後編


ご友人からの気合の入ったお願いももらったので、そのお願い、叶えてあげましょう!

よし、あの子だな。

どれどれー?あの子はそっちの子が好きなのね。

よしよし…ぐぬぬ…これは難しいですね…。

でも私にかかれば大丈夫!

グッと力をこめて、ホラっ!あの子はもうこの子のことが好き!

どうだ!みたか!私の力はすごいんだぞ!

きっと明日にはこの子とあの子がくっついて、胸のあたりがポッカポカ。


満足げにしている私に、友人を見送って戻ってきた彼が一言私に呟いた。

「あのさ、もし同じ人を好きな人が何人もきたら、お前はどうするわけ?」

「えっ…?」

頭が真っ白になるってこういう感じかな。全然考えてなかった。そうか、そういうこともあるんだ。

「えっとね、それはね。」

私が答えに悩んでいると

「わるい、意地悪だったな。ごめんな。」

彼はそういって帰っていった。

なんだったんだろう…。彼もあの子が好きだった…?



次の日、いくら待っても胸のポカポカはこなかった。

彼の昨日の言葉も気になる。

あの子はちゃんと友人のことを好きになっているはず。

その気持ちは見えているから大丈夫だと思うんだけど。


夕方、また彼とご友人がやってきた。

ご友人はなんだか悲しそうな顔をしている。

とぼとぼ歩いてきて呟いた。

「神様…。俺が悪かった。だからアイツを元に戻してくれ。」

そう言われて、私はびっくりした。

そしてさらにびっくりすることに、ご友人はその場で泣き崩れてしまった。


「アイツが、アイツが変わっちまってさ、ちがうんだよ、俺が好きになったのはあんなアイツじゃないんだよ。俺が、俺が自分で頑張らないですぐに神頼みなんかしたからバチが当たったのかな、ごめんよ神様、俺が悪かったよ、だからさ、戻してくれよ、アイツ、あんなのアイツじゃないんだよ」

その後も何分間か、泣きながら、私にはわからない何かを一生懸命伝えてきた。


なんで?両思いになって幸せポカポカじゃないの?

どうして?あの子は好きになってくれたんだよね?

わからない。何か悪いことをしてしまったのかな?


---


朝学校に行った俺は、ちょっとワクワクしていた。

あの神社、効き目あんのかな?

神様なんて普段信じちゃいないのに、我ながらこう言う時ばっかり都合がいいぜ。

朝練で見るアイツはいつも通り元気だなって、そう思おうとしたけど、なんかちょっと違った。

練習に身が入ってないな。

神様に何かされたせいで病気にでもなったか?もしそうなら許さねーぞ神様。

朝練終わり、アイツとクラスメイトの会話に耳を尖らせる。

「大丈夫?なんか調子悪い?練習集中できてなかったみたいだけど。」

「あ、うん…。なんか、なんで今までバスケ頑張ってたんだろうって、突然なんかよくわからなくなっちゃって。」

「えー?しっかりしてよ、エースなんだから。練習試合もあるのに風邪とかやめてよね。」

アイツがバスケに集中できない?バスケ馬鹿だったのに?

よいせっと自分の荷物をもって教室へ向かおうとすると、アイツと目があった。

「おう!」

神頼みのことを意識してか、いつもよりちょっと元気になってしまった挨拶に、アイツは顔を赤らめて目を逸らしながら答えた。

「おう…。」

ゲェッ…まさかそんな反応をされるとは…。

これが神頼みの効果か?もう出てるのか?

アイツ、こんな感じだったか…?


それからも、1日アイツの調子は悪そうだった。

何をするにも違和感があるみたいで、それをいちいち確かめているような、そんな感じだ。

毎日そんなにじっくりアイツのこと見てるわけじゃねーよ?今日は特別だ。

だってさ、なんかアイツ、いつもと違うんだ。

今日のアイツは、俺が今まで見てきたアイツじゃなかったんだ。


「おい、昨日の神社の話だけどよ、あれ本当に効果あんの?」

「何言ってんの?あるから今日のアイツ、あんなにおかしいんでしょ。誰が見たって何かあったってわかるレベルだよ。」

あまりに心配になって友人に尋ねると、ジトっとした目で見返され、深いため息をつかれてしまった。

「あのさぁ…。人の気持ちを変えるってどういうことかわかってる?」

「は?気が変わるとか?気分じゃねーの?」


そいつから答えを聞いた俺は、自分の軽はずみな行動に後悔しながら、すぐに神社へと走った。


簡単なことだと思ってたんだ。2つ並んだお菓子のどっちを選ぶかとか、そういうことだと思ってたんだ。

だから簡単に好きになって欲しいとか言えたんだ。

「でもさ、ちがったんだよな。好きって、自分の根っこにある経験とか、考え方とか、人格から滲み出てくるものだったんだよな。だからアイツ、変わっちまった。俺の全然知らない人間に変わっちまった。」

今の”好き”が変わるために、根っこから人間が変わっちまってたんだ。

俺の好きだったアイツって、アイツの好きな部長のために頑張ってる、そういうアイツだったんだ。

そうわかったとき、少し虚しくもあったけど、諦めがついたっていうか、アイツを一番輝かせられるのは俺じゃないんだなって思った。

「だから、お願いだ。元に戻してくれ。自己中で自分勝手なのはわかってる。それでもお願いだ。アイツを元に戻してくれ…。」


---


元に戻す?そんなことを言われても困る。そんなことできない。

人を好きにさせるって幸せなことじゃなかったの?

