第3話 豪運娘・夢咲カレン

 ◇◇◇◇◇


 今日は近くの街に来てます。


 通りゆく人をひたすら眺めてます。


 決して変質者ではありません。


 ただ、かなりの時間ずっと眺めてるんだけど、スキルホルダーがいないんだよね。



龍太郎:『アイちゃん。全然いないんだけど。』


AI:〈そうみたいだね。

 まあ、スキルホルダーはそんなにいないんだから、気長にお待ちください。〉


龍太郎:『はあ。結構人はいるのに、こんなにスキルホルダーっていないもんなんだね。』


AI:〈そうだね。ざっと0.01%の確率でしか誕生しないからね。

 しかも人口比率で言うともっと少ないよ。

 現在、日本人で生存しているスキルホルダーは、5870人だね。

 まあ、スキルを把握するにはどんどんスキルを使わないといけないから、無駄ではないと思うよ。〉


龍太郎:『そうだね。気長にウォッチングするよ。』


 それからも、通り過ぎて行く人をひたすら眺めて、はや数時間。

 街の真ん中で座り続けてキョロキョロと辺りを見廻している。

 もはや、職質を受けてもいいレベル。



龍太郎:『あ!アイちゃん!いたよ!あの娘!』


AI:〈お!ついに発見!どんなスキル?〉


龍太郎:『えーっとね。【豪運】ってスキルみたい。

 ちょっと、聞いたことないよな。』


AI:〈ああ、それね。結構珍しいよ。

 パッシブ系の非戦闘スキルだよね。

 幸運の上位版じゃないかな?

 あまり、このスキルの詳細は開示されてないから、詳しくはわからないけど。〉


龍太郎:『へえ、人工知能って割には、アイちゃんってスキルのことは詳しくないんだね。』


AI:〈ふん、悪かったわね。

 だから、言ったじゃないの。

 スキルの効果は本人しかわからないって!〉


龍太郎:『いや、別にそういう意味ではないからね。

 落ち着こうね。』


AI:〈あのさ。マスターってひょっとしたら、思ったことをそのまま口に出しちゃうタイプじゃない?〉

 

龍太郎:『グサッ!痛恨……。

 痛いところ付くねえ……。』


AI:〈なるほどね。だったらいいよ。許す。〉


 そうなんだよな。

 思わず言っちゃうのよ。

 これが原因で、学生時代は孤立してたんだよな。

 悲しいかな。悪気はないのよ。本当に。



龍太郎:『わ!アイちゃん!

 あの娘、こっち見てる。』


AI:〈あの娘って、豪運の娘?〉


龍太郎:『そう!

 って、こっちに向かって歩いて来てる!』


AI:〈無視してればいいんじゃない。

 ただ、こっちの方に用があるだけかもしれないし。〉


龍太郎:『いやいや、めっちゃガン見で、こっちに来てるんですけど!』


AI:〈それは自分でなんとかしなさいね。〉


龍太郎:『アイちゃん!アドバイスは?』


AI:〈がんばれ!〉


龍太郎:『それ、応援だから〜!』



 アイちゃんとの意味のないやり取りをしている間に、豪運娘が龍太郎の目の前に立ち止まった。


豪運娘:「ちょっといい?

 あなた、天堂くんでしょ?」


龍太郎:「へ?」


豪運娘:「あなた、天堂龍太郎くんじゃないの?」


龍太郎:「へい。天堂です。」


豪運娘:「やっぱりね。すぐわかったわ。

 へい。って変な返事だね。」


龍太郎:「あなたは……どなたですか?」


 ど金髪娘が目の前にいるんだが、誰?

 この娘、日本語を話してるけど、とても日本人には見えません。

 ワタシ、コノヒトノコト、シラナイヨ。


豪運娘:「そうなんだ。わからないんだ。

 メガネをコンタクトにして、髪型をショートに変えただけなんだけどな。

 雰囲気変わったかなあ?」


 エ?

 ワタシタチ、シリアイデスカ?

 ドコカデ、アッテマスカ?


龍太郎:「ヒントください。」


豪運娘:「はあ…まだ分からんのかい!

 じゃあ、ヒントね。

 〇〇中学三年三組。」



龍太郎:「あ!

 え?

 えーーーーーーーー!?

 もしかして、もしかすると夢咲ゆめさきカレンさん?」


カレン:「はい!御名答!久しぶりだね。」


龍太郎:「おう、久しぶり。

 そっか。夢咲さんかあ。

 中学卒業後に引っ越したんだっけ?

 めっちゃ雰囲気変わったな。

 相変わらず日本人には見えないな。」


カレン:「はあ!どういう意味?

