17.歩美

 6時15分に宴会場に入る。二十畳はある、『大蛇の間』。

 ステージには、背景に大蛇胎児の大きな絵が飾られていた。

 長いテーブルが据えられ、ソーシャルディスタンスをとって、九つ椅子が並んでいた。皆、腰かけて待っている。

 千夏が、隣どうぞ、と手招きしてくれた。

 右隣は、見知った相田医師だった。ポロシャツ姿で眼鏡をかけ、小柄な人物だった。会釈をかわす。

 その隣は、写真で見たことのある、暗めの茶髪を後ろに結んだ、美しい女性だった。

 向かいが、長髪を束ねた、がっしりした男性。その隣にスマートで化粧映えする女性。その隣にはワイシャツにネクタイ姿の大柄で色黒の男性。

 下手が、幹事の川村。その隣がおそらく妻であろう、丸顔で色白の女性。二人とも浴衣姿で、今夜は客だという顔をしていた。

 揃ったところで、川村の音頭による乾杯。

 海山の幸が豪華に並んでいる。中トロ、ハマチ、サーモンの刺身。のどくろの煮つけ。鯛の吸い物。茶碗蒸し。和牛の陶板ステーキ。抹茶色の蕎麦。鮑の踊り焼きに、従業員が火をつけて回る。

 まずは、写メ用に、スマホを向ける。

 いただきます。

 相田が、

「歩美さん、久しぶりだね。いつ以来かなあ」

と、頬を崩す。

 笑顔を返し、ビールを注いだ。

「はい、祖母が亡くなったときに、お葬式でお会いしました。5年前の冬です」

「そうですか。早いものですね」

なぜか、緊張気味に、料理を口に運んでいる。

談笑していると、川村が立ち上がった。

「では、改めて自己紹介と、近況などをお願いします。一番若い広瀬さんからどうぞ」

 さっと立ち上がる。

「広瀬歩美と申します。英二郎の長女です。父が都合で来られず、代わりに私が参加させていただきました。東京でフリーライターをしています。父も元気で仕事に追われています。皆様によろしくと申しておりました。どうぞよろしくお願いいたします」

 次いで、千夏が、

「コンパニオンの河野千夏と申します。お招きありがとうございます。精一杯努めますので、よろしくお願いいたします」

続いて川村、

「今日は、遠方からもお越しいただきありがとうございます。このホテルの社長をしております。今夜は昔の話も今の話も、好きなようにやりましょう。9時までですが、二次会は私の『恵比寿の間』で、一晩でもやりましょう。まあ、明日はゴルフもあることですし、歳を考えてほどほどに、ではありますが。外の舞台では11時まで神楽もやっておりますので、お好きな方はどうぞ。よろしくお願いします」

 拍手が起こった。

「川村の妻、千代です。ここの副社長をしております。舞台ではカラオケも歌い放題、マイク等の消毒は万全です。シェフが自信を持ってお送りする料理には、きっとご満足いただけると自負しております。

「ほんとだ、うまいよ」

長髪の男性が、すかさず言う。

「ありがとうございます。今夜は二人とも客として参加です。何かお気づきの点がありましたら、従業員に遠慮なくお申し付けください。よろしくお願いいたします」

「高山です。川村君と幹事をやっていて、皆さんと会うのを楽しみにしていました。母校で体育教師をしていましたが、定年後も再雇用で相変わらずやっております。持病があり、あまり飲めませんが、楽しくやりましょう」

「高石松子、旧姓石田です。卒業後、千葉でイベントコンパニオンをしておりました。幕張のイベントで、偶然高石に会い、お付き合いするようになって結婚しました。子供が五人います。20年くらい帰省したことがなかったので、久しぶりの再会を楽しみにしていました。夫ともども、よろしくお願いいたします」

「高石です。新幹線とバスで、妻と来ました。東京で福祉法人の理事長をやっていて、老人ホームを三つほど経営しています。田舎に帰るのは十年ぶりくらいです。町は変わりましたね。酒好きですから大いに飲みたいと思います。よろしく」

「相田保です。開業医をしています。地元の方には時々お会いしますが、遠くの方々とはお会いできるのを楽しみにしていました。どうぞよろしくお願いいたします」

「篠原深雪です。岡山で、英語塾講師をしております。久しぶりで少し緊張しています。どうかよろしくお願いします」

 ぱらぱら、と拍手が起こった。

「では、あとは席も自由に移動してお楽しみください。感染予防には十二分に注意を払っておりますので、ご安心ください。飲み物は従業員にご遠慮なくお申し付け下さい。ご存じとは思いますが、当ホテルは本日貸し切りとなっております。なお、12時には玄関が閉まりますので、外出される方はご注意ください」


 また、相田にビールを注いだ。

「ありがとう。英二郎君にも会いたかったな」

「はい、父も先生には会いたいがなあ、と言っていました」

 相田がうなずく。

「日本酒がお好きでしたね。お持ちしましょう」

 

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