第23話


僕はアキ組合長から王都行きの話を受けた翌日、朝、出勤前の母さんや姉さん達に夕食の後、話したいことがあると告げた。


「ロイズ、わかったわ。今日は寄り道せずに早く帰ってくるわね。」

「私も今日はコーヒーハウスには寄らずに帰ってくる。」


レイチェル姉さんがいつもの寄り道をせずに帰ってくるのは珍しいね。


「私は少し仕事で遅くなりそうだけど、ちゃんと帰ってくるから待っていてね。」

「遅くなっても大丈夫だよ。ジェニカ姉さん、今日は夕食の後にアップルパイを食べながら話そうと思っているから、準備しておくね。」

「分かった。必ず帰るからね。」


ジェニカ姉さんは少し申し訳無さそうな顔をしたけど、最後には嬉しそうに出勤して行った。


僕は今日は出勤日ではないので、母さん達のために夕食後のアップルパイを出そうと、朝から材料の買い出しに市場に行く。


今日は普通に男性の恰好で外出するので、警備員さんと一緒に買い物をする。


警備員さんはいつも無口だけど、的確に仕事をしてくれている。

少し多めにアップルパイを作って警備員さんが帰るときに渡そうかな。



遅くなると言っていたジェニカ姉さんが思っていたよりも早く帰ってきてくれたので、夕食の後、アップルパイとコーヒーを母さん達にだし、自分にはココアを用意する。


医学的にはコーヒーは男性は飲まない方が良いと言われている。男性が飲むと美しさが失われるらしいのだ。

僕が最初にコーヒーを飲もうしたとき、母さんや姉さん達に止められたので、僕はココアやお茶にしている。


アキ組合長にそのことを言うと、「私がいた世界でも、時代が違うけどヨーロッパという場所では、同じような理由で女性や子供が飲まない方が良い言われていたね。」

と言っていた。


1回だけ内緒で飲んだけど苦かったので、それ以来絶対に飲まないようにしている。


「母さん。今度、王都に行きたいのだけど、行っても大丈夫かな?」


母さんたちがアップルパイを美味しそうに食べているとき、僕はおもむろに王都行きの件を話してみる。


「王都ね。少し前のときは半日程度の街だったけど、王都には1人では行かせられないわね。私か姉さん達のどちらか一緒だといいけど。いつ行きたいの?また買い付けとか手伝ってくれるのかしら?」


母さんは僕が商会の手伝いをしてくれるのが嬉しいのか、積極的に話を聞いてくれている。


「もちろん、それでも良いけど、実は、組合長と王都に一緒に行かないかと誘われているのだけど。」


僕がそう言うと、部屋の空気が凍りついたようになった。


「「「ロイズ、どういうことかしら?」」」

母さん達、3人の問いかけが重なった。

3人の笑顔が怖い気がする。


「アキ組合長に王様や王配様から手紙が来たらしいよ。その中で見合い相手の僕も一緒に連れてきたらどうかと誘われたらしくて、昨日言われたんだ。」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ステファニー視点


あのアキとかいう女、婚前旅行を計画するなんて、なかなかやるわね。


私はロイズちゃんの話を聞いて、顔には出さないけど、内心、苦々しく思った。

レイチェルやジェニカの顔を見たけど、二人共同じ気持ちだろう。


もちろん、ロイズちゃんとアキが結婚して、彼女がこちらに嫁入りするなら、悔しいけど婚前旅行をしても問題はないと思っている。


アキ・ナカムラが来たという「にちほん」とかいう国は、女性が男性の家に嫁入りするのが一般的と調べはついてはいるが、何事にも例外はあるから油断はならない。



私としては、可愛い息子を他人に取られるのは嫌なのだ。彼女がナカムラという家を続けていきたいと言えば、転生者に甘いこの世界のことだ。うちの商会を経済力を取り込もうとして、王家やら貴族達が、張り切りだして、今は与えていない貴族位を与えるかもしれない。

そんなことになれば、嫁入りなんてするはずがない。ロイズちゃんも取られて、うちの資金も吸い上げられてしまうかもしれない。


1代貴族なんて当てにもならない。アキ・ナカムラの転生者としての能力はなかなかのものだと聞いてはいるが、おいそれと信じるわけにはいかないのだ。


「ロイズちゃん。ちょっと婚前旅行は早くないかしら?まだお見合いをしたばかりだし、これから付き合って仲を深めて行くのが良いのじゃないかしら?」


私がそう言うと、レイチェルも同意してくる。


「そうだぞ。ロイズ、付き合いだして、嬉しい時期かもしれないけど、女なんて、付き合ったり、結婚したりするのがゴールだと思っている輩が多いんだ。」


ジェニカも援護してくれる。

「そうよ。婚前旅行なんか行って、ロイズとそういう関係になったら、急に冷たくなるかもしれない。」


ロイズちゃんがジェニカの「そういう関係」という言葉を聞いて少し赤面しながら答える。


「いや、僕としてはそういう関係にはまだ早いなと思っているし、アキ組合長も転生者だからね。こちらの女性とは違うと思うよ。」


もちろん、ロイズちゃんの言葉ある意味正解かもしれない。

転生者とこちらの世界の女性は性格が大きく異なる。


だからと言って安心できるものでもない。

かと言って、国王や王配からの誘いを断るわけにもいかない。こちらで文句を言っても、この国の最高権力者に届くわけでもないので、王都行きの許可を出さないわけには行かないのだ。


私か二人の姉が誰かついて行ければ1番なのだが、王都行き、しかも、国王や王配との面会も入るのだ。かなりの日数がかかるだろう。

私がそんなにこの街を離れるのは商売上良くはない。


私は苦渋の決断として、レイチェルやジェニカのどちらかと警備員やロイズちゃんの身の回りの世話をする者をつけるならばと王都への婚前旅行の許可を出す。


「ロイズちゃん!でも、絶対に変な関係にはなったらだめよ!」

話では、繁忙期は避けて計画するのでまだ日数はあるらしいけど、今から心配だ。


レイチェルがロイズちゃんに話しかける。

「ロイズ、王都で王族と面会をするのだろう?それなりの衣装を準備しないとな。明日は母さんも姉さんたちも休みを取るから、ロイズの衣装を作りに行こう!」


「レイチェル!良い案だわ!皆で行きましょう!どうせなら、アキ組合長さんも連れて、二人の衣装を合わせて作りましょう!」


王都行きは苦々しく思うが、普段、可愛い服を着たがらないロイズちゃんに可愛らしい服を着せることができるのだ。これほど嬉しいことはない。

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