第10話 ニャン・ニャン・ニャン

「猫探し!?」


「そうさ、ある富豪からの依頼で猫探しをお願いされてね。折角だし魔法創造の基礎を実習形式で教えようかなってね」


「なっ……何よそれ!? 猫探しの授業だなんて聞いたことが!」


「授業方針に関しては学園長からある程度の実権は渡されている。つまりワタシの好きに自由な方式でやれるってこ〜と」


(こいつに実権だと……いや待て、逆にこのバタフライの方針を調査出来る好機と捉えるべきか?)


 荒ぶる心を理性で絡め取りコスモは冷静に最適解を選択していく。

 このバタフライという存在が生み出す魔法創造が一体どのような原理でどう影響を齎すのか、それを知るには絶好の機会。


 好都合な展開に内心ほくそ笑みながらコスモは表情を整える。


「まぁ……アンタに実権があるっていうなら別に何も言わない。好きにすれば」


「いいね、聞き分けのいい子は好きだ。さっカモンッ!」


 休息する暇なんてものはなく、清々しい少女達は駆けていく。

 バタフライに導かれ辿り着いたその場所は壮麗さに溢れる屋敷であった。


 翡翠色の門が威圧的に佇み、白を基調とした建物は上品な一面を醸し出す。

 

「ここ? ア、アンタまさか猫探しを名目にこの屋敷から物を盗む魔法とか教えないでしょうね!?」


「いやワタシのこと何だと思ってんの……まっもう少し待ってたら来ると思うよ」


「来る?」


 その言葉通り数十秒後、重々しく門が開かれたかと思うと一人の男が決死の表情で二人を見つめていた。

 上品なシルクの服装とスキンヘッドが目立ち辺りには使用人達が一寸の乱れもなく深々とお辞儀を行う。


「おぉ良くぞ来てくれたバタフライ君! 待っていたぞ!」


「もぉ〜今度はどうやってやらかしたの? コルバちゃん、猫探しってさ」


「面目ない……まずは屋敷に来てくれ!」


 コルバと呼ばれた男性は慌ただしく懇願するようにバタフライ達を引き入れる。

 骨董品や絵画が至る所に立ち並ぶ内装にコスモは目を奪われる中、二人は応接間へと導かれた。


 深々としたソファーに全員が腰掛けると申し訳なさそうな表情でコルバは切り出す。


「すまないバタフライ君、また君の力を借りたいんだ……ってそちらの女性は?」


「あぁこの子はコスモちゃん、同じ魔法創造科の同級生だよ。今日は実技も兼ねて連れてきたって感じ、可愛いっしょ?」


 何度も関わりがあるかのような余りにもラフ過ぎるやり取り。

 そのアットホームな空気感に耐えられずコスモは咄嗟にバタフライへと疑問を投げた。


「ちょっとあの人は?」


「コルバ・ロライズ。物流関係の経営者。少し前に困っている所をワタシの魔法創造で助けてね。それからこの仲って訳だ」


(コルバ・ロライズ……運搬会社関連で名を聞いたことが)


 自身の記憶の片隅に存在したビックネームの登場に少しばかり畏怖の念を抱く。

 緊張に満たされていくコスモを裏腹にバタフライとコルバはお構いなしに話を進める。


「で? 猫探しってのは一体どういう」


「あぁ……実は先日キャルという名の愛猫がゲージから抜け出しているのが分かり現在捜索中なんだが手がかりが全くないんだ」


「キャルちゃんね〜その猫の特徴は?」


「白い毛並みに黄金の瞳、特注で作った赤い首輪が何よりの特徴だ、頼むお願いだバタフライ君! キャルがいなければ私の心は癒やされないのだ! 頼むこの通りッ!」


「おいおい、そんな事しなくてもやるべきことは決まってるよ」


 土下座というみっともない姿を晒してでも懇願するコルバをバタフライは嗜める。

 自身に溢れる身体で背伸びをすると彼女は勢いよく立ち上がった。

 

 首の骨を鳴らすと普段の雰囲気とは違う鋭く真摯さのある表情を纏う。


「コスモちゃん、固定化された魔法の全属性を知ってる?」


「火、水、風、土、雷、光、闇、この七つに固定された要素から派生を続けたのが現代の魔法と科学……それが何だと?」


「そうだ、だがそれだけじゃ創造にも直ぐに限界が来てしまう。つまりこういう例外的な場面で役立つ魔法はないという訳だ」


 本程度の白い魔法陣を手元に生み出すと慣れた手付きで魔法式を書き込んでいく。

 

「ワタシはその外側から創造する。ゼロからイメージで魔法式を生成し具体化出来る計算と創造を絡ませ実現させるのが……魔法創造だよん?」


 数秒後、全てを書き終えたバタフライは首を回すと満足げな表情を見せる。


「さぁ完成したよ! 愛する猫と主人を再開させる感動的な魔法がさ!」


 一つ深呼吸をするとバタフライはゆっくりと目を閉じ両手を天へと上げる。

 突如として周りには緊張感が走りコルバやコスモは彼女の一挙一動に固唾を呑む。


 一体どんな魔法を繰り出すのか。

 どのような創造でこの国へと消えた一匹の愛猫を探し当てるのか。

 

 緊迫という静寂が場を包み込む中、バタフライはゆっくりと目を開ける。

 誰もが目を奪われ、彼女の挙動を見守る中彼女は高らかな声を上げ


「ニャン♪」 


「「「「えっ?」」」」


 辺りを唖然とさせた。


 何の脈絡なくバタフライは鳴き声の物真似と共に猫のポーズを華麗に決める。

 何が何だが分かっていない周囲の反応を他所に彼女は猫の真似で可憐なを繰り広げる。

 

「ニャンニャンニャゴニャゴ、ニャンニャンニャン♪ ニャーニャーニャーニャー、ニャニャニャンニャニャニャン♪ ニャゴニャゴゴロニャ、ニャンニャンニャン!」


 ウインクと共に猫のポーズでバタフライのダンスは終幕を迎えた。


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