第34話 宝生舞夢登場
◇◇◇◇◇
時は少し遡って、国士無双トップチームが渋谷ゲートに潜る前日の出来事。
一人の青年がクランボスである喜多川北斗自宅のタワーマンション最上階ペントハウスに呼び出されていた。
朱美:「ボス、お越しになられました。」
北斗:「ああ、そこに座ってくれ。」
専属秘書の朱美と一緒に、一人の青年エクスプローラがリビングに入ってきた。
その青年は、無言で北斗の目の前のソファの席に深々と座った。
宝生:「うん。いつ来てもすごい部屋だね。
すごく儲かってるみたいだね。」
北斗を目の前にしても、動じないこの青年は一体何者なのか?
そのランクアップの早さは最年少記録を更新し続けている。
さらにAランクでも最年少記録を打ち立てるであろう期待の逸材である。
北斗:「そうだな。ビジネスが順調なんでな。
ところで、そろそろ返事を聞かせてもらおうか?」
宝生:「そうだね。
そろそろ呼ばれる頃だと思ってたよ。
契約金は10億だったっけ?
もう少しなんとかならない?
僕も入ってもいいかなって思ってるんだけど。」
そのいきなりの言葉に秘書の朱美が、思わず声を上げた。
朱美:「宝生さん!10億ですよ!
ソロエクスプローラには破格の契約金だと思いますけど!
国士無双には契約金無しでも入りたいという方はいくらでもいるんですよ!
それをこれ以上要求するなんて……。」
北斗:「朱美。まあ待て。
宝生。それで、いくら欲しいんだ?」
北斗は、青年の無茶な要求にも関わらず、冷静な態度を保っている。
宝生:「うーん。そうだね。倍でどうかな?」
この青年も北斗を目の前にこの態度。
相当に肝が据わってる。
朱美:「倍!?20億ですって!?」
朱美は信じられないと言わんばかりに、先ほどにも増して声を荒げた。
宝生にしても、倍の金額は引き出せるとは思っていないが、交渉には駆け引きも重要であることを理解していた。
ただし、やり過ぎるのも得策ではないことを十分に把握しているので、北斗の次の回答を待っていた。
北斗:「ふっ。20億か。ずいぶんと大きく出たな。
お前にそれだけの価値があるということだよな?」
宝生:「そりゃ当然そうでしょ。
このクランに入っても、ナンバー3くらいの実力はあるんじゃないかな?」
宝生自身は、実力ではポテンシャルも合わせて喜多川兄弟にも負けていないと自負していたが、ここは少し謙虚にナンバー3ということにしておいた。
北斗:「ははは。お前がナンバー3か。
お前にも、そういう謙虚な面があったんだな。」
宝生:「いや、僕は本当に喜多川兄弟をすごくリスペクトしてるんだよ。
それ以外は雑魚だと思ってるけどね。」
北斗:「そうか。まあ、いいだろう。
今朝、ある筋から面白い話が聞けたんでな。
お前の力が必要になる日がすぐ来るだろう。
宝生。お前の契約金は20億でいい。
この条件で契約成立だ。いいな?」
朱美は言葉を発しようとしたが、ボスが決めたことなので、そこは引き下がるしかないと思ったが、明らかに不満な顔をしている。
宝生:「へえ。太っ腹だね。
もちろん、契約成立だね。
そうなると、これからはボスって呼ばないといけないのかな?」
北斗:「ああ。それは絶対だ。」
宝生:「了解!ボス!
で、今朝の面白い話って何?」
北斗:「それはゆくゆく話すことになる。
それまで待ってろ。」
宝生:「はーい。楽しみにしておくよ。ボス!」
北斗:「ん?なんだ、朱美。何か不満か?」
朱美:「いえ、宝生さんの言動はボスに対して少し失礼なのではと思いますが。」
北斗:「いや、構わない。
むしろ、俺は今までそういう小さいことを気にしたことはないんだがな。
朱美ももっと俺にフランクに話せばいい。
俺はお前をビジネスパートナー以上に信頼しているからな。」
朱美:「は、はい、失礼しました。
ありがとうございます。」
朱美の表情が、ものすごく柔らかくなった。
さらに言うと、少し高揚しているようにも見える。
宝生は、この女はボスに惚れてるに違いないと直感した。
もしかしたら、すでにそういう深い関係なのかもしれない。
宝生:「ところで、ボス。
国士無双は今すでに40人いるよね?
これだと、僕の入る余地がないんだけど?」
北斗:「それは大丈夫だ。
フィフスチームが今潜ってるんだが、それが帰ってきたら、その中の1人を除名することになる。
それと同時に宝生が加入する手筈だ。」
宝生:「なるほど。だけど、ボス。
僕のこと、宝生じゃなくって、
宝生って呼ばれるの慣れてないんだよね。」
北斗:「わかった。舞夢だな。」
宝生:「それと、僕って最初はセカンドチームに入るんだよね?
トップチームじゃなくて大丈夫?」
北斗:「ああ。すぐにトップチームに昇格させるが、まずはセカンドチームにいる間にパーティでの行動に慣れてくれ。
お前はずっとソロだったからな。」
宝生:「ああ、そういうことね。了解。
じゃあ、適当に合わせるよ。」
北斗:「では、メンバーに空きができた段階で朱美から連絡を入れる。
そのあと、朱美と一緒に協会本部に行って登録しておいてくれ。」
宝生:「了解。」
朱美:「承知しました。」
そう言うと、宝生舞夢は朱美と共にリビングを出て行った。
一人残った北斗はこう呟いた。
ふっ。20億か。安い買い物だったな。
◇◇◇◇◇
喜多川北斗のマンションを出てきた舞夢。
宝生:「あっさり20億も入っちゃったな。
最初からこのクランには入るつもりだったんだけど、なんだか得しちゃった。
僕もそろそろ、こういうマンションに引っ越すべきだよね。
うん、そうしよう。
臨時収入はパッと使わないとね。
あとは、クランに入ったらどうせ暇が無くなっちゃいそうだし、今のうちに買い物三昧にでも行っちゃいますか?
まずは、車かな。それと時計と服もだな。」
舞夢は、軽い言動に騙されがちだが、実はかなりの秀才で策略家であった。
いろいろ調べるうちに、今や国士無双クランが日本の政財界トップと裏で深いパイプを持っていることを掴んでいた。
舞夢は欲しいものを手に入れるためには、個人では限界があるのでは?と思い始めていて、さらに大きな力を得るためには、より大きな力を持つところに行かないと難しいと考えていた。
そして、向こうから接近してくるように、うまく立ち回り、今回の契約に至っていた。
利用できるものは、なんでも利用する。
まずは国士無双のナンバー3の地位を確実にするところからだな。
◇◇◇◇◇
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