第22話 番外編
女浮浪者の格好をした僕はいつも通り定位置に座りこんで、ぼーっと時間が過ぎるのを待つ。
しばらくすると、仲介人の女騎士が、兵団の門から出てきてこちらに向かってくる。
座りこんでいる僕の前を通るとき、僕は女騎士に声をかける。
「騎士様、どうかお恵みを〜。」
女騎士はポケットから出した小銭と小さな紙切れを僕の前に置いてある欠けたカップに投げ入れた。
「ありがとうございます。」
女騎士が見えなくなってから、僕は周囲を確認、誰もこちらに注目していないことを確認して、カップを手に取り中身を見る。
そこには7枚の銅貨と紙切れが入っていた。
銅貨が7枚ってことは、7日間で目標の調査を行って次の接触は8日後ってことだ。
紙切れには1人の名前と住所が書いてあり、この名前が今度の目標で住所は、目標に関係のある住所が書かれている。大抵は住所だったり、仕事場だったりする。
さて、僕はこれからこの名前が実在する人物で、僕に殺すことができるかどうかを7日間で調査しなくてはいけない。
もちろん、調査に時間がかかるようであれば調査期間を延ばすこともできるが、あまり時間をかけたくはない。
8日後、僕はいつもの格好でいつもの位置に座りこんでいる。
女騎士が兵団の門から出てくる。
女騎士が僕の前を通る。
僕の前に置かれているのは古びた帽子。これは殺害対象が実在し殺すことができるという合図だ。
ちなみに殺すことが不可能の場合はいつもの欠けたカップで、調査期間を延長してほしいときは汚い箱を置いている。
女騎士は僕の前に置いてある帽子に銀貨を1枚と紙切れも一枚入れて通り過ぎる。
これは女騎士からの了解の合図だ。銀貨の場合だと僕は1ヶ月以内にターゲットを殺さなくてはならない。紙切れには依頼者の要望が書かれているはずだ。
「ありがとう〜ございます〜。」
僕はできるだけ哀れっぽい声でお礼をいう。
でも、女騎士は依頼を果たすまでは厳しいので、こちらを向くこともしない。
僕は依頼者の要望を素早く確認する。「門の前で実行せよ。」か難しそうだが、依頼人の要望だ。できるだけ叶えよう。もちろん、難しそうなら普通に殺すだけだが。
依頼人の要望を叶えると報酬が多くなるが、相手の要望に応えなくとも良い。あくまで、対象を殺すことが大前提なので、失敗するよりは遥かに良い。
さて、また殺害対象がいる街まで行かなくてはいけない。
調査のときは商品の買付を手伝いするという理由をつけて母さんと姉さんを納得させたけどね。今度はどんな理由にしようかな?
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僕は目標の女を見つけた。
目標の女は背はあまり高くはないが、鍛えているのか、それとも武術の心得があるのか、あるいはその両方か姿勢が良く、隙がない。
女は、今、この街の観光名所である領主門を観ている。この門や、領主の館は著名な建築士が設計したことでも有名なのだが、領主は儀礼的なことが大好きなので、晴れた日の夕方に門兵が交代するときにはちょっとした儀礼的な交代式を行うのだ。その交代式も有名なのでこの街に訪れた観光客は一目見ようと集まるのだ。
その交代式とは、交代前の兵士が佩いている剣を鞘ごと外し、3回ほど回す。その後、回転させながら中空に投げ上げ、受け取ると同時に鞘から剣を半ばまで抜き、刀身に異常がないか相手に見せて鞘に入れる。交代する兵士も同じ動作を行い、受け取った剣を佩いて、機械仕掛けの人形のような動作で行進をして、門の横に定められている位置に付くというものだ。
女は観光目的で門や交代式を注目しているわけではなくて、ただぼんやりと眺めている感じだ。僕はいつでも仕掛けられるように隙を探っているが、観光目的の旅人が多く、また女自身も隙がなくてなかなか仕掛けることができない。
なかなか厳しいな。
こう人が多くては、下手なことをすると、僕自身が捕まってしまう。また、日を改めるか。僕がそう心を決めると同時に、交代式は終わり、観光客は皆バラバラに散開する。女はしばらくはこの街にいて定期的に門の前に行き交代式を見るらしい。門以外の場所では、女自身に隙がなく、女は夜は宿から一歩も出ず、昼間では人がそこそこ少ないが、人がいないと視界が開けてしまうので、僕が攻撃を仕掛けようとしても、視界が開けているのですぐに見つかってしまう。
是が非でも門で攻撃を仕掛ける。僕はそう心に決めて、女が逃亡するかもしれないので念のため、後をつける。
女は近くの宿に入って、今日も宿で食事を取るらしい。
次の日、女はまた交代式を見にきていた。今日はいけるかもしれない。女は調子が悪いのか、今日は隙だらけだ。
僕は交代式が終わるまで、女から目を離さず、いつでも攻撃を仕掛けられるように準備をする。
やがて交代式が終わり観光客が散開し始めるとき、僕は密かに手に持っていた石を女めがけて投げつけた。
