第36話 第七柱女神vs骨男

 ◇◇◇◇◇


 第七柱女神・夢咲カレン選手vs骨男・細川素直選手の無制限一本勝負。

 ここファミレスからお伝えしております。


カレン:「それじゃあ、話を始めましょうか?」


細川:「はい……。

 この度は誠に申し訳ございませんでした!

 つい出来心で、カレンちゃんにご迷惑をおかけしてしまいました。

 本当に申し訳ございません!」


 骨男は頭を机に擦り付けて、必死に謝罪をしているようだ。


 そして、夢咲さんのターン。


カレン:「どうして、あんなことをしたの?」


細川:「それは……。」


 骨男は、チラッとミクの方を見るがすぐに目を外してまた喋り始めた。


細川:「すいませんでした!」


 また、骨男は頭を机に擦り付けている。


カレン:「あのね。美紅ちゃんから全部聞いてるから、正直に言ってもらって構わないから。」


 顔を上げた骨男は正直驚いていた。


細川:「全部、聞いてるんですか?」


カレン:「そう、全部聞いたよ。」


細川:「……そうですか。」


 骨男は項垂れている。

 これで終了ですかね?



細川:「1年半前の大総選挙で初めてカレンちゃんを見た時の衝撃を今でも覚えてる。」


 骨男は静かに語り出した。


細川:「それから、ずっと応援してきました。

 僕は遠くから眺めてるだけで良かったんです。

 渋谷行きの電車にもよく乗ってました。

 カレンちゃんがこの駅で降りるのを知って、街を巡回してたんです。

 このファミレスも聖地巡礼のつもりでたまに来ていたんです。

 たまに見かけることもあったので、その時は嬉しかった。

 自作でグッズなんかも作って……これもその一つです。」


 骨男は袖を捲って、夢咲カレンと刺繍されたリストバンドを見せた。


細川:「前回の大総選挙で第七柱セブンスに選ばれた時も嬉しかった。

 やっぱりカレンちゃんは女神だったんだと思いました。

 その時に作ったのがこれです。」


 骨男は反対の腕の袖を捲ってもう一つのリストバンドを見せた。

 そこには、第七柱女神カレン降臨と刺繍されている。


 怖ぇ〜!ガチ勢だ。こいつヤバい!

 一体、何が言いたいんだ?


細川:「でも、今日で終わりにします。

 これも運命ですかね。

 でも最後に会うことが出来て良かったです。

 思い残すことはないです。

 本当にすいませんでした。」


 骨男はまた深々と頭を下げた。


 ほぅ。すんなり引き下がったか。

 これが本心なら敵ながらあっぱれだな。

 バトルにはならなかったか。


カレン:「細川さん。今日は美紅ちゃんを脅してまでして、私を呼び出したんだよね?

 何がしたかったの?」


細川:「それは……。

 今となっては、ミクミクには申し訳ないと思ってますけど、実際には共犯者だし、それくらいはしてもらえるかなって思って。

 僕はせめて最後に、カレンちゃんに謝りたかったんです……。」


 あれ?骨男、泣いてるじゃん。

 それより、ミクミクって何?

 そっちの方がインパクトデカくて気になる!


カレン:「うーん。そうなの。

 なんか拍子抜けしちゃったね……。

 それより、細川さんって以前から美紅ちゃんとは知り合いだったの?」


 いや、そこ気になるよね?やっぱ。


細川:「いえ、まさか。

 今日で3回目です。」


カレン:「でも、ミクミクって。」


細川:「あ!すいません。

 ネットでそう呼ばれてるんで、つい……。」


カレン:「へえ、そうなんだ。

 美紅ちゃん、知ってた?」


美紅:「はい、知ってます。」


 早乙女さんってミクミクって呼ばれてるのか?

 って、こいつも有名人なのか?


 ん?よく見ると、周りの客がチラチラと結構こっち見てるな。

 まあ、結構周りもうるさいんで、話は聞かれてないと思うけど。


細川:「あのー、カレンちゃん。」


カレン:「何?」


細川:「いまさら、どうすることもないんですけど、ミクミクは全部話したんですよね?

 それを聞いて、カレンちゃんはミクミクをどうしたんですか?」


カレン:「そうだよね。気になるよね。

 でも、美紅ちゃんは今まで通りだよ。」


細川:「え?でも……。どうして?」


カレン:「うん。美紅ちゃんからは謝罪を受けたよ。

 その上で私の直感で決めた。って感じ。」


細川:「はぁ。そうですか……。」


 いやー、これはきついかもな。

 自業自得同士だもんな。

 実行犯か、実行犯じゃないかの差だな。


カレン:「じゃあ、細川さんからも謝罪を受けたし、公平にやってみようか?」


細川:「え?何をですか?」


カレン:「ジャッジメント。

 細川さん、私の目を見てくれる?」


細川:「いえ、そんなとてもとても恐れ多い!

