18.千夏

 一人一人にお酌をして廻った。

 川村には、

「幹事ご苦労様です。どうぞ」

「いや、いつもすみません。千夏さんご指名のお客様が多いので、今夜は是非にとお願いしました。宴会後は部屋に泊まって下さいね。もちろん宿泊料は頂きませんから」

「それはどうもありがとうございます」

 千代には、

「料理、本当においしいですね」

「ありがとう。今朝水揚げされたお魚を使っているのよ。何が一番おいしかった?」「陶板ステーキです。肉食系女子なので」

「あれはね、地元の和牛を使っているの。今日は特別よ」

「どおりで。普段は食べられないですよ」

 高山には、

「先生、いつもお世話になっております。お元気そうで何よりです」

「ああ、何とかやっとるよ」

「今夜は『黒塚』舞いますかね」

「ああ、法印さん、ええのう」

「剛力さん、上手いですよね」

「あの子は、バスケットやっとったから、機敏だわ」

「へえー、そうなんですか。どうぞ、ビールで良かったですか」

「じゃ、一杯だけ」

 高石には、

「お酒お強いんでしょ、どうぞ。東京で事業なんてすごいですね」

「いや、小さな法人だがね。老人ホームを三つばかりやっているので、忙しくてね」

「久しぶりに帰省なさったんですね」

「ああ、こんな若い美人にお酌してもらえるとは思わなかったよ」

 肩に手を回そうとするのを、するっとかわして、隣にいる妻の松子に二言三言お世辞を言った。

 篠原には、

「岡山から、お疲れ様でした。お久しぶりです」

「千夏ちゃん、すっかり奇麗になって、驚いたわ。バイトでやってるの?」

「はい、昼間はエステで働いています」

「頑張り屋さんだったものね。あなたがいてくれて嬉しいわ」

「わたしも、お会いできて嬉しいです」

 相田には、

「どうぞ、お燗の塩梅はいかがですか」

「はい、ちょうどいいですよ」

「先生、お忙しいんでしょう」

「いえ、もう患者さんも少ないし、のんびりやっています。半分はお年寄りの愚痴を聞くのが仕事みたいなもんです」

「わたしも、実は看護学校を目指したことがあるんです」

「それは初めて聞いたね」

「向いてないと思ってやめましたけど」

「今の仕事は、どうですか」

「はい、本業も、バイトも、楽しくやっています」


 ひと回りして、歩美にビールを注ぎながら、言った。

「あとで、また部屋に伺っていいですか」

「もちろんです。お待ちしています」

 歩美の笑顔が輝いていた。

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