第6話 夢咲カレンの部屋
◇◇◇◇◇
次の日、龍太郎は朝早く起きて、カレンのマンションまで来ていた。
龍太郎のアパートと違って、カレンのマンションは1階でオートロック方式になっている。
龍太郎:「やっぱり女子はこういうところに住むよな。
セイフティ?セキュリティ?
まあ、確かに危ないもんな。
たしか部屋は303だったな。」
龍太郎は3、0、3、→とボタンを押した。
カレン:『はーい!天堂くん。今開けるね。
エレベータで3階だから!』
龍太郎:「おう。」
エレベータで3階に昇って。
龍太郎:「303。ここだな。」
ピンポーン!
カレン:「はーい!ちょっと待って!」
ガチャ!
カレン:「天堂くん!お迎えありがと。上がって!」
龍太郎:「え?行かないの?」
カレン:「ちょっと、お茶でも飲んで行きなよ。
朝ごはん食べた?」
龍太郎:「いや、ギリギリまで寝てたから。」
カレン:「それじゃ、お腹空いてるでしょ。
トーストとコーヒーでいい?」
龍太郎:「いや、いい。」
カレン:「もう!なんで断るのよ!」
龍太郎:「夢咲さん、一人暮らしだろ?」
カレン:「へえ、そういうの気にするんだね?
大丈夫だから上がって!」
龍太郎:「そんなに簡単に信用するなよ。」
カレン:「信用するよ。天堂くんだから。
普通はそんなに簡単に人を上げないよ。」
龍太郎:「それは過大評価しすぎだ。
俺はそんなに信用される人間じゃない。」
カレン:「出たー!この卑屈男!
本当に大丈夫だから!
信用してるのは私のスキルだから。
正直、ここまで危険を感じない男の人は初めてなんだよね。
私の第六感が大丈夫と言っている(笑)
わかったら、上がって!」
龍太郎:「なるほど、そういうことか。
うーん。なら、少しだけ。」
カレン:「はいはーい。いらっしゃい!
そこに座って待ってて!
今、用意するから。」
龍太郎は遠慮気味に部屋に入り、ダイニングの椅子に座って部屋を眺めていた。
これが女子の部屋か。落ち着かん。
間取りは1DKというやつだな。
俺の部屋よりだいぶ広いな。
奥の部屋は女子という感じの可愛い感じになってる。
その部屋にヘルメットが置いてあるのに気がついた。
あれか。衝動買いしたメットは。
猫の耳が生えてる。なんちゅうデザイン。
俺なら一生買わん。
カレン:「はい、どーぞ!」
龍太郎:「ああ、ありがと。いただきます。」
確かにお腹は空いていたので、遠慮なくいただいている。
うまい。普通のトーストなのに。
夢咲さんも俺の前の椅子に座ってる。
なんか見られてる?
カレン:「天堂くんってさあ。
女の子の部屋って初めてなんでしょ?」
龍太郎:「グフっ!痛恨……。」
カレン:「あはは。本当に面白いね。
今のは図星だったか。良き良き。
それくらいウブいと安心だ。」
龍太郎:「俺は全然面白くないんだけど。」
カレン:「いいじゃない。
ちょっとからかっただけだよ。
まさか、本当にそうだとは思ってなかったけど。」
龍太郎:「夢咲さん、性格悪い?」
カレン:「ぐはっ!痛恨……。」
龍太郎:「真似するなって!恥ずかしい……。」
カレン:「あはは。天堂くん、本当に面白いよ。
そういえば、誕生日は9月って言ってたよね?」
龍太郎:「ああ。昨日、20歳になった。」
カレン:「そうなんだ。おめでとう!
そっか。もう過ぎちゃってたのか。」
龍太郎:「ああ、だから同じ歳だ!」
カレン:「いや、そう言う意味じゃなくて。
今が9月じゃない?
で、昨日9月って聞いたのに、誕生日聞かないのも変かなって思ってね。
そっか、昨日会った時、誕生日だったんだね?
それなら、言ってくれれば良かったのに。
それじゃ、過ぎちゃったけど、2人で誕生日会とかしちゃう?
もう、お酒も飲めるしね。」
龍太郎:「いや、いい。」
カレン:「えー!断っちゃうんだ。
楽しそうなのになんで?」
龍太郎:「もう……した。」
カレン:「ふーん。そうなんだ。一人で?」
龍太郎:「うぐっ!痛恨……。」
カレン:「あはは。またまた、図星だ!」
龍太郎:「夢咲さんみたいにリア充ではないけど、俺的には全く1人で問題ない。」
カレン:「え?私もリア充ではないよ。
私って、そう見えるのかなあ。」
龍太郎:「ん?なんか良くないこと言った?
