第46話 女神のお誘い

 ◇◇◇◇◇


 バタフライ・コーポレーション本社社長室。


 戻ってきた朱美とジェシカが話している。


朱美:「なんの手がかりもない以上、藻部の行動から当たるしかないわね?」


ジェシカ:「そうですけど、関係なさそうですけどねぇ。」


朱美:「関連しているのは、夢咲カレンと天堂龍太郎よね?

 夢咲のクランには、早乙女美紅って子がいたから、まずはこの3人ね?」


 朱美は、この3人についての情報を別の秘書に素早く調べさせて、その情報を見ていた。


朱美:「なるほど。

 3人とも、まだ駆け出しって感じよね。

 これと言った特質すべきところもなし。

 全員、スキルは不明。

 藻部のストーキングに関しても知る要素は見当たらない。

 警察や各省庁との関連は全くないと言っていいでしょうね。」


ジェシカ:「しかし、全員スキル不明は珍しいですねぇ。

 なんかしら、分かるもんなんですけどねぇ?

 よっぽど使えないスキルか、とんでもなく特殊なのか。」


朱美:「まあ、情報によると3人ともクランでの活動がほぼ無いってのもあるわね。」


ジェシカ:「でも、この情報を見ても、関係してるようには見えませんけどねぇ。

 やはり、警察関係者の仕業でしょうかねぇ?」


朱美:「それに関しては、公安の園部に継続調査を依頼しているから、何か進展があればこちらに連絡が入るようになってるわ。

 それよりこっちよ。

 状況から見て、早乙女美紅って子が一番可能性は高いわね。

 天堂龍太郎に関しては、先日宝生との勝負を見たけど、あれは可能性低いわね。

 まあ、スキルが判明していない現状で可能性を消すのは得策ではないけれど。」


ジェシカ:「一人ずつ拉致って吐かせましょうか?」


朱美:「いや、まだそこまでやる必要はないわ。

 ジェシカ。この3人についてあなたのところでそれとなく探ってくれるかしら?」


ジェシカ:「もちろんです!社長!」


朱美:「じゃあ、何かわかったら随時連絡をちょうだい。」


ジェシカ:「承知!」



 ◇◇◇◇◇



 龍太郎は、家の近所のいつもの川沿いのコースをランニング中。

 パッシブスキルの俊速を取ったがために、目立つのを避けてセーブして走ることになった。


 これってトレーニングにならないよな。

 帰ったら、激重げきおものパワーアンクル注文しないといけないかな?


 トレーニング用品にはお金をかけてしまうので、食費をセーブする羽目になる龍太郎。

 さらに最近は収入もなく、貯金は減る一方。

 貧乏まっしぐらである。

 

 そこに電話がかかって来た。


 ん?誰だろ?


龍太郎:「はい、天堂ですけど。どなたですか?」


女性:『わ・た・し!わかる?』


 ん?女性の声だよな?

 家族以外に電話知ってる女性は夢咲さんと早乙女さん以外いないはずだけど……。


龍太郎:「全くわからない。誰?」


琴音:『ふふふ。ごめんね。如月です。』


龍太郎:「如月?あ!如月さん?」


琴音:『そうよ。今、大丈夫?』


 そっか。夢咲さんが連絡先教えたって言ってたよな。


龍太郎:「うん、大丈夫。」


琴音:『急なんだけど、今日予定空いてる?』


龍太郎:「うん、空いてるな。」


琴音:『じゃあ、一緒に食事しましょ。

 5時に渋谷のレッドムーンって店で待ってるわ。如月って言って貰えば、通してくれるから。待ってるわね。じゃあ。」


 うぇい!如月さんからのお誘い?

 なんかテンション上がるぅ!

 もうランニング切り上げて、家で筋トレしよっと!



 ◇◇◇◇◇



 龍太郎は、珍しく電車に乗って、言われた通りに渋谷のお店に向かっていた。


 駅を降りて店に向かう途中に、如月琴音の大きな看板を見つけて、見上げながら。


 やっぱり超有名人なんだよなぁ。

 今からこの人と食事するんだよなぁ。


 などと物思いにふけっていた。

 少し前の龍太郎には想像もつかない状況だ。


 指定の店には、駅からすぐで事前にも調べたので迷うことなくすぐに到着した。

 商業ビルの最上階までエレベーターで昇る。


 うん。ここだな。

 時間もちょうど5分前。完璧!


龍太郎:「すいません。如月さんの……。」


店員:「はい、伺っております。

 天堂様ですね。どうぞこちらです。」


 ひえー!場違いですよ!ここは!

 コンナトコロ、キタコトナイヨ!


 見るからにお高そうなお店に緊張した様子の龍太郎がキョロキョロしながら店員についていくと、個室に案内された。


 豪華な扉を開けるとすでに如月琴音が席のついて待っていた。


 わお!如月さん!

 私服だと、これぞスターって感じ。

 オーラが凄すぎる〜!


琴音:「さあ、座って!待ってたわよ。」


龍太郎:「ここ、凄すぎません?

 ものすごくお高そうだけど。」


琴音:「そうね。

 ここ会員制だから、すごく高いわよ。

 でも、大丈夫よ。

 私、稼いでるから(笑)」


龍太郎:「そうかぁ。ラッキー!

 じゃあ、遠慮なく。」


 龍太郎は席に座ったが、まだ2人きりなので居心地が悪いような、ムズムズするような。


龍太郎:「あと誰が来るの?」


琴音:「ん?来ないわよ。

 今日は2人でお話ししようと思ってね。」


龍太郎:「あ!そうなんだ!むふ。」


 2人だけ!?これってすごくない?

  家族に自慢できるな。


琴音:「もう、料理は適当に頼んでおいたからね。

 飲み物は何にする?

