第44話 休暇日

 ◇◇◇◇◇


 今日は日曜日。週に一度の休暇日だ。


 カレンと待ち合わせをして、最寄駅近くのネットカフェに来ている。


 なぜ、ネットカフェかって?

 それはカレンの人気が爆上がり中で、普通に街中で食事などをしていると声をかけられる頻度が上がったからだ。


 今日もカレンは帽子にサングラスをつけて、若干の変装をしているくらいだ。

 こうするだけでも、結構わからなくなるらしい。


 ただ、龍太郎と視覚を共有したアイちゃんは、初めて見たカレンの姿に若干の違和感を感じていた。


 店に入った龍太郎とカレンは、それぞれワンドリンクを持って個室に入った。


龍太郎:「変装って芸能人みたいになったな。

 お忍びで会ってるみたいだな。」


カレン:「そうだね。元々バレてたんだけどね。

 今までは、それでも遠慮して声をかけられなかったことが多かったんだけど、例のファンクラブを作ってからは、なんかファンクラブの会員から声をかけられるようになっちゃってさ。それで。」


龍太郎:「結局、ファンクラブ作ったんだな。」


カレン:「そう。美紅ちゃんがノリノリで押し切られちゃったんだよね。

 それで美紅ちゃんもファンクラブを作ってもらったのよね。」


龍太郎:「へえ、そうなんだな。

 じゃあ、面白そうだし、ちょうどパソコンもあるから、そのサイトを覗いてみるか。」


カレン:「うん、いいよ。

 それじゃ、もうこれ取るね。」


 カレンは変装用につけていた帽子とサングラスを取った。

 その時、アイちゃんに衝撃が走った!


AI:〈ちょっとごめん!マスター!

 今一緒にいるのが豪運娘なんだよね!?〉


龍太郎:『ん?アイちゃん?

 そうだけど、どうかしたのか?』


AI:〈あ、そうなんだ。

 ううん、なんでもないよ。

 初めてだったから、ちょっと確認しただけだから。〉


龍太郎:『そっか。ま、夢咲さんって、ちょっとビックリするくらい美人だからな。

 まあ、初めて見ると驚くよな。』


AI:〈あ、そうだね……。

 ちょっと驚いたかも。美人だね。〉


 アイちゃんは、カレンの顔を見たことで、さっき感じた違和感の正体を理解した。


 どういうこと?

 なぜ、ここにいるのよ?

 それとも彼女は別人なの?


 アイちゃんは、夢咲カレンの存在自体に違和感を感じた。

 だが、これはまだ龍太郎には言わない方がいいと判断して、その場は収めた。



龍太郎:「へえ、これが夢咲さんのサイトな。

 カレン・オフィシャル・ファンクラブ。

 やっぱ、プロが作るとすごいちゃんとしてるんだな。

 しかも、めちゃくちゃ仕事早いな。

 え?年会費って5000円も取るのか!?」


カレン:「そうなのよ。細川さんがそれくらい取っても大丈夫って言うから。」


龍太郎:「それはボッタくってんじゃないか?」


カレン:「本人を前にして、それ言う?」


龍太郎:「えーーー!?会員数20860人?

 へえ、もうこんなにいるんだな?」


カレン:「そうだよ!適正価格ってことだよね?

 ねえ。天堂くん!だよね?」


龍太郎:「ああ。人気すごいな。」


カレン:「でしょ!でしょ!」


 カレンはやたら自慢げに胸を張っている。

 ファンクラブって乗り気じゃなかったはずなんだけど……。



龍太郎:「じゃあ、次に早乙女さんのサイトにも行ってみるか。

 ミクミク・オフィシャル・ファンクラブ。

 え?こっちも5000円取るのか?」


カレン:「それは、細川さんも下げた方がいいって言ってたんだけど、美紅ちゃんが一緒で行きたいって強引に押し通したんだよね。」


龍太郎:「なるほど。分かる気がする。

 で、会員数が206人って訳か。

 この会員は大事にした方がいいな。」


カレン:「そうだね……。

 細川さんも運営出来るか心配してたよ。」


龍太郎:「骨男社長な。

 今日は午後から事務所行くんだったよな?

