16.歩美

 コン・コン・コン と、音がした。

「はぁい」

 寝ぼけ顔は、老若男女、士農工商エタヒニン誰にも見せられぬ。

 ドアを少し引く。

 マスク越しの笑み。

「こんにちわー。河野千夏と申します」

「あ、こんにちは」

「宴会でコンパニオンを務めます、河野千夏と申します」

「わたしは、広瀬歩美です。よろしくお願いします」

「時間があるので、ご挨拶に廻っています。どうぞよろしく」

「あ、それはご丁寧にわざわざありがとうございます」

「では、7時に会場で」

「はい、7時に」

「またね」

「はい」

黒髪で端正な顔がまたほころび、後ろ姿に変わった。

そっと、ドアを閉める。

胸が、高鳴る。

(何?)

さわやかな風に、ノックアウト。

へたり込む。

もうすぐ、宴会が始まる。

時計は5時半。

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