第37話 専属マネージメント契約

 ◇◇◇◇◇


 近くの駅前のファミレス。

 握手会イベント終了後。


カレン:「ふぅ。終わったね。」


美紅:「カレンさん。すごかったですね。

 やっぱり、人気ありますね。」


カレン:「まあねぇ。」


 天堂くん。どう、見てた?

 と言わんばかりに胸を張った。

 実はカレンは龍太郎に見せたかったのか?


 次に美紅は骨男に突っ込んだ。


美紅:「ねえ。細川さんさぁ。

 さっきは言わなかったんだけど、何、商売始めてるのよ!?」


細川:「ああ、あのリストバンドは、もう今日で不要になると思ったんで、最後に街で配ろうと思って持って来てたんですよ。

 でも、どうせならカレンちゃんに還元しようと思いまして、販売しちゃいました。

 一応、業者に作らせた物なので、グッズとしての品質はしっかりしてますよ。

 カレンちゃん。これ受け取ってください。」


 骨男は売上げ金全額をカレンに差し出した。


カレン:「え?私?要らないよ。」


細川:「それじゃ、僕が困ります。」


カレン:「そう言われてもね。」


 骨男は好意のつもりで申し出たのだが、カレンも困っている。



細川:「カレンちゃん。

 ちょっとこれ見てもらえますか?」


 骨男はリュックから一枚の書類を取り出してカレンに提示した。


カレン:「何ですか?これ?」


細川:「契約書ですね。

 私、そう言う仕事をしていまして。

 申し遅れましたが、これ私の名刺です。」


 骨男はポケットから名刺入れを取り出して、カレンに名刺を差し出した。


 サンシャイン・プロダクション株式会社

 代表取締役社長

 細川素直


カレン:「え?代表取締役社長?」


 龍太郎の影武者もそれには驚いた。


 はぁ!?この骨男が社長だとぉ!?

 この格好は、どう見てもニートだろ!?

 今日もTシャツ姿で、胸にデカデカと〈無限大〉の文字。どういう意味よ!


美紅:「え?カレンさん。私にも見せてください!」


 美紅はカレンから名刺を受け取って、確認した。


美紅:「えー!?サンシャインの社長!?」


 美紅の方が驚いている。


カレン:「美紅ちゃん、知ってるの?」


美紅:「はい。カレンさん、迷宮HAPPY!っていう5人組のアイドルグループ知りませんか?」


カレン:「ああ、知ってる。最近人気だよね。

 恋をしてます♡って曲だったっけ?」


美紅:「はい。そのアイドルグループって確かサンシャイン所属ですよ。

 だよね?細川さん。」


細川:「はい、よくご存知ですね。

 彼女たちはうちの子ですよ。

 僕がスカウトして来た子達です。

 もう、5年くらい前の話ですけどね。」


カレン:「へえ。結構有名なプロダクションなのね。」


細川:「いえいえ、やっと大きくなって来たって感じですよ。」


 美紅がスマホを取り出して、プロダクションの検索をすると、サンシャイン・プロダクションのウェブサイトが表示された。


美紅:「カレンさん。これですよ。」


 カレンはスマホを受け取って、いろいろな情報を見ていた。

 会社概要欄にも、社長のコメントが顔付きで掲載されていた。


 君の才能は無限大だ!

 未来に向かって大きくもがいてみよう!

 僕たちは君の挑戦を待ってる!

 

カレン:「本当だ。細川さんだね。」


細川:「はい。そのキャッチコピーは僕が考えたんですよ。いいでしょう?」


カレン:「うーん。なんかおじさんっぽいね。」


細川:「え?そうですか。

 いいと思ったんですけど……。」


カレン:「それでこの契約書って、私にアイドルになれってこと?」


細川:「いえいえ、そうじゃないです。

 専属マネージメント契約です。

 その契約書はあくまで参考で見ていただければ。

 カレンちゃんの場合、すでにものすごい人気がありますから、条件面に関しては見直す必要がありますので。」


カレン:「うーん。よくわからないんだけど。

 そのマネージメント契約って?」


細川:「はい、今後いろいろ相談することになりますけど、先程の感じだと、ファンクラブの設立とグッズの物販をメインに、たまにイベントを開催して会員を増やせていければ、なんて感じでどうでしょうか?

 その準備は資金も含めて、全てプロダクションの方でやります。

 これだと、あまりエクスプローラの活動への影響はないと思います。

 負担にならなければ、如月琴音さんのように、モデル業も並行でやっていただければありがたいですけど、これはあくまで負担にならなければということで。」


 横で聞いている龍太郎は、早く終わってほしいと思っている。


 調子に乗るな!ニート社長!はよ終われ!


カレン:「うーん。如月琴音さんみたいってのは憧れるし、悪い気はしないけど、今はあんまり興味ないかも。」


 よし!夢咲さん!ナイス!カモン!


美紅:「えー!カレンさん!

 断っちゃうんですか?」


 こらこら!早乙女さん!話を戻すな!


カレン:「うーん。そうだね。」


細川:「いえ、カレンちゃん!

