐにって呼んだんだろ!
用件も言わずにクランハウスに集合って言うから、何かと思ったんだよ。」
亜蘭:「そうそう。今日は家にいたからね。
急いで来たよ。で何?」
どうも、3人とも渋谷に住んでるらしい。
どうりで到着が早いと思ったよ。
でも、やっぱ3人は仲がいいな。
琴音:「はいはい、まあ座ってよ。
ふたりともコーヒーでいいよね?」
景虎:「ああ。」
亜蘭:「サンキュ!」
琴音がふたりのコーヒーを注いでいる。
そして、ふたりも正面に座った。
景虎:「で、琴音。お前たち、近くないか?」
亜蘭:「琴音の新しい彼氏の紹介なのかな?」
このふたり、何言ってんの?
景虎:「おい!亜蘭!そう言う冗談はやめろ!」
あれ?百地さん、こういう冗談は嫌いなタイプ?
亜蘭:「ははは、ごめんね。
でも、琴音と天堂は仲良さそうだね?
なんかあった?」
琴音:「ふふふ。実はね。
さっき、一緒に飲んでたの。
で、龍くんは今日から私の弟くんになったのよ。」
亜蘭:「龍くんって!?
天堂のこと、龍くんって呼んでるの?
ふーん。顔に合ってないよね!」
ほっとけ!
蜂須賀さん、ひどい……。
景虎:「ほぅ。弟か。それならいい。」
それならいいって。
百地さん、どういう意味?
亜蘭:「で、琴音。まさか、それが呼び出した理由じゃないよね?」
景虎:「だな。どうした?」
琴音:「龍くんには、お願いして来てもらったのよ。
今からすることは秘密にすること!
ふたりとも、いい?」
亜蘭:「よくわかんないけど、いいよ。」
景虎:「確かによく分からんがいいだろう。」
それでいいんかい!?
これが信頼関係ってやつか?
琴音:「じゃあ、龍くん。お願い。
ふたりにもかけてあげてくれる?」
龍太郎:「わかった。」
まずは、右から浄化!どーん!
次に左に浄化!ばーん!
景虎:「え?なんだこれは!?スッキリしたぞ!」
亜蘭:「ワーオ!なんじゃこりゃ!?気持ちええ!」
ふたりとも、ご満悦の表情だ。
琴音:「ふたりとも、どう?」
景虎:「天堂!お前、浄化スキル持ちか!?」
亜蘭:「すごいね!スッキリした〜!」
琴音:「でしょう?私たち困ってたじゃない?
これ絶対に秘密だからね。
そういう約束で来てもらったから。」
そうそう。その条件は絶対だぞ!
景虎:「ああ。もちろん。大丈夫だ。
しかし、日本に浄化持ちがいたとはなぁ。」
亜蘭:「これ、いいね!俺たち相当困ってたからねぇ。
天堂がいれば、調査が楽になるじゃん!」
景虎:「そうだな。天堂!お前、うちのクランに入らないか?」
亜蘭:「そうそう。天堂ならいいよね?面白いし。」
琴音:「ちょっと待って!
それはもう断られたから。」
亜蘭:「え?クラン抜けたんでしょ?」
景虎:「何が不満なんだ?」
これは、なかなか中途半端に伝わってるな。
それから、代わりに琴音姉さんが事情を説明してくれて、ふたりも納得したみたい。
亜蘭:「なーんだ。そういうこと?」
景虎:「じゃあ、仕方ないな。
知らなかったとはいえ、誘って悪かった。」
龍太郎:「あ。気にしてないから。
スキルを秘密にしてくれれば。」
景虎:「そうか。その約束は守る。
今、困ってることはないか?」
龍太郎:「うーん。困ってることだらけだからなぁ。
特にだと、レベル上げと装備かなぁ。」
琴音:「あ!そうだ。
装備なら残してるのがあるじゃない?
あれ、いいんじゃない?
私たちはどうせ使わないし、売らないで取っておいたじゃない?」
景虎:「ああ。あったな。装備一式。」
亜蘭:「うん。いいんじゃない?
天堂ならあげてもいいよ。」
え?何々?装備くれるの?
聞くと、カーバンクルが初めて取ったドロップ品の装備で、元々、琴音姉さんが使っていたものらしい。
なんと!マジックアイテムの装備でフルアーマーと籠手とブーツの防具3点セット品。
3人とも、さらに高級な装備を購入して使用しているので、今は使っていないのだが、最初の記念品なので、取っておいたらしい。
龍太郎:「そんな記念の装備いいのか?」
景虎:「ああ。大丈夫だ。」
亜蘭:「うん、いいよ。」
琴音:「もちろん、龍くんならOK。」
龍太郎:「やった!マジックアイテムゲッツ!
ありがとう!ウヒョ!」
景虎:「お前、全然遠慮しないな!」
亜蘭:「そうだね。やっぱ、面白いね。
源さんの言ってた通りだね!」
みんなに笑われてるけど、遠慮したら勿体無いでしょ!
琴音:「じゃあ、龍くん。
協会に連絡して所有者変更しておくから、明日潜った時にもらうといいわ。
これからも帰って来たら浄化よろしくね!」
龍太郎:「もちろん!いくらでもかけるぞ!」
琴音:「じゃあさ。もう一度かけてみてよ!」
亜蘭:「あ!俺もね!」
景虎:「俺もだ!」
それから、3人に順番に浄化をかけた。
やっぱり、みんなご満悦の表情。
そのあと、みんなでおしゃべりして楽しい時間を過ごした。
最近、人と会話することが増えたなぁ。
帰りに琴音姉さんからお返しの回復波をかけてもらって、龍太郎は帰路に着いた。
むふふ。いきなり、マジックアイテムの装備ゲットしちゃったよ!
ちなみに、俺は〈みんなの弟〉というポジションに収まってしまった。
よって、これからは琴音姉さん、景虎兄さん、亜蘭兄さんと呼ばなければならない。
はい。もちろん、光栄なことでございます。
◇◇◇◇◇
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