14.歩美
国立大学の文学部を卒業し、小さな出版社に二年勤めた後、フリーとして独立、グルメからファッション、旅情報など若い女性向きの記事を書いて、そこそこの収入はある。時には徹夜するくらいだ。
現在は府中のマンションに、父英二郎、母直美と三人暮らしだ。大学生の弟、学は調布の安アパートに住んでいる。
子供の頃から祖父母と叔父が暮らす美川町の実家に何度も帰省した。満々と水をたたえる川、そして、勇壮華麗な神楽が大好きだった。
祖父母は亡くなり、叔父が家を守っている。
社会人になると、帰省することがなかなか出来なくなった。祖母の葬儀が五年前、就職した年だ。
今度の旅行を思い立ったのは、父に来た美川中学校第五十九期生の還暦同窓会案内状がきっかけだった。
英二郎は、参加に乗り気でないようだった。マンモス大学に入り、その生活の中で多くの友人を得て、中高時代の友とはほとんど連絡することもなかったからだろう。
帰省した時、唯一、相田保という医師によく会った。父の数少ない中高からの友人だ。
この案内状の文中、
※当ホテルすずかけに一泊して、大いに飲み、語りましょう。ご家族の参加も歓迎いたします
とあるのに、目をつけた。会費は夕食飲み放題、朝食込みで8000円と、格安である。
「お父さんが行かないなら、私が代りに行ってもいいかな」
優しい父は、幹事に問い合わせてくれて、家族のみの参加もOKという返事を得た。返信はがきには、娘、歩美が代理で参加する、と書いた。
宴会に興味はなかったが、大好きな田舎で湯に浸かって、美味しいものを食べ、ゆっくりしたかった。
フリーなので融通が利く。残業を1週間くらいすれば何とかなる。ネットで行きの飛行機を予約した。
そして、今日。
仕事を一切忘れよう。
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