 そんな、見られません!」


 ほぅ。そういえば、この男、来てからずっと、夢咲さんとは目を合わせれてないな。

 これってガチ勢のあれか?


カレン:「細川さん。いいから見なさい!」


細川:「は、はい!!」


 カレンは細川の目をじっと見ている。

 細川は、申し訳なさそうにカレンの目を見ている。


カレン:「うん。細川さん!反省してる?」


細川:「は、はい!すごく反省してます。」


カレン:「うん。オーケー。」


細川:「え?何がオーケーなんでしょうか?」


 細川が恐る恐るカレンに尋ねた。

 やっぱり、オーケーっておかしいぞ。


カレン:「ん?許すってことだよ。細川さん。」


 出た〜!マジかいな?


細川:「え……?

 本当ですか!?

 ありがとうございます。

 ありがとうございます。」


 細川は想定外の出来事に一瞬固まってしまったが、許されたのを認識すると、目に涙を溜めて唇を噛み締めていた。

 

 また、直感か。大丈夫かな?

 豪運を盲信しすぎなんじゃない?


カレン:「じゃあ、これからも応援してくれる?」


細川:「は、はい!もちろん!

 全力で応援します!」


 出たー!出ました!

 俺から言うことではないけど、甘くないか?

 こいつ、本当に大丈夫か?

 まあ、早乙女さんは何も言えないだろうな。

 自分と同じな訳だし。


カレン:「じゃあ、接近禁止命令は解除の届けを出しておくね。」


細川:「あ、ありがとうございます。

 これでまた、カレンちゃんの応援ができる!

 やったー!!」


 こいつ、立ち上がりやがった。

 何、両手突き上げてるんだよ!

 みんな、こっちを見てるから!



 なんか、女性2人組がこっちに来たぞ!


客:「あのー。夢咲カレンさんですよね。

 私たち、大ファンなんです。

 握手してもらってもいいですか?」


カレン:「あ!いいですよ!」


 え?夢咲さん。こういうの慣れてるの?

 普通に応じてるけど。


 カレンは、そう言うと手を出して握手に応じている。


 ちょっと!夢咲さん!

 こっちに俺いるから!


 カレンはカレンで、普通なら立ち上がって握手に応じたかったが、横に龍太郎が居るので、不自然にならないように座ったまま、握手に応じていた。


 夢咲さん!当たってますって!

 たわわな果実が〜!


 龍太郎はそれを必死で避けようとするが、たわわな果実が追ってくる。

 避けようとすればするほど、変にプニプニしてしまうので、もはや諦めて地蔵になることに決めた。


 もう避け切れん。

 これは夢咲さんの果実がデカいのが悪い。

 俺に罪はない。そう、煩悩を捨てろ!


 だが、龍太郎はまだ20歳。まだ若い。

 それは無理な話であった……。



 最初の女性陣が握手を求めたのを皮切りに、周りにいた客や店員までもが同じように後ろからやってきた。


 骨男はそれを見て、立ち上がって仕切り始めやがった。


「すいません!一列に並んでください!」


 こいつもなんか慣れてるぞ!

 剥がしまでやり始めた。

 アイドルの握手会か!


細川:「はい、ありがとうございました。

 次の方、どうぞ!」


 しかも、骨男が商売を始めやがったぞ!

 夢咲さんも早乙女さんも何も言わん。


細川:「良かったら、こんなものもありますよ!」


客:「え?もらえるんですか?」


細川:「いえ、1個1000円です。」


 骨男はリュックから大量のリストバンドをテーブルに並べ出した。

 全部、刺繍されていて、まあ、素人が作ったとは思えない出来ではあるが。

 ちょっとそれって高くないかい?


 って、おかしいぞ。

 飛ぶように売れてるやないかい!?

 実は理由は、カレンがファンに頼まれてリストバンドにサインしたからであった。


 握手会にサイン会に物販。

 もはや、なんかのイベント。


 俺は夢咲さんのたわわ攻撃によって、ウハウハ、もとい、地蔵状態で一連の握手会イベントが終了。


 たわわの件は、夢咲さんが気にしてなさそうなので、とりあえずは良しとしよう。

 あとで言われるかもしれないが……。


 周りでは、まだザワザワしているが、こちらのテーブルはやっと落ち着いた。


 来た時の想定とだいぶと違う感じになっちゃったけど、これも夢咲さんだよな。

 俺の時もこんな感じだったもんな。

 やっぱり、変わってるよ。夢咲さん。


 後半に続く。


 ◇◇◇◇◇

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