第21話
僕が受付を交代し休憩時間になるとアキ組合長から組合長室まで来るようにと呼ばれた。
アキ組合長はこの前、暴走してしまったので、仕事中は僕と二人きりになるような状況にはならないようにしている。
僕は珍しく思いながらも組合長室に向かう。
組合長室の扉をノックし、アキ組合長の返事を待っていると、返事は来ずいきなり扉が開いた。
「ロイズ君!待っていたよ。さぁ、こちらにどうぞ。」
僕の顔を見るとアキ組合長が嬉しそうに僕を部屋に招き入れる。
アキ・ナカムラ視点
私はロイズ君を組合長室に迎え入れ応接用の椅子に座らせる。
そしてローテーブルを挟んで反対の椅子に座る。
あまり近くに座るとロイズ君に「もし襲われたら」という不安を与えないためだ。
私が受けた印象だと、この世界の男女の貞操観念は男性に対しては貞淑であれという一方で女性には積極的に男性に声をかけて、子を生むことを推奨しているようにも見受けられる。
しかしながら、例え休憩時間といえども、しつこく話しかけてロイズ君に嫌われたくない私としては、できるだけ好感を持ってもらおうと配慮をする。
「さて、ロイズ君を呼んだのは、王都旅行でもしないかということなんだけどね。」
私がロイズ君を伺いながら話しかけると、旅行という言葉を聞いたロイズ君の顔色が変わる。
その様子を見て私は内心、旅行はまだ早かったかな?と思いつつ、慌ててロイズ君に話しかける。
「あぁ!急にごめんね。実は、王様や王配様から手紙が届いて、君との見合いはどうかだとか、もし良かったら、ロイズ君も連れて王都に来て話しをしないかと誘われていたから、ロイズ君もどうかな?って思っただけだから。嫌だったら私だけで行くから!心配しないで。」
ロイズ君は私の言葉を聞いて少し考えながら口を開く。
「すみません。旅行と聞いて少し取り乱しました。僕は生まれてから、この街から遠出をしたことがなくて。
でも、王様や王配様から言われたら僕も行った方が良いでしょうね。返事はもう少し待ってもらっても良いですか?」
「もちろんだよ。王様からの手紙には期日は書いていないし、これは王命ではなく、友人としてのお誘いだからって書いてくれているからね。私もできるだけ繁忙期は避けて行きたいからね。」
そう言って、旅行の話を打ち切り、私はロイズ君との休憩時間をお菓子やお茶を飲みながら和やかに過ごした。
ローズ副組合長視点
私は本日の最終報告をアキ組合長に行い、必要書類にも決裁をもらって、組合長室を出た後、自分の部屋で今日はコーヒーハウスで何を食べようかと考えながら、帰る準備をしていたら、アキ組合長に再度呼ばれた。
アキ組合長は仕事を離れると気安い感じて話しかけてくるので、私としては最近は友人のような感じになっている。
アキ組合長が相談してくる内容もロイズ君に対しての恋心だったり、この世界の状況について分からないことを聞いてくるなど、私的なことを話してくれるので、私に対して心を開いてくれているのだと思っている。
「ローズさん。実はね、今日、ロイズ君に王都行きの件で話をしたの。」
「あぁ。王様に呼ばれた件ですね。ロイズ君の反応はどうでした?あまり、芳しくはなかったのではないですか?」
私がそう答えるとアキ組合長は何で分かったのという感じで驚いた。彼女は仕事中はどちらかというと無表情が多いが、プライベートではとても感情表現が豊かだ。
「この世界では、あまり男性が街を出ることはありません。旅商人や旅芸人などの例外はありますがね。しかし、彼らだって1人ではなく、集団として生計を立てているがゆえに旅について行きます。一般的な男性が街の外に出ることはよほどのことがない限りありません。」
私がこの世界のことを説明するときアキ組合長は興味深いのか真剣に聞いてくれるので私も話がしやすい。
「男性には悪いですが、権力者や有力者は、男性を自分達の資産や国力の一部として見ています。単純に考えて、男性と女性がいれば人口増加が可能です。もちろん、お互いの好みもあるかと思いますが、いざとなったら、男性を脅してそこらへんの女性に子を作らせても良い。」
脅す件を話すとアキ組合長が不愉快な顔をした。
「不愉快にさせて申し訳ありません。しかしながら、アキ組合長の世界とは違って、この世界では、裏では男性の売買もあります。」
「私がいた世界も、善人ばかりではないからね。似たようなことはあるし、それ以上に酷いことをやっているって話しは聞いたことがある。」
今度は私が驚いた。アキ組合長の世界では、皆、何不自由なく暮らしていると思っていた。
私は気を取り直し、話を続ける。
「まぁ、我々の世界の言葉で「入る剣に出る男」というものがあります。これは注意を促す格言で自分の領地に武器を持って入ってくる人物は敵かもしれない。自分の領地から男が出ていくと国力が減るから注意しろという意味です。」
アキ組合長は納得したように頷いた。
「私の世界でも、過去に似たような言葉が使われていたよ。ちょっと意味が違うけどね。」
「そうなんですね。まぁ。1番の理由は、この世界では、男性が1人とか少人数で歩いていれば、まず間違いなく、拐かす輩が出てきます。それが盗賊や山賊以外でも領主の私兵でもやってます。それだけ男性が貴重なんです。」
「だから、あまり男性を外に出さないのね。」
「ええ、どうしても旅に出る場合は、女装させることが多いですよ。大抵の男性は自分のサイズに合わせて女装用の服を持っていますよ。街中でも1人歩きは危ないからですね。」
「そうなのね。今度、ロイズ君の女装した姿でも見せてもらおうかしら。」
アキ組合長はそんなことを言っているが、私は女装した姿よりはいつもの可愛らしいロイズ君がみたい。なんて、アキ組合長の前では死んでも言えないが。
「王命ではありませんが、見合いを紹介をした王家からの招待ですよ。ロイズ君もウルズ商会も嫌と言えないでしょう。もう少し待ってみたらどうですか?」
私と話した後、アキ組合長は勇気付けられたのか喜びながら頷いた。
「うん。もう少し待ってみるね。ローズさんありがとう。」
アキ組合長の笑顔がとても可愛らしい。転生者の女性はどうしてこの世界の男性並みに可愛らしいのだろう。私は男性が好きなのだが、アキ組合長の笑顔を見るといつもドキドキする。
よし、今日はコーヒーハウスに行くのは止めて少し良い関係になりつつある男性に花束を渡しに会いに行こう。
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