13.斎藤和子

 カフェで一人、ホットコーヒーを飲む。 

 この街を訪ねるのは何年振り。

 美川国際グランドホテルにチェックインして、街に出てみたのだ。

 懐かしさよりも、悔しさ。

 普段はブラックだが、クリームをかきまぜながら、今日の行動を反芻する。

 店内は、レリゴー、とリフレインする。

 季節外れだな。

 外を歩く人は、汗を拭っている。皆マスク姿だ。

 

 もう、引き返せない。この日のために。

 自問自答する、これでいいのか、これでいいのか、と。

 いい。

 マスクを着けて、さっと立ちあがり、お勘定を済ませようとすると、店員が、言う。

「すみません。新型コロナのため、お名前と連絡先を、こちらに記入していただけますか」

 ボールペンをとり、斎藤和子、県外者、でたらめな電話番号を書いて渡し、足早に出ていく。

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