第45話 天誅!!

 ◇◇◇◇◇


 龍太郎とカレンはネットカフェの店を出て、カレンの自宅へ向かおうとした際にアイちゃんがある人物を発見した。


AI:〈マスター!藻部がいるよ!〉


龍太郎:『え?どこ?』


 やはり、藻部はカレンの様子を見にこの街に来ていたみたいだ。

 藻部は新しく与えられたミッションを次々と達成していることで、気が大きくなっているのか、カレンの尾行に関しては気を抜いている。

 アイちゃんでなければ、気付かなかったかも知れないが……。


 あいつ、クランを抜けたくせにまだ俺のカレンちゃんと会ってるのかよ!?

 懲りないやつだねぇ?

 カレンちゃんのためにもう少しお仕置きが必要だよなぁ。


 藻部は、龍太郎と舞夢との一件を知らされていなかったので、藻部が闇討ちしたことで龍太郎がクランを抜けたと勝手に思っていた。

 なので、今度はエクスプローラを辞めるまで徹底的に痛めつけることが必要だと勝手に考えている。

 それがカレンのためになるという狂気的な思考で。

 悲しいかな、そういう狂気的思考の持ち主が一部存在するのがこの世の中である。


AI:〈マスター。藻部はこっちが気づいてないと思ってるみたいだよ。

 影武者モードの龍次郎を後ろから追いかけさせれば、藻部の裏を取れるよ。

 マスターはそのまま気付かないふりで、歩いていって。〉


龍太郎:『オケ、ラジャ。

 影武者龍次郎!カモン!』


 ボン!


 影武者モード龍次郎のスタンバイOK!


龍太郎:「夢咲さん。藻部が後ろから尾けてるみたい。

 そのまま、気付かないふりで歩いて行こう。」


カレン:「え?そうなの?

 うん、わかった。」


 龍太郎とカレンは、普通に喋りながら、カレンの自宅の方向にゆっくりと歩を進めていく。


 その間に待機した龍次郎は、全く気付かれずに藻部を裏を取ることに成功。


 よし、準備は整ったな!時は来た!


 天誅!!


 影武者モード龍次郎は藻部の鳩尾みぞおちに一発アッパーパンチを喰らわしたのちに、前屈みに苦しむ藻部の背中側の首元に握った両手で鉄槌を振り降ろした!!


 その衝撃に一瞬にして藻部は地面に這いつくばった。

 ただし、藻部と違って気絶しないように加減してますからね。


 龍太郎とカレンは耳打ちして、その場で立ち止まって振り返り、近づかないように様子を見ている。

 影武者モード龍次郎が、藻部の様子を監視。

 

 藻部は動けず苦しそうにしていたが、ポケットからやっとの思いでスマホを取り出し、どこかに電話をし始めた。


 プルルル、プルルル!


藻部:「あ!朱美社長〜!」


藻部:「はい、何者かにやられました!」


藻部:「全く動けません!」


藻部:「はい、場所は………。」


 周りで見ていたオーディエンスに囲まれていた藻部は救急車を呼ぶかと聞かれているが、叫ぶように「やめろ!」と怒鳴っている。


 救急車を呼ばれるとまずいのか?

 やっぱ、アイちゃんの想定通りだな。



 数分経って、朱美社長の手配した者であろう人物が現場に来て、藻部はその人物に連れられて何処かに消えて行った。


 その様子を確認して、龍太郎とカレンもその場を去った。



 ◇◇◇◇◇



 バタフライ・コーポレーション本社医務室。


 社員に引き取られた藻部が治療を終えてベッドで横たわっている。

 その首にはコルセットが巻かれている。

 診断結果は、打撲&強度のムチウチ。

 前回の龍太郎と同じ。ざまぁ。



 そこへ朱美社長が入ってきた。


藻部:「あ!朱美社長!」


 藻部は起きあがろうとしたが、全く起き上がれない。


朱美:「そのままでいいわ。」


藻部:「はい!すいません!」


 藻部は申し訳なさそうに、ベッドに横たわっている。



ジェシカ:「社長、どうでしたか?」


 医務室の窓際に立ち、外を眺めていた女性が朱美に声をかけた。


 バタフライ・コーポレーション株式会社

 社長秘書室 室長

 片桐かたぎりジェシカ


 彼女はエクスプローラとしても登録はしているがクランには未加入で、抹消されない程度にゲートに潜っている、なんちゃってエクスプローラ。

 通常は朱美の護衛や特殊任務をこなしている朱美の右腕である。

 スペイン人と日本人のハーフで彫りの深い顔立ちのエキゾチック美人。

 顔立ちの印象通り、性格はきつい。

 元不良グループのリーダー。

 また、国士無双と同行での強制レベリングのおかげで、そこそこ個体強度レベルも高い。



朱美:「まだ、何も掴んでいないし、藻部をターゲットにした動きは一切無いそうよ。」


ジェシカ:「そうですか……。その線はなしか。じゃあ、一体誰が?」


 朱美は、藻部から連絡を受けた後すぐに、繋がりを持つ公安の園部に直接電話をして、警察内と某省庁の動きを調べさせたが、彼からの返事は全くそれらしい情報も動きもないとのことであった。


朱美:「そうね。全く手がかりなしだわ。

 今回のことは、例の件とは関連がないようね?」


 朱美としては、関連がないことで最悪の事態は免れたと考えていたが、そうは言っても時期が時期だけに放っておく訳にもいかない。



 ここからジェシカの尋問が始まった。


ジェシカ:「おい!藻部!

 お前、わざわざあんな街に何をしに行ってたんだよ!?」


藻部:「はい!ちょっと知り合いに会いに……。」


ジェシカ:「知り合い?誰だ?」


藻部:「それはちょっと……。」


ジェシカ:「はぁ!?お前なぁ!

 こんな大袈裟なコルセットしやがって!」


 ジェシカは、藻部のコルセットをガンガンと殴っていた。


藻部:「痛い!本当に痛い!やめてください!」


 藻部は本当に攻撃してくる強者にはめっぽう弱い典型的な小心者であった。


ジェシカ:「誰だ?言えよ!」


 藻部はジェシカに睨まれて、観念したように喋り出した。


藻部:「……カレンちゃん。」


ジェシカ:「はぁ!?カレンちゃん?名字は?」


藻部:「……夢咲です。」


ジェシカ:「夢咲カレン?セブンスの夢咲カレンか?」


藻部:「そ、そうです。」


ジェシカ:「はぁ!?お前!ふざけんじゃねぇ!」


 藻部はジェシカにボコボコにされた。


 それから、藻部はジェシカから殴られながら徹底的に事情聴取をされた。

 ある意味、一種の拷問である。


ジェシカ:「お前、本当に気持ち悪いな!

 それはストーカーって言うんだよ!

 知り合いでもなんでもねえじゃねえか!」


藻部:「俺はストーカーじゃないです!

 見守ってるだけです!」


ジェシカ:「うるせえ!変態がぁ!」


 また、ボコボコにされた。

 藻部の入院期間がどんどん延びていく。



朱美:「まあ、わかったわ。

 藻部はゆっくり療養しなさい。

 治ったら、また仕事に戻ってもらうから。」


藻部:「ぶぁい!朱美社長!!

 ありがどうございまずぅ!」


 藻部は涙声で返事している。

 もう味方は朱美社長だけです!

 と言わんばかりに……。


朱美:「ジェシカ、行くわよ。」

ジェシカ:「はい、社長。」


 朱美とジェシカは、医務室を出て社長室に戻って行った。


 ◇◇◇◇◇

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