第19話 探検者協会本部最上階

 ◇◇◇◇◇


 時は少し遡り、9月12日。

 龍太郎の誕生日の翌日、ゴッドブレスユー!のクラン設立日の出来事。


 場所は探検者協会本部最上階の会長室。


工藤:「ん、どうした?」


野神:「今朝、少しだけ登録課に行ってたの。

 そこで、面白い2人に会ってね。

 ちょっと思い出したのよ。」


工藤:「お前は昔から変わってるな。

 趣味とか全く意味がわからねえな。」


野神:「あら、楽しいわよ。

 デスクワークだけじゃ、わからないことがたくさんあるのよ。

 あなたもやってみればわかるわよ。」


工藤:「俺はわからんでいい。」


 男女2人が部屋で待機しているところ、扉がノックされる音がした。


 コンコン!


秘書:「会長!お越しになられました。」


工藤:「おー、入ってくれ!」


 ガチャ!


 扉が開いて、秘書に連れられた男女3人が部屋に入ってきた。


工藤:「急に呼び出して悪い。

 まあ、掛けてくれ。」


 この男性が、この部屋の主である、探検者協会会長の工藤くどう秀策しゅうさく


野神:「本当に急でごめんなさいね。

 今日からゲートに潜るって聞いたものだから、その前に伝えておきたかったの。」


 この女性が、この部屋の隣の主である、探検者協会副会長の野神のがみ紗英さえ


 この2人は、20年前の協会発足時の立ち上げメンバーで、協会のことを誰よりもよく知る最古参人物である。


 工藤は発足メンバーの中で行動力、瞬発力、発想力が優れており、いろいろな場面で即時に判断できる人物であった。

 ただし、彼は常識を常識と捉えておらず、時には破天荒な行動に出ることもしばしば。

 さらに当時は、必要とあらば、とにかく上にも噛み付くことでも有名だった。

 いわゆる猪突猛進タイプ。

 ただ、その行動力ゆえ、自然と彼を中心に協会は整備されていった。

 

 一方、野神は工藤がとにかく前に進むことを優先して行動することで出来た大きな穴をケアしてサポートすることで、全体をうまく回すという役回りに徹していた。

 そのため、当時は工藤よりもメンバーからの信頼は厚く、彼女がいなければ、組織は崩壊していたかもしれないと言われるほど。

 ただ、芯は強く、工藤に対しても苦言を呈することができる存在で、現在でも、工藤に強く進言できるのは、彼女くらいかもしれない。

 というか、実はいつの頃からか、工藤は彼女に頭が上がらない。姉のような感じだ。

 


景虎:「いえ、大丈夫です。

 工藤さんと紗英さんには、いろいろ助けてもらってますから。」


 呼び出された3人が椅子に座ると、秘書がテーブルに紅茶、ブラックコーヒー、カフェオレを置いて部屋を出て行った。



工藤:「よし!すまんが、さっそく本題に入るぞ。

 じゃあ、野神、頼む。」


野神:「はいはい。

 それじゃあ、説明するわね。

 本日の正午過ぎに世界探索者協会本部からの要請で緊急のWEB会談があったのよ。

 召集されたのは5つの国。

 その中に我々、日本も含まれていたの。」


景虎:「へえ。それは、どこの国ですか?」


野神:「日本の他は、アメリカ、中国、インド、ドイツの5ヶ国よ。

 今日の緊急会談でこの5カ国をエクスプローラ5神国、通称EG5と呼ぶことが決まったわ。もちろん、公には公表しないけどね。

 そのおかげで、私は、世界探検者協会の理事になることになったわよ。まったく。」


景虎:「へえ。すごいじゃないですか?

 じゃあ、転属することになったんですか?」


野神:「いいえ、あくまで兼任という形ね。

 非常勤理事という扱いになったわ。

 だから、今まで通り、所属は日本探検者協会ということになるわね。」


景虎:「それじゃあ、工藤さんもですか?」


野神:「いいえ、理事は1名よ。

 通常なら、工藤が理事になるのが筋なんだけど、この人は断ったのよ。まったく。

 だから、仕方なく私がね。」


工藤:「そんなもん、やってられるかってんだよ。

 俺にはいろいろやることあるんだよ。」


野神:「いいえ。私にもやることは山ほどありますからね。

 この人はね。英語が苦手だから断ったのよ。

 普段から世界探検者協会の窓口対応もその他の対応も私が全部しているもの。

 若い人の前だからって見栄を張るんじゃないわよ。いいわね!?」


工藤:「いや。そこまで言わんでも……。

 ああ。すまん。」


 そこは、やけに素直な工藤秀策会長。



景虎:「それにしても、世界探検者協会の理事ってそんなに簡単に決まっていいんですか?」


野神:「いいえ、普通は簡単には決まらないわよ。

 今回は一種の特例って感じ。」


景虎:「ですよね。

 理事国は、世界探検者協会での決議に参加できるので、どの国もずっと要請しているって聞いてますからね。

 その割には増えてないんですよね。」


野神:「そう。ずっと長い間、理事国は増えてなかったわ。


 今回は本当に緊急の特例ね……。


 あなたたちも知ってる通り、アメリカと中国のエクスプローラ2大国は、他の国に対して圧倒的な発言力を持ってるわよね。

 それは、世界探検者協会の内部でも同じなのよ。

 議長、副議長はこの2大国が毎年持ち回りで交代して就任することになっているわ。

 そして、特例として、1国1名のみだけれど、理事は議長、副議長の両方の承認があれば、いつでも追加できるのよ。

 今回、5カ国のうち、理事のいない日本、ドイツの2カ国は、2大国の両国にとって追加する理由があったって訳。

 理事国になったのは嬉しい誤算だけれど、他国からの反発は必至でしょうね。

 永らく7カ国だった理事国が、今回の追加承認で合計9カ国になったわ。」


景虎:「なるほど。

 で、緊急で伝えたかったことって、このことなんですか?」


野神:「いいえ。違うわよ。

 日本とドイツの理事国入りの件はすぐに世界に対して発信されることになるわ。

 今回、来てもらった理由は緊急会談の事案のことよ。


 その前に今から話す話は、世界探検者協会の極秘事項としての取扱いになっているからね。

 そのつもりで聞いて欲しいの。」


景虎:「はい、もちろん。」


 隣に座った2人も頷いていた。


 このあと、野神の口から放たれる緊急会談の事案とは一体なんなのか?


 また、工藤はここまでほぼ喋っていない。

 その意味とは一体なんなのか?


 このあと、その内容が明かされる。


 ◇◇◇◇◇

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