第38話 特殊任務課

 ◇◇◇◇◇


 時は少し遡って、国士無双トップチームが潜る前の話。

 喜多川北斗のマンションでの出来事。


北斗:「朱美。ちょっといいか?」


朱美:「はい、何でしょうか。ボス。」


北斗:「公安の園部そのべから連絡が来てな。

 俺たちの周りで捜査が進んでいるらしい。」


朱美:「公安が動き出したと?」


北斗:「いや、公安は大丈夫だ。

 上から圧力をかけてもらってるからな。

 動いているのは厚労省だ。

 単独で麻薬取締官マトリがチョロチョロと動き回っているらしい。」


朱美:「それは厄介ですね。

 何か対処が必要ですね。」


北斗:「ああ。そこでだ。

 フィフスが戻って来たら藻部を除名する。

 あいつはエクスプローラとしては大成しないだろう。国士無双にはふさわしくない。

 それに一つ枠を空ける必要もあるしな。」


朱美:「それは宝生の件ですか?

 彼は本当に来るのでしょうか?」


北斗:「それは大丈夫だ。

 間違いなくあいつは来る。」


朱美:「確かにあれだけの額の契約金を提示していますので、そうかもしれませんが。」


北斗:「まあ、それもあるが、あいつは今回、自分から売り込んできている。

 あいつは俺がそれに気づいてないと思っているだろうがな。」


朱美:「それは気付きませんでした。

 では、枠を空けておくとして、藻部が除名にすんなりと応じるかどうか。

 彼は少し闇を持っているというか、二重人格の要素がありますから。」


北斗:「確かにな。

 だから、除名したあと、代わりにあいつをお前のところの社員として預かってくれ。

 給料は現在の収入の2倍という条件にして、適当な役職をつけてな。

 それで奴はすんなり応じるはず。

 それくらいの小さい男だ。

 まあ、その辺りはうまくやってくれ。」


朱美:「わかりました。

 そのように処理しておきます。」


北斗:「で、ここからが本題だが……。

 お前に俺が入手したマトリの全データを送っておく。藻部にそいつらを処理させろ。

 あいつは尾行のスキル持ちだ。

 エクスプローラをやってるより、よっぽど役に立つ。

 あいつに証拠が残らないようにマトリを排除するように命令しろ。

 それが唯一の仕事だとな。

 ただし、殺さない程度にだ。」


「なるほど。承知しました。

 すべて指示通りに。」



 ◇◇◇◇◇



 時を戻し、ところ変わって、国士無双のクランハウスAー101。


 長い探検から戻って来たフィフスチームが、各々に疲れを取っていたが、すでに帰り支度の真っ最中である。


リーダー:「おい、藻部!」

藻部:「はい!」

リーダー:「朱美社長から伝言だ。

 お前だけ、ここに残れってよ。」

藻部:「はい!」

リーダー:「じゃあ、俺たちは帰るからな。」

藻部:「はい!お疲れっした!」


 藻部以外のフィフスチームメンバーは、早々に帰路につき、藻部だけが部屋に残った。


 藻部も帰り支度は出来ていたので、ソファに一人座って、何やら妄想している。


 朱美社長が何の用かなぁ?

 俺、頑張ってるからご褒美かな?

 もしかして、あんなことやこんなことや。

 朱美社長、綺麗だよなぁ。

 いやでも、俺にはカレンちゃんがいるから、浮気しちゃダメだな。

 久しぶりに会いに行かないとなぁ……。



 少し時間は経過したが、それほど待たずに朱美がクランハウスに到着した。


朱美:「藻部。お疲れ様。」


藻部:「あ!朱美社長。お疲れ様です。

 今日はお一人ですか?」


 朱美は藻部の向かいのソファに座った。


朱美:「そうよ。一人よ。

 戻って来て早々に申し訳ないんだけど、ちょっと大事な話があってね。」


藻部:「はい!」


 藻部は、明らかに何かを期待しているような表情をしている。

 それを察したのか、朱美は慎重に話を進めたのだが……。


朱美:「まずは、落ち着いて最後まで聞くのよ。

 あなたにとっていい話だから。いいわね?」


藻部:「はい!」


朱美:「まず、あなたを国士無双から除名するわ。

 そして、その代わりに……。」


藻部:「はぁ!?除名!?除名ってなんだ?」


朱美:「ちょっと待ちなさい!

