僕の事情
新型コロナによる不況で減少した親の収入は、仕送りの途絶と学費の自己負担という形になって僕の東京での大学生活を襲った。
仕送りと奨学金とアルバイトの収入で月二十万ちょっとはあった僕の収入は、仕送りがなくなったことと奨学金からの学費の支払い繰り入れを親からお願いされたために月十二万くらいに減った。家賃、水道代、光熱費、通信費――絶対に払わざるを得ない生活費を出したら、大学生としての身分をギリギリ維持できるかどうかのお金しか残らない金額だった。
服、靴、鞄――必要だけれど値の張るものは一切買えない。
友達と遊ぶ金どころか、毎日の食費も使う額を間違えると交通費すら出なくなる。
果てには大学の授業で必要な参考文献も買えない。収入を増やすためにバイトを増やせば今度は勉強どころか授業に出席する時間までなくなっていく。リモート授業すら出られないのは本末転倒だった。この上に親の扶養に入っていたから、割のいいバイトを探すにも扶養控除上限額以上の収入増は収入減に苦しむ親の課税となり、さらには自分の収入にも住民税や社会保障費という形で跳ね返ってくるという制限までついていた。
そして学費に充てている奨学金も借入だ。卒業時の借金は五百万以上にもなる。就職活動もままならない今の経済状態で卒業を迎えれば、人生が詰むのは簡単に想像がついた。
金がなかった。時間もなかった。
ある日、一日一食も食べられない日があった。
食べ物が買えない。
惨めだった。
覚悟を決めるしかなくなった。
短時間で収入がよく、さらに現金の手渡しで足がつかず収入制限に引っかからない仕事を探す――つまり
それでまずホストを経験した。しかしホストは呼び込みとリピーター確保のために女性客との連絡を勤務時間外でも頻繁に取る必要のある仕事だった。膨大な時間の消費が必要で、昼のバイトと大学の授業に忙しい自分には続けることができない仕事だった。
闇バイトは手を出して振込詐欺の受け子になって捕まった大学の知人もいたので、選択肢から除外した。
だから僕は消去法でカラダを売った。男性相手にカラダを売るウリ専だ。
ウリ専のお店に入店して初めての相手は、自分の父親と同じくらいの年齢のちょっと汚めのおじさんだった。
僕は同性愛者ではない。
キツイ、汚い仕事だと思っていた。
初めて自分以外の男の男性器をまじまじと見て、手で洗い、行為をする七十分。
けれど慣れる。
なにも感じず、
なにも考えず、
野菜でも洗うように他人のチンコを洗い、
男の喘ぎ声を聞きながら感じているフリをして腰を振り、
ルーティンワークのようにただただ無心に一回七十分の仕事を終える。
八千円。
服が買え、本が買え、三食が毎日食べられる満足の方が心に沁みた。
人としての尊厳を取り戻した感覚だった。
僕は若くて高校の部活で鍛えた筋肉もあり、見た目もそれほど悪くなかったからお客さんはたくさん付いた。店に入れば毎回三、四人の予約が入る。女の子のようにちやほやされ、常連さんとは別料金のオプションでデートもするようになった。毎日働かなくても、この仕事だけで月に二、三十万はコンスタントに稼ぐことができた。
これで僕の生活は安定し、心にも余裕ができ、今では貯金すらできている。
チンコで稼いだ金でも、人生が買えることを僕は知った。
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