言われていることは全然ピンとこないけど、やっちゃいけないことをやっちゃったようなそんな気がした。


どうしよう、私はいったい何をしたんだろう。

私はあの子の"好き"をいじったとき、"何を好きになるか"だけ考えていて、そのために何を変えたかなんて覚えていない。

きっとあの子の中でのいろんな感情とか思いの結びつきとか、そういうものを引っ掻き回しちゃったんだ。

元に戻すってどうやるんだろう。

私は今までいったい何をしてきたのか、自分の力が怖くなってきた。


慌てふためく私に、突然お母さんの声が聞こえた。

「少し目を離すとすぐ悪さをして。やっぱりまだ子どもね。」

「お母さん?見てたの?助けて!私何かやっちゃったみたい!」

「”何か"…?もう少し反省して欲しいんだけど、自分が何をしちゃったのかわかる?」

お母さんは少し怒ってるみたいだった。

「私、この力のこと何にもわかってなかったみたい。人間の気持ちを変えるなんて簡単だと思ってた。ねぇお母さん、なんとかしてちょうだい!」

「大丈夫、あなたが反省してくれたのならなんとかしてあげる。」

そういってお母さんは私の頭を撫でてくれた。


「あなたね、これで2回目なのよ。」

「え?」

「そこにいる彼、彼のピーマン嫌いを治してあげた時のこと、覚えてる?多分あなたが初めて力を使ったのはあの時よね。」

「うん、ピーマン好きになったでしょ?」

「あの時、彼はピーマンが食べられるようになった代わりに、甘いものが食べられなくなって困っていたのよ。」

「え?!」

そんなこと聞いたことなかった。

「やっぱり聞いてなかったのね。彼なりの仕返しなのかしら。だとしても今回のはちょっと悪趣味ね。」

お母さんは一人で納得すると、彼と友人の方へと向かい、彼と何か話をしたあとで、友人の背中を慰めるように撫でながら、私があの子にしたことを”なかったこと"にしてくれた。

そしてもう一度私のところへきて言った。

「神様ってね、なんでもできちゃうの。だからなんにもしないのもお仕事なのよ。」


---


「おい、もう大丈夫だよ。治ったってさ。」

泣きながら神様にお願いする友人に、声を掛ける。

「は?なんでそんなことわかるんだよ。」

「大丈夫。もう大丈夫だよ。さっき泣いてるお前の後ろに神様が見えたんだ。」

「馬鹿か?お前。そういえばこないだも神様が見えるとかなんとか言ってたよな。やっぱ頭おかしのか?」

今回は僕も悪かったんだ。少しくらい汚名を被ろう。

「でもまぁ、言われてみりゃ少し背中があったかい気もするな。一回泣いたらスッキリしたわ。クソ恥ずかしいけど。」

「駅まで送るよ。明日もまだアイツがおかしかったら、治るように頭ぶん殴ってやろう。」

「んなことしたら俺がお前のことぶん殴るわ。」


一旦友人を駅まで送り、もう一度神社に戻ってきて神様に謝っておいた。

「さっきのこと、ごめんなさい。あの子はいつも楽しそうにしてて。テストの点が悪くてむしゃくしゃしてる時に、それがちょっとイラッとしちゃって。あなたがいないことをいいことに、けしかけちゃいました。」

「自分から謝れることはいいことよ、少年。」

神様は笑って許してくれた。

とても反省している。きっとあの子なら失敗するって、そう思ってたし。実際、何人もの気持ちをいじったところで、人の気持ちとか、人と人との交わりとか、そう言うものに興味をもった風にはみえなかったから。

「ところでピーマンの時の話、しなかったのね。」

「あの子に失敗だったって思わせたくなくて。でも伝えてあげてたら今回みたいなことにもならなかったんでしょうね。」

「そうね。わかったら次からはあの子の教育にもう少し力を貸してちょうだい。神様って人間からしたら本当になんでもできちゃうし、なんでもアリだから、人間のこと何にもわからないの。あの子はこれからそういうことをもっと知らなきゃいけないのよ。」

「僕はそのための教材ってわけですか。」

もしかしたら今回のこともわかっていて僕を泳がせたのかもしれない。

神様はにっこり笑うだけだった。


「そうだ、友人からアイツへの好意を少しくらい消してやったりしたんですか?失恋確定みたいだし。」

「そんなことしないわよ。重い失恋もいい思い出なんじゃないかしら?」

どっちが優しいんだろう?

失恋したことのない僕にはまだわからない問いだった。



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