 話を最後まで聞きなさい!」


藻部:「なぜ、俺が除名なんだよ!?

 俺、頑張って来たんだよ。」


 案の定、朱美が話し終える前に、藻部は〈除名〉というキーワードに感情が一気に爆発した。

 それを上から強く抑えるように、朱美は叫ぶかの如く、藻部の言葉を制止した。


朱美:「その代わりに!!聞きなさい!!

 別の重要なポストを用意したわ。

 あなたの能力を買ってのことよ。」


藻部:「別の重要なポスト?」


朱美:「そうよ。私の会社に入ってもらいます。

 役職は、特殊任務課の課長です。

 給料は、現在の収入の2倍になるわ。

 おめでとう。昇進よ。」


藻部:「俺が昇進!昇進か!?

 そうか。俺、頑張ったもんな。

 朱美社長。ありがとうございます。」


朱美:「良かったわね。

 あなたにはこれからも頑張ってもらうわよ。」


藻部:「はい!」


 今度は〈昇進〉というキーワードに逆の感情が一気に爆発したようだ。単純な男である。



朱美:「それじゃ、早速だけど、あなたは特殊任務課だから、会社に出勤する必要はないからね。

 あなたの社員証はここで渡しておくわ。」


藻部:「おー!これが俺の社員証!」


朱美:「その代わりに、この写真を見て。

 この写真の人たちを排除していくのが、あなたの重要な任務になるのよ。

 やり方は分かってるわよね?

 証拠は残さない。殺さず排除。いいわね?」


藻部:「あ!大丈夫です。お任せください!」


朱美:「じゃあ、データはこの中に入れてあるから。

 何かあったら、私に直接連絡しなさい。」


藻部:「はい!了解です!」


朱美:「じゃあ、話は以上よ。

 今から一緒に協会本部の登録課に行くわよ。」


藻部:「はい!」



 藻部明夫はそのあと、国士無双クランの登録を抹消となった。


 代わりに、新しい肩書きを手に入れた。


 バタフライ・コーポレーション株式会社

 特殊任務課 課長

 藻部明夫



 ◇◇◇◇◇



 一方、その翌日にあたる、ファミレスでの握手会イベントの翌日、龍太郎たち3人は協会本部の3階、警務部に来ていた。


 協会には美紅の軽自動車に乗ってここまでやって来た。


 実は、カレンは龍太郎には、ついて来てもらうように頼んだのだが、美紅も当然一緒に行くでしょ!と言い出し、なら別々に行くのも変だからという理由で。


 そこで初めて、龍太郎は美紅がカレンと同じマンションに住んでいることを知った。


 早乙女さんもガチ勢だったよ。

 と、龍太郎はカレンの寛大な裁きに、改めて豪運様って偉大だ。と思わざるを得なかった。


 なお、龍太郎の首のコルセットはすでに外れている。警務部に寄る前に医務部に行って、外してもらった。

 通常であれば、まだ外すことができないくらいの期間ではあるが、やはり、エクスプローラは特殊な体質になっているのか、通常よりも速いスピードで回復するようだ。

 それに龍太郎が日頃のトレーニングで鍛えていることも、衝撃のダメージを少なくしていたということらしい。

 やはり、体は鍛えておいた方が良い。

 趣味がトレーニングは伊達じゃない。



職員:「はい、これで接近禁止命令解除の申請処理完了です。

 本当に解除して良かったんですか?」


カレン:「はい、先日先方と和解しまして。」


職員:「はぁ。そうですか。

 でも、注意してくださいね。

 そういう奴は再犯率が高いですから。」


カレン:「はい、ご心配ありがとうございます。」


 横で聞いていた美紅は耳が痛い……。


龍太郎:「夢咲さん。注意した方がいいぞ。

 そういう・ヤ・ツ・は危ないからな。」


美紅:「もう!あんたは黙ってなさい!」


カレン:「そうだね。

 そういう・ヤ・ツ・は注意するよ。」


美紅:「もう!カレンさんまで〜!」


 ということで!

 わちゃわちゃしながら、3人が協会本部の建物を出ようとした時!


チャラ男:「これはこれは、カレン姫じゃないですか?

 こんなところで会うなんて、すごく運命感じちゃうよね!」


 前方から、超イケメンのチャラ男がカレンに声を掛けた。

 その横には、大人の女性という表現が相応しいスーツ姿の妖艶な女性が立っている。


 誰だ、こいつら?


 ◇◇◇◇◇

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