第18話 探検者協会本部3階
◇◇◇◇◇
龍太郎たちは、探検者協会本部の3階にある警務部に来ていた。
警務部職員との会話に、カレンが驚きを隠せずに声を荒げた。
カレン:「なぜですか!?」
職員:「いや、だから、これだけじゃねえ。
まだ、被害に遭われたわけじゃないからね。
なかなか難しいと思うんだよね。
もう少し、様子見てもいいんじゃないかなぁって思うんだけど。」
カレンは証拠の手紙と共に被害届を提出したのだが、窓口の警務部職員はそれをのらりくらりと受理しようとしない。
龍太郎:「お兄さん、かっこいいじゃん!
それって職務放棄ってやつでしょ?」
職員:「はぁ!?きちんと対応してるだろう!
そもそも、お前は誰なんだ?
関係ないやつは黙ってろ!」
龍太郎は、横からつい口を出してしまう。
それを聞いた職員は龍太郎を睨みつけて、怒鳴っている。
よほど頭に来たのか、もう喧嘩腰である。
それを聞いたのかは知らないが、1人の女性が近づいてきて声をかけた。
おばさん:「声を荒げて、どうしたの?
あら、あなたたち。」
龍太郎:「あ!登録課の人。」
近づいて来たのは、先日のクラン設立の時に対応してくれた登録課窓口のおばさん。
もっとも、おばさんと言うには、すごく整った顔立ちをしていて、とても若く見えた。
今日は先日と違ってスーツ姿であることも、印象を変えているのかもしれない。
職員:「げ!
驚いた表情で強張った顔をした警務部職員が、思わず起立して直立不動になった。
カレンは、証拠の手紙を見せて、被害届を提出しに来たこと、この情報だけでは受理されないことをおばさんに説明した。
その間、警務部職員は気まずそうに何も言えずに首をブルブルと横に振っていた。
野神:「あなた、ちゃんと受理しなさい。
こういうものは、未然に防止することに意味があるのよ。
わかったわね!!」
え?このおばさん、覇気使い?
職員:「は、はい!承知しました!
もちろん、受理するつもりでした!」
野神:「うん。よろしい。
じゃあ、お願いね。」
あれ?急に優しく。
この人、高低差がものすごい。
そのあとは、今までのやり取りが嘘だったかのように、あっという間に手続きが終わり、被害届は無事に受理された。
この件については、さっそく警務部で調査に入るとのことで、進展があれば、連絡するとのことであった。
その間、おばさんはずっと横にいて、手続きの様子を見ていた。
職員が可哀想なくらい汗をかいていて、かなり丁寧な対応をしていたことから、むしろ気の毒な感じさえした。
確かに、プレッシャーが半端ない。
このおばさんって登録課の窓口の人だよな?
登録課ってもしかしてものすごく特殊なの?
上下関係が複雑すぎる!
手続きが終わると、職員は頭を下げて、早々に奥に戻って行った。
一緒に手続きを見守っていた?おばさんはカレンに優しく声をかけた。
野神:「手続きは無事終わったわね。」
カレン:「ありがとうございました。
あのままだったら受理されていたかわからなかったから。」
野神:「それはいいのよ。当たり前のことだからね。
でも、被害の方は心配ね。
こういうのは放置するとエスカレートしていく可能性があるから。
あまり、普段は1人での行動は避けたほうが良さそうね。」
カレン:「そうですね。
これからは天堂くんと一緒に行動します。
ご忠告ありがとうございます。」
勝手に決められてるけど、確かにな。
ずっと一緒ってわけにはいかないけど、極力そうさせていただきますよ。
野神:「お二人はとても仲がいいのね。
先日も楽しいやり取りでしたよ。
すごく、面白かったわ。」
げ!あれ、やっぱり聞かれてた!
ドラゴンボーーーーーーール!
カレン:「ははは……聞かれてましたか……。」
野神:「クランは順調なの?」
カレン:「はい、それはおかげさまでいい感じです。
あのー、野神さんって登録課の受付の方ですよね?」
やっぱり、夢咲さんも気になってたんだ。
ここの上下関係ってやつ。
野神:「うーん。厳密には違うかな。
私の趣味っていうか、道楽っていうかね。
登録課は昔の職場でね。
たまに窓口をさせてもらってるのよね。
今は別のお仕事をしているわ。」
なーんだ。そういうことか。
今は昇進してお偉いさんということだな。
でないと警務部職員が浮かばれない。
カレン:「そうだったんですね。
わざわざ、ありがとうございます。」
野神:「ううん。たまたま通りかかっただけだから。
じゃあ、私はこれで失礼するわね。
お二人のことは応援してるわ。」
カレン:「はい!ありがとうございました!」
おばさんは、優しく手を振って仕事に戻っていった。
カレン:「天堂くん。お待たせ!