石はちゃんと女の頭に当たったみたいだが、僕はそれを見届けることなく、後ろを向いて走り出す。
後ろから
「そこの走っている女が私に石を投げつけたのよ!誰か捕まえて!お礼はいくらでもするわ!」
女の悲鳴のような弾劾するような声を聞きながら僕は走り続ける。
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交代直後の当番兵、アンナは目の前で女が石を投げつけられて頭から血を流すのをみた。
怪我をした女は比較的元気なのか
「そこの走っている女が私に石を投げつけたのよ!誰か捕まえて!お礼はいくらでもするわ!」
と大きな声で叫んでいる。
近くにいる観光客は、血の気が多い輩なのか、お礼に目がくらんだのかほとんどが逃げた女を追いかけていた。
怪我した女は門の近くで休もうとしているのか、よろけながらこちらに向かって来ている。
アンナは当番兵で門を守るのが仕事だが、目の前に怪我をした人がいるのを放っておくのは外聞が悪い。後で、怪我人を放置したとして上司に文句を言われても困るので、女を助けようと近づきながら声をかける。
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「おい。君大丈夫か!」
今回の殺害対象の当番兵が声をかけてくる。
「何とかね。ちょっとそこの路地でいいから座らせてくれないかな?またあの女が来ても困るから目立たないところで休みたいの。」
僕は今の服装にぴったりな言葉遣いをして答える。
「分かった。そこまで連れて行くから掴まれ。」
当番兵がそう僕に声をかけて、肩をかしてくれる。
僕は素早くナイフを取り出し、当番兵の首を切りつけ、路地に引き込む。
「ありがとう。そしてさようなら。」
出血量から対象の当番兵は死んだろう。まぁ。ぎりぎり死んだ場所は門の前ということで。
報酬の増額は、依頼人と仲介人の話し合いに任せよう。
僕は、路地を歩きながら、近くに隠して置いていた。いつもの浮浪者の格好に戻る。さて、また別のところで別の女装をして、定宿に戻るかな。明日からは支店を出すための調査をしなくては行けないね。長期旅行の言い訳をするのにはいつも困るよ。
そうだ、母さんと姉さんたちのお土産も買っておかないと。
そう言えば、僕がこの浮浪者の格好で声をかけたあの男の子は大丈夫かな?
捕まらなければいいけどね。
まぁ足も早かったし、女装もちゃんとしていたから、元の男の格好に戻れば捕まらないだろうね。
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僕は、大通りを走り、途中で目にした裏路地に入り、女装をとき、いつもの男の格好に戻る。
あの、女浮浪者の依頼通り、あの女に痛い目を見せてやったぞ。
僕は逃げ切った安堵と達成感に包まれながら、女浮浪者の依頼を思い出す。
「君たち男性は常に女性に物のように扱われているよね。今は浮浪者の私だけど、昔は、男性の護衛を専門に働いていた警備員なの。」
女装している僕を男性だと見抜いた女浮浪者は僕に依頼があると話しかけてきた。
「実は私を騙して、警護している男性に卑劣なことをした女がいてね。私は男性を守れなかったからのこんな立場まで落ちたの。その女がこの街の領主の息子を狙っていると聞いてね。私はこんな格好だし、相手に顔を知られているから近付くことができないの。」
僕に話をしてもどうしようもないことを女浮浪者は言ってきた。例え僕が男でも領主と話をすることができるわけはない。
女浮浪者は僕の言いたいことがわかるのか、話を続ける
「もちろん、貴方に領主に会いに行ってほしいというわけではないわ。私は伝手を使って、たまに領主の息子が交代式の後に顔を出すって嘘を伝えたの。そこで、貴方にお願いがあるの。石を女の顔か頭にぶつけてほしいの。いくら何でも顔や頭に傷があるうちは領主の息子には声をかけないでしょ。怪我をしている間に別の伝手を使って領主には注意喚起をするからあの女に怪我をさせてくれないかな?」
僕は怪我をさせるということに賛成をしかねていると、
「大丈夫。貴方は女装をして石を投げつければ良いだけ。後は逃げて見えないところで着替えてしまえば見つからないし、女だったらかなり殴られるかもしれないけど、男性の貴方は仮に捕まっても酷い目には合わないわ。もちろんお金をこれだけあげるし、相手の特徴もほら、紙に書いて似顔絵も渡すわ。」
僕は男性だからほとんどまともな仕事に就いてはいない。高額な報酬と違法な仕事をするという状況にわくわくしながら、女浮浪者から相手の特徴が書いてある紙と報酬を受け取る。
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