忘れてください。すいません。」
カレン:「あ!全然いいよ。気にしてないから。
それより、誕生会を2回やっても変じゃないよ。」
龍太郎:「あ、本当にそれはいいです。」
カレン:「じゃあ、今欲しいものって何?」
龍太郎:「欲しいものは、装備。」
カレン:「回答、早っ!
そういえば、天堂くんって初期装備のままなんだね?
それって研修の時に配布されるやつでしょ?
それずっと使ってるんだね。」
龍太郎:「そうだけど、夢咲さんは違うのか?
そういえば、装備は付けてないね。」
カレン:「うん。あとの装備は向こうの世界だよ。」
龍太郎:「え?ひょっとして結構稼いでる?」
カレン:「うーん。そうでもないかな。」
龍太郎:「いやいや、無理でしょ。
装備を替えるってすごい大変なことだぞ!」
カレン:「まあ、そうなんだけど。
たまにドロップアイテムとか取れるし。」
龍太郎:「え?もしかして、夢咲さんの装備ってドロップアイテム?」
カレン:「うん、そうだね。
これもスキルの恩恵かな。」
龍太郎:「うおー、まじすげー!まじ神スキル!」
カレン:「ふふふ。確かに。
このスキルがないと結構きつかったかも。
でも、装備以外は本当に弱いからね。」
龍太郎:「いや、たぶん、俺よりは強い。
いいなあ。どんな装備か楽しみだ。」
カレン:「私の装備なのに?」
龍太郎:「ああ。そっかぁ。
でも、夢があるな。」
カレン:「そうだね。欲しいものは装備だもんね?」
龍太郎:「ああ。今のところ、装備強化以外、興味がない。それ以外、強くなる方法がないからな。」
カレン:「うんうん。そうだよね。
非戦闘系スキルの宿命。
私と一緒だとアイテム落ちるかもよ。」
龍太郎:「そうかなあ。もし落ちたら泣く。」
カレン:「ふふ。楽しみだね。
あ、食べ終わった?」
龍太郎:「あ、うん。ご馳走様。」
カレン:「いえいえ。じゃあ、行こっか?」
龍太郎:「おう。」
カレンは慌ただしく、食器を片付けて部屋を出て行こうとする。
龍太郎:「あれ?夢咲さん。メットは?」
カレン:「あ!忘れてた。」
龍太郎:「あの猫のやつ、被るの?」
カレン:「え?もしかして変?」
龍太郎:「へ、いや……いいんじゃない。」
カレン:「でしょ!一目惚れしたんだよね。」
龍太郎はつい嘘をついてしまった。
流石にあれは……いや、やめておこう。
2人はエレベータで降りて、1階へ。
龍太郎:「流石にリュックは配布品なんだな?」
カレン:「うん、そう。これはお揃いだね。」
モンスターの革製リュック。
新人研修の時の配布品だが、大きくて丈夫で使いやすい。
高ランクエクスプローラでも、使っている人はいるくらいだ。
初期品にしてはナイスクオリティ。
そして、エレベータを降りた龍太郎はスクーターにまたがり、エンジンを掛けた。
カレン:「ちょっと!私、乗れないじゃん!」
龍太郎:「あ!そっか。今日は2人乗りか。
リュック下ろさないと乗れないな。」
エクスプローラのリュックには、加工された食糧が入っているので、意外と大きく膨らんでいて担いでいると邪魔だった。
龍太郎は、背負っていたリュックを外して足元に置いた。
龍太郎:「いいよ。乗って。」
カレン:「うん。」
カレンは、スクーターの後部座席にまたがって、龍太郎に腕を回してしがみついた。
龍太郎:「ちょっと!夢咲さん!
そんなにしがみつかなくて大丈夫だから!」
カレン:「いいじゃない。減るもんじゃないし。」
龍太郎:「いや、意味わかんないし!」
カレン:「天堂くん!レッツゴー!」
龍太郎:「うーーん。ラジャ。」
とは言ったものの、夢咲さんのことがものすごく気になる。気になる。気になる。
が、運転に集中しよう。
さらに、昨日と同様にカレンが龍太郎にしがみついた瞬間に頭の中に謎のメッセージボックスが表示されていた。
〈超能【豪運】を登録しますか?〉
メッセージボックスの横の時計は秒針を刻んでいる。今回は放置してしまったが、秒針が1周したところで、メッセージボックスは消えた。
制限時間は、ちょうど1分で消える仕様か。
登録しない場合は、放置でも良い。と。
それより、後ろの夢咲さんが気になる〜!
龍太郎は、煩悩を払いつつ、目的地の渋谷を目指すのであった。
◇◇◇◇◇
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