 めっちゃ、日本人なんですけど!」


龍太郎:「あ!そういう意味ではなくって。

 外国人みたいだなという意味で。」


カレン:「それって言ってる意味は同じじゃないの!

 そういえば、天堂くんは中学の時からそうだったよね。」


龍太郎:「そうだったとは?」


カレン:「空気読めない。」


龍太郎:「うわー。それ、本人を前にして言う?」


カレン:「だって、私の中学時代のことを言ってるんでしょ?

 この髪の色も眼の色も天然なのに、陰でいろいろいじめられてたんだから。

 もちろん、やられっぱなしじゃなかったけど、結構きつかったんだからね。

 あいつら、陰湿だから。」


龍太郎:「え?そうなのか?

 その当時は俺も孤立してたからな。

 お前のイジメのことは知らん。」


カレン:「え?あ!ごめん。そうだったかも。

 そういえば、天堂くんも孤立してたね。」


龍太郎:「ああ。でも、お前と違っていじめられてはいなかったぞ。」


カレン:「その言い方!

 なんとかならない?」


龍太郎:「あ!悪い。悪気はないから安心して。」


カレン:「どういう自己フォローなのよ!

 まあ、いいよ。本当に悪気なさそうだし。」


龍太郎:「そうか。良かった。

 じゃあ、またな!」



カレン:「いやいや、なんでそうなるのよ。」


龍太郎:「ん?まだ俺になんか用か?」


カレン:「そうね。ちょっとお茶しない?」


龍太郎:「いや、そういうのはいい。

 間に合ってるから。」


カレン:「……なんか、誤解してない?」


龍太郎:「壺は買わん。」


カレン:「ちょっと!そっち!?

 もう!壺なんか売らないわよ!」


龍太郎:「宗教全般、お断りしてます。」


カレン:「ちょっと〜!

 本当に宗教の勧誘とかじゃないから!」


龍太郎:「じゃあ、何の用なんだ?」


カレン:「ちょっとお話しましょ!ってことよ。」


龍太郎:「は?久しぶりに会ったのに?

 絶対におかしいぞ。」


カレン:「ああ、めんどくさい男ね。

 同級生が久しぶりに会って、お茶するくらい変じゃないでしょう?」


龍太郎:「なるほど。確かにそうだけど。

 ただ、俺の場合、久しぶりに会ったからと言って、お前みたいな美人にお茶を誘われるような人間ではない。

 だから、絶対におかしい。」


カレン:「本当にめんどくさいわね。わかったわ。

 こんなところであまり言いたくないんだけど。

 私ね。エクスプローラやってるの。

 あなたもそうよね?」


龍太郎:「ああ、そうだけど。

 なんで知ってるの?」


カレン:「逆になんで知らないのよ。」


龍太郎:「ん……?

 ちょっと待ってくれる?」



龍太郎:『アイちゃん!他のエクスプローラの情報ってどうやって調べるの?』


AI:〈はいはい、マスター。

 探検者協会内の端末に自分のエクスプローラIDカードでログインすると簡単に調べられるよね。

 なぜ、今更そんなことを聞くの?〉


龍太郎:『アイちゃん。サンキュ!

 そういえば、使ったことなかったな。』



龍太郎:「夢咲さん。お待たせ。思い出した。

 確かに探検者協会の端末だな。」


カレン:「今のは何なの?」


龍太郎:「ちょっと頭の中で聞いてた。」


カレン:「変な感じだね。

 でね。エクスプローラ同士として相談があるってことよ。わかった?」


龍太郎:「なるほど。話はわかった。

 が、相談には乗れない。

 なぜなら、俺はレベルが低い。」


カレン:「え?レベルはいくつ?」


龍太郎:「レベルは言わない。

 が、すごく低い。」


カレン:「そうね……。あまり言うもんじゃないしね。

 じゃあ、私のレベルを言ったら、相談に乗ってくれる?」


龍太郎:「ん〜……。

 わかったよ。

 そこまで言うなら、お茶は付き合うよ。

 レベルは言わなくていい。」


カレン:「そう。ありがと。

 じゃあ、この近くにネカフェがあるから、そこに行きましょ。」


龍太郎:「なぜ、ネカフェ?」


カレン:「こういう話は個室がいいのよ。」


龍太郎:「よくわからん。」


 そして、龍太郎はやむなく人間ウォッチングを切り上げて、久しぶりに会った同級生の夢咲カレンの相談に乗るという、なんとも摩訶不思議な状況になり、2人で近くのネットカフェに向かうのであった。


 ◇◇◇◇◇

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