野神さん、いい人だったね。」
龍太郎:「ああ、そうだな。
すごい覇気だったよ。」
カレン:「覇気って(笑)
手続き終わったし、そろそろクランハウスに行こっか?」
龍太郎:「ああ。」
◇◇◇◇◇
クランハウス、Dー318号室。
小物雑貨などは、そのまま持ってきた。
コーヒーとかケトルとか。
カレン:「まずはコーヒーでも飲む?」
龍太郎:「ああ、じゃあ、湯を沸かすよ。」
カレン:「ありがと。お願い!」
大物の荷物は配送にしたので、今日できることは、そんなにない。すぐ終わった。
と言うわけで。
2人ですでにコーヒータイム!
ちゃんとモンブランも2つ買って来ていた。
龍太郎:「んーまい!」
カレン:「私は久しぶりに食べたけど、美味しいね。」
龍太郎:「だろ。俺的には一択。」
カレン:「じゃあ、ちょっと端末使うね。」
カレンは、端末を使って何か調べているようです。
カレン:「んー、国士無双ってやっぱAランクだもんね。
メンバーの人数はかなり多いよ。
この中から探すのは無理だよね。」
いや、藻部明夫ってやつなんだけど。
ここで言うと怪しいしな。言えない。
龍太郎:「そうなのか。どれくらいいるんだ?」
カレン:「うーんと、今は代表含めて40人かな。
このクランって私の知ってる限り、日本最大のクランなんだよね。」
龍太郎:「へえ、多いな。
この前、Dランクのクランは定員が5人って言ってたじゃん?
Aランクには定員はないのか?」
カレン:「あるよ。Aランクは40人だよ。
Bランクは20人。Cランクは10人だね。
だから、国士無双は定員の上限ってことだよ。誰かが抜けるまで、もう増やせないね。」
龍太郎:「へえ。人気あるんだな。」
カレン:「うーん。そこが微妙なんだよね。
人気はあるんだろうけど、言うほど魅力はないんだよね。私なら入らないかな。」
龍太郎:「まあ、それは人それぞれだからな。」
カレン:「まあね。
それよりも、連絡あったでしょ!
今日から見られるんだよね!」
龍太郎:「ん?何が?」
カレン:「ちょっと!本当に知らないの?
あのね。ゲート発生から20周年ってことで、エクスプローラにランキングを付けることになったんだって。
アメリカと中国で9月11日から導入されてるんだけど、日本は遅れて今日から導入なんだって。
今は国内ランキングだけなんだけど、世界ランキングも今後導入されるんだってさ。」
龍太郎:「国内ランキング?知らなかった。
どうやって決めるんだ?」
カレン:「それは貢献度だよ。
エクスプローラランクと同じ基準。
だから、今までも上の方はだいたいは分かるんだろうけど、なんか順位が付くのって面白いじゃない?」
龍太郎:「なるほど。強さってわけじゃないんだな。」
カレン:「うん。そうだけど。
まあ、よっぽどじゃない限り、概ね比例すると思うよ。」
龍太郎:「なら、結果は見えてるな。
いまさら、見たくないなぁ……。」
カレン:「そんなことないよ。
一緒に成長していくんだよ。
それが見えるのはモチベーションが上がるってもんだよ。ね?」
龍太郎:「まあ、前よりはそんな気分になれるかもな。
それはありがたいよ。」
カレン:「じゃあ、見てみよう!」
カレンは端末をたたき、エクスプローラ検索から、2人の情報をアウトプットした。
〈探検者:検索結果〉
【探検者】
【登録日】2048年4月11日
【ランク】D
【国 内】3200位/3230名〈New〉
〈探検者:検索結果〉
【探検者】
【登録日】2048年4月4日
【ランク】D
【国 内】3000位/3230名〈New〉
カレン:「2人ともキリがいいね!」
龍太郎:「はぁ……。分かってはいたとは言え、最底辺。
1年半の努力も30人とは……。」
カレン:「むしろ、清々しいね!
ここからがスタートだよ!がんば!」
そのあと、カレンは気になったのか、カーバンクル3人の情報も検索してみた。
〈探検者:検索結果〉
【探検者】
【登録日】2040年4月2日
【ランク】A
【国 内】7位/3230名〈New〉
〈探検者:検索結果〉
【探検者】
【登録日】2040年4月2日
【ランク】A
【国 内】6位/3230名〈New〉
〈探検者:検索結果〉
【探検者】
【登録日】2040年4月2日
【ランク】A
【国 内】8位/3230名〈New〉
ある程度、上位だろうとは思っていたが、予想よりもはるかに上位だったことに、カレンも龍太郎も驚いている。
カレン:「おー!さすがだね!
古参を押さえて、もう一桁台なんだ!」
龍太郎:「わー!本当だな!
そんなにすごい人たちだったんだ。
そんな人と知り合いってすごいかも。」
そのあとは、コーヒーのお代わりと共にカーバンクルの話題で盛り上がった2人であった。
おい!ストーカーの件はどうなった?
◇◇◇◇◇
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