 何があるんだ?」


カレン:「今日は午後からファンクラブ用の撮影だね。

 いろいろ準備するものがあるらしくって。

 美紅ちゃんも一緒だよ。」


龍太郎:「へえ、本当に芸能人みたいだな。

 なんか、変な感じ。」


カレン:「まあでも、もうすぐ次の女神選抜大総選挙があるじゃない?

 どの道、その撮影もあったから、今回はそれも兼ねて撮ってくれるみたいだから。」


龍太郎:「お!そうか。そんなのあったな。

 今年は俺も選挙に参加してみるかな。」


カレン:「うん。天堂くんは私に投票するんだよね?」


龍太郎:「ああ、たぶん。」


カレン:「たぶん?」


龍太郎:「あ、いや。もちろん夢咲さん一択だな。」


カレン:「うん。よろしい!

 で、天堂くんの方はどう?

 毎日、狩りに行ってるみたいだけど、順調なの?」


龍太郎:「よくぞ、聞いてくれました!

 俺もさあ、レベルアップしたんだよな。」


カレン:「嘘っ!やったじゃん!すごいよ!」


龍太郎:「新しいスキルも増えたよ。

 俊速って言うんだけど、すごく速くなってるよ。」


カレン:「へえ、すごいね。

 そっか。順調にいってるんだね!

 今、どこで狩ってるの?」


龍太郎:「ファースト・ダンジョンだな。」


カレン:「えー!ソロで行ってるんだ!?

 大丈夫なの?」


龍太郎:「ああ、問題ないな。

 第1階層ならほぼ無傷でいけるぞ。

 来週から第2階層に行く予定。」


カレン:「そっか。もう私なんかより強くなってるね。

 そっかー。頑張ってるんだね。

 うんうん。いいね!

 下剋上!だもんね!ふふふ。」


龍太郎:「まあな。でも純粋な攻撃力と防御力なら、夢咲さんにはまだ圧倒的に負けてるよな。

 夢咲さんの装備って神だもん。

 あれを超えるやつはいないからな。」


カレン:「そうそう。それは自慢だね。」


龍太郎:「夢咲さん、狩りはどうするの?」


カレン:「うん。今週は私も美紅ちゃんもファンクラブの件でいろいろ忙しかったから、来週からまた潜ることにしてるよ。

 天堂くんが抜けたけど、美紅ちゃんと2人でクランは続けていくから。」


龍太郎:「ああ、そうしてくれ。

 俺の戻る場所だからな。

 残してもらわないと困る。」


カレン:「うん。わかってる。待ってるからね。」



 飲み物がなくなったので、ふたりで飲み物とついでに食べ物の補充をして部屋に戻る。



 何気なしに開いたニュースサイトにある記事が載っていた。


カレン:「あ、それね。

 今、都内で連続通り魔事件が発生してるんだって。

 それがエクスプローラの犯行じゃないかって言われてるんだよ。」


 記事の内容は、今週だけですでに3名の被害者が出ているらしい。

 被害者には共通点があり、全員が厚労省の職員ということ。さらに共通点として、一切の証拠が残っていないということだった。

 このことから、一部でエクスプローラの犯行ではないかと言う噂が出ているらしい。


龍太郎:「へえ、闇討ちか。」


カレン:「そうなんだよね。

 だから、藻部かも知れないと思って。

 天堂くん、気を付けて。」


龍太郎:「確かに俺の時と似てるよな。

 夢咲さんも気を付けてな。」


カレン:「うん。

 あ、それとカーバンクルが戻ってきたみたいで、クランが相互になったんだけど、天堂くんが抜けたって言ったら驚いてたよ。

 詳しくは言ってないんだけど、心配してたから、天堂くんの連絡先を教えておいたよ。」


龍太郎:「ああ、サンキュ。」


カレン:「そろそろ出ようか?お昼どうする?」


龍太郎:「俺はいいわ。大盛りカップ焼きそば食っちゃったし、帰ってランニングと筋トレだな。」


カレン:「そうだね。私ももういいかな。

 じゃあ、うちまで送ってよ。」


龍太郎:「了解です!」


 ネットカフェの店を出て、ふたりで歩いて帰ろうとしたのだが……。


 ◇◇◇◇◇



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