 そんな今日すぐに決めなくてもいいですから、持ち帰って検討してください!

 絶対にカレンちゃんの魅力をもっと世に伝えるべきです!

 そのお手伝いをさせてください!」


 もう!骨皮筋男ほねかわすじお

 その必死さは何なんだ!?

 その情熱はお前んとこのアイドルに注げ!


美紅:「そうですよ!カレンさん!

 一度、持ち帰りましょう!」


 よし!持ち帰れ!終了だ!


カレン:「そうね。じゃあ、持ち帰り検討ということにしましょうか。」


細川:「はい!ぜひよろしくお願いします!

 何かあれば、名刺の電話番号に連絡いただければ、すぐに飛んできます!」


 ふぅ。やっと終わったか。

 残ってるコーヒーを急いで飲め!


美紅:「細川さん。私のマネージメントは?」


 やっと終わったと思ったら、今度は美紅が……。


細川:「え?ミクミクのマネージメント?」


美紅:「うん、そう。

 私、エクスプローラになる前はアイドルになるのが夢だったんだよね。

 契約してもいいよ。」


細川:「ミクミク!

 アイドルを舐めてもらっては困りますよ!

 片手間で出来る職業じゃないんです!

 レッスンとかステージで毎日が埋まってるんですよ!」


 うわー!熱い!骨男ってこんな感じ?


美紅:「えー!そんな怒んなくてもいいじゃん!

 わかったわよ。

 じゃあ、モデルとか?」


細川:「ミクミク。

 もし、エクスプローラじゃなかったら、片手間じゃなかったら、レッスンを受ければ、アイドルという線はいけるかもしれません。

 でも、モデルとなれば、話は別です。

 厳しいようですけど、その体型では無理です。

 こちらもプロなので、曖昧なことは言えないんです。そこはわかっていただきたい。」


 へえ、ただのニート社長じゃないんだな。


 早乙女さん、泣きそう。


細川:「ただ、ミクミクも人気のポテンシャルはあると思いますので、他の形であれば行けるかもしれないですね。

 カレンちゃんと一緒に、ということを条件にマネージメントさせてください。」


 こいつ!条件に夢咲さんを持って来たぞ。

 本当にただのニート社長じゃねえな!


美紅:「そうよ。私はポテンシャルなのよ。」


カレン:「まあ、美紅ちゃん。

 帰って相談しましょ。」


 もういいだろ。終了。


細川:「はい、ありがとうございます。

 今日は素敵な時間をいただきました。

 本当にサプライズでした。

 ぜひ、良いお返事をお待ちしてます。


 あ!それと、今日これだけは言っておかないとという事があって。

 カレンちゃん。

 迷彩柄の男には気を付けてください。

 僕が言うのもおかしいですけど、あいつは危ないです。」


カレン:「え?それって藻部明夫だよね!」


 そう!藻部明夫!

 間違いなく、藻部じゃん!


細川:「え?カレンちゃん、知ってるんですか?」


カレン:「あ、うん。ちょっとね。」


細川:「そうですか。なら、大丈夫ですね。

 僕も気になってたもので。

 では、僕はこれで失礼します。」


 細川は深くお辞儀をして、その場を立ち去っていった。

 もちろん、お会計は済ませて。


 カレンと美紅は、細川が去る前にちゃっかりビッグチョコレートパフェを頼んでいたので、それを食べてから帰って行った。



 ◇◇◇◇◇



 ファミレスからの帰り道。

 一応、帰るまでは2人の後ろから影武者を同行させるつもりだったが。

 

AI:〈マスター。ちょっといい?〉


龍太郎:『ん?どうした?アイちゃん。』


AI:〈迷彩男がゲートから戻って来たみたいだね。

 でも、なんかあったみたいだよ。〉


龍太郎:『ん?ちょっと待って。

 もうすぐアパート着くし、もういいだろ。

 戻れ!影武者!ボン!

 それでなんかって?』


AI:〈うん。戻ってすぐに国士無双を脱退したみたいだよ。別の重要な仕事のためだってさ。〉


龍太郎:『なんじゃそりゃ。重要な仕事?

 まあ、脱退しててもやることは一緒だし、別にいいんじゃね?』


AI:〈まあ、そうだね。〉


龍太郎:『どうせ、また、あいつはこの街に来るだろ?

 その時は、影武者で倍返しだぜ!

 アイちゃん。情報サンキュな。』


AI:〈はいはーい〉



 それから程なくして、カレンと美紅が龍太郎のアパートに戻って来た。


 戻って来た美紅が、ファミレスでの出来事を事細かに説明してくれたんだけど、俺はそれ全部知ってるんだよ!

 一部始終、全部見てたんだよ!


 ものすごく苦痛な時間。

 カレンも苦笑いで聞いてた。


 一応、藻部が戻って来た内容がSNSに上がっていることはカレンには伝えておいた。


 それを聞いたカレンは、少し心配そうにしていたが、俺はやる。

 俺の辞書にやられっぱなしという文字はない。


 ◇◇◇◇◇

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