 天堂くんはもうお酒飲めるのよね?」


龍太郎:「ああ。飲んだことないけど。」


琴音:「へえ。それじゃ初めてってことよね。

 なんか得した気分ね。

 じゃあ、最初はビールにしておく?

 私もそうするから。」


龍太郎:「えーっと、ほんじゃ、それで。」


 それからすぐにビールと料理が運ばれて来た。


琴音:「うん。それじゃ、初めての乾杯!」

龍太郎:「乾杯!ぷは!美味しい。」


琴音:「そう。それは良かった。

 じゃあ、飲みながらお話ししましょ。」


 それから、見たことないオシャレな料理を頂きながら、お喋りとお酒を楽しんでいた。


 如月さんって、見た目と違ってものすごく気さくな感じで、これは人気が出るでしょうよ。

 あの大看板の第一柱女神が目の前にいる。

 こんな幸福な時間があっていいのか?



 だいぶ、お酒も進んでいる。

 如月さんはオシャレなカクテルを。

 結構、酔ってきてるみたいだ。

 俺はいろいろ頂いたが、日本酒が美味しいと思う。

 だが、あまり酔うという感覚はないみたい。

 俺って結構強い方かも。

 そういえば、両親とも強かった記憶が……。



琴音:「ところで、龍くんはクラン抜けたんでしょ?

 何があったのよ?

 カレンちゃんもしょげてたぞ。」


 途中から俺の呼び方が変わってる。

 まあ、いいんだけど。


龍太郎:「それは勝負で負けちゃったんだよな。

 夢咲さんには申し訳ないと思ってる。

 宝生舞夢って知ってる?」


琴音:「うん。知ってるわよ。

 最近、国士無双に入ったってね。

 その勝負って何?」


龍太郎:「俺が攻撃を一回でも当てれば勝ち。

 当てられなければ負けっていう勝負だな。」


琴音:「へえ。それを受けたの?

 それはダメだよ。バカのやることよね。

 でも、そういうことか。

 で、条件がクランを抜けるってこと?」


龍太郎:「そうだな。ソロに戻るってのが条件で。」


琴音:「まあ、一杯食わされたわね。

 それくらいのレベル差があったってことでしょ?」


龍太郎:「そういうことだな。

 今はレベル上げを頑張ってる。」


琴音:「へえ。どこで?」


龍太郎:「ファースト・ダンジョンだな。

 今は第1階層を回ってて、明日からは第2階層に行く予定だな。」


琴音:「へえ。すごいじゃない。

 ソロだと結構苦労するでしょ?」


龍太郎:「それがそうでもないな。

 ほぼ無傷でいけるし。」


琴音:「それは謎が多いわね。

 宝生くんには当てられないほどのレベル差があって、でもファースト・ダンジョンの第1階層は無傷。君、面白いね。

 そうだ。ファースト・ダンジョンよね。

 ちょっと知る人ぞ知る情報を教えちゃう。

 というか注意事項だね。

 そんな人は滅多にいないんだけど、知らないと危険だからね。

 ファースト・ダンジョンは3階層になってるんだけど、第3階層にボスがいるのは知ってるよね?」


龍太郎:「いや、知らない。」


琴音:「……。これは言っておいて正解ね。

 でね。ボス部屋に入る時にソロだと特殊なモンスターが登場するのよ。

 何だと思う?」


龍太郎:「うーん。ドラゴンとか?」


琴音:「ブー。違う。

 正解は自分が出てくるらしいよ。」


龍太郎:「はぁ!?どういうこと?」


琴音:「そうなるわよね?

 正確にはドッペルゲンガー。

 相手の姿に変化しちゃう。

 しかも、個体強度レベルは自分の数倍の状態で現れるのよ。

 だから、相当有効なスキルを持ってないとまず勝てないってやつよ。

 もう今は試す人すらいないわね。」


龍太郎:「ヤバ!知らずに入ったら大変なことになってたな。」


琴音:「そうよ。良かったわ。

 ソロで行くなら、入っちゃダメよ。」


龍太郎:「ああ。でも、どうやってそれが分かったんだろ?」


琴音:「それはね。倒した人がいるからなのよね。

 その人はソロで何回も踏破してるの。

 よっぽど有効なスキル持ちなんでしょうね。

 曰く、そのドッペルゲンガーを倒すと、ものすごく個体強度レベルが上がるって話で、その情報は協会に知らされた。

 で、当時は何人かの挑戦者が出たらしいわ。

 でも、その人たちは帰らぬ人となった。

 で、それ以降はあまり挑戦するものはいなくなったって訳。」


龍太郎:「へえ。それは激ヤバだな。

 で、その何回も踏破した人って今もいるのか?」


琴音:「いるわよ。伝説のエクスプローラ。

 もう引退したけどね。ふふふ。」


龍太郎:「ふふふって。誰よ?」


琴音:「それはね……お千代さんよ。

 どんなスキルなんでしょうね。」


龍太郎:「お千代さん!?

 伝説のエクスプローラ?

 とても、そんな風に見えないな。」


琴音:「やっぱり、龍くんは失礼よね。

 たぶん、引退してなかったら、今も日本最強だと思うわよ。

 ちょっと、異常なレベルらしいから。」


龍太郎:「あの婆さんがか?怖っ!」


琴音:「ちょっとやめなさい!

 婆さんっていうほど老けてないから。」


 お千代さんのスキルは召喚だよな。

 なんかイメージ、物凄いやつを召喚できるってことかなぁ。


 そのドッペルゲンガーって奴を倒すと個体強度レベルが上がると。

 そして、スキル次第で倒すこともできると。

 これってワンチャンありか?

 これは後でアイちゃんに相談だな。


 ◇◇◇◇◇

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