第20話
王は悩んでいた。
悩みは私生活や政務のどちらにも関係するとも言えるかもしれない。
仕事が楽しくないのだ。
王の仕事と言えば、普段の政務やたまにある他国との戦闘とも言えない小競り合いについて他国の王と対談や手紙でのやり取りしたり、くだらない貴族のくだらないいざこざを仲裁したりすることだ。
嫌いではない、嫌いではないのだが、楽しくないのだ。
しかし、唯一希望があると言えば転生者の承認業務である。
この世界には転生者がそこそこの数がいる。この王国だけではなく隣の国や世界の果てにあるような小さな島国にも転生者は存在するらしい。
転生者はその能力が強大なことが多く、国にとっては重要な戦略兵器として扱うこともあるので、基本的には詳細は秘匿されている。
まぁ、どうでも良い能力や転生者自身が危機感の無い輩などは、広く知れ渡っているが、そういった転生者は何処からも相手をされないので、この国では基本的には自由にはさせている。
転生者は、この世界に生まれた人がある程度の年齢になったら前世の記憶を取り戻した時、上位的存在から与えられた能力と前世に近い容姿(上位的存在から優れた容姿を与える者が多い)を取り戻す人間のことを言うのだが、もちろん、転生者によっては、容姿があまり変わらない者もいるし、能力はまちまちなので、本当に転生者であるかどうか、能力はどうであるかを確認しなければならないのだ。
強大な能力があるのであれば、国に取り込んで、その力を発揮して貰うのだが、確認するのには調査には長い期間がかかる。
もちろん、王が個人で調査をするわけではなく、国の調査機関が時間と労力及び費用をかけて調査した資料をもとに最終的に王が転生者を見極め、本物の転生者として正式に認定するのである。
王としては転生者の男性については、基本的にどうでもよく、資料を確認し、その整合性や能力の有益さによって判断を下す。
転生者の女性については、調査機関の資料を読み、複数回に分けて転生者本人と直接話をして判断を下すのだ。
これは、王が同性愛者というわけではなく、転生者の男性はどういうわけか、見た目がこの世界の女性に近く、性格もどちらかというと粗暴になり、何より性欲が非常に強くなるので、王としては珍獣としか思えないのだ。もちろん、中には高潔な性格を持った男性もいるのでちゃんと話を聞くのだが、
そうすると、王配の機嫌がすこぶる悪くなるのだ。
王には、男性と言えば、王配1人しかいない。側室をおいていないのだ。
これは他の国からみると珍しい。
王としては、好きな男性は1人でよく、お互いに愛してあっていれば充分という考えなのでおいていないのだ。
そんな王が転生者の承認という重要な政務だけれども、男性と話をするのは、王配として非常に心配であり、王配は嫉妬深いというわけでばないが、非常に機嫌を損ねてしまう。王としては転生者の男性はこちらの女性の外見や性格に近くなるので好みから外れるから全くその気はないが王配は安心できないのであろう。
一方、転生者の女性は見た目がこちらの世界の男性に近くなり、性格も丸くなる傾向が強くなる。何より、性欲も薄れるのか、性行為に対して恥じらいを見せることが多い。そう、この世界の男性にとって美徳とされている外見や性格に非常に近くなるのである。
外見は男性に近くなるけれども女性ということもあり、転生者の女性と話す場合には、王配は嫉妬せずに理解を示してくれるのだ。
これは、例え、外見が男性に近くても、やはり女性にまで嫉妬するようでは、王配として威厳を保てないという自尊心と、王が転生者の女性と話をした夜は、転生者の外見に刺激された王が積極的に王配を求めてくるのを好ましく思っているのであろう。
今回の転生者のアキ・ナカムラについては、貧民出身ということもあり、資料を読むまでは期待はしていなかったが、資料を確認すると、能力的にはかなり有益らしいので、少し期待をしながら、面談を行うと、外見は絶世の美男子という感じの女性であった。
その噂を聞いた王配が、私がアキ・ナカムラに手を出すかもしれないと思い慌てて面談の場に入ってきた。
「まぁ、ちょうど良い。アキ・ナカムラは緊張するかもしれないが、王配と一緒に面談するとしよう。」
小一時間、話をすると、王と王配はアキ・ナカムラのことをとても気に入ってしまった。
その性格や能力の素晴らしさもそうだが、何より王配の心に響いたのが、この世界での目標である。
アキ・ナカムラは是非、恋がしたいと愛した男と添い遂げるのが目標だと言ったのだ。
これには王配が感動して泣き出してしまった(男・子供は愛だの恋だのに弱いのだ。)。
本人の希望もあるし、王配たっての願いでもあるので、王はアキ・ナカムラの処遇を真剣に考え始めた。
アキ・ナカムラの出自は貧民である。そのため、いくら王と王配が彼女を気に入っているといえども、高い役職や貴族位にしてしまえば反発があるかもしれない。
そうすると低い貴族位だと、他国との国境近くの領地の領主になってしまう。そうなると戦いに明け暮れるようになってしまい、後ろ盾のないアキでは、とてつもない苦労をさせることになり、恋どころではないだろう。
そうなると、王都以外の街での役所などの長配置が良いであろう。
本人は転生前は経営や経理の仕事についていたので商人組合の組合長が良い。
後は、恋だが、この世界の男性の数が少ないので、王の権力を使って見合い相手を設定しよう。
婚約者だと、お互い決められた話ということで反発するかもしれないので、見合いをして、あくまで本人達が結婚を決めたという形式が良いであろうと王は判断して、アキのために最良の相手を捜索した。
王配にも相談をして意見を聞いたところ、ウルズ商会長の息子、ロイズが候補に上がった。
本人の性格、家柄、ロイズへの教育状況を考えて判断し、見合い相手とした。
見合いをした結果、お互いに好ましく思い、仲を深めるために、アキが組合長を勤める商人組合でロイズが働くことになった。
2人は順調に愛を育んでいると聞いていたが、ある時、王と王配の耳にロイズとその姉がアキ・ナカムラの浮気を疑う事態が起きたとの情報が入ってきた。
詳しく調べるとノイ何とかという転生者の男が、アキに対して能力を使い、アキに言い寄っていたところをロイズとその姉が見かけたときに、仲睦まじく歩いているように見え、なおかつ、ノイ何とかがアキを歓楽街へ誘導していたことも浮気を疑う要因になっていたらしい。
幸い、ノイ何とかは取り押さられ、アキの浮気は無実だとすぐに分かった。
そこまで聞いた王配が、王に対して、ノイ何とかはどうしますか?と尋ねてくる。
王配は浮気する人間が大嫌いである。お気に入りのアキがせっかく恋をしているのに、邪魔をした男に対して厳罰を与えないのかと尋ねてくる。
まずい。ここでノイ何とかを庇うような態度をとると大変なことになる。
王はそう判断し、
「仲睦まじく過ごしている2人を引き離すような行動を、能力まで使って行うとは鬼の所行だな。能力を封じて鉱山に送れ!」
こうして、ノイ何とかの鉱山送りが決まった。上手く使えば後方撹乱も狙える能力だが、仕方ない。
そう言えば、明後日はアキがロイズ君を連れて訪ねてくる日だったな。それで王配があんなに怒っていたのか。
王はそう思いついたが声に出さずに、にこやかな王配の顔を見れて良かったと思うことにした。
王は相変わらず、仕事がつまらないと思っているが、アキとロイズの結婚式や子供が生まれることを楽しみにしながら、政務に励もうと思う。
きっとアキとロイズの子供は孫のように可愛いだろうな。
王はまだ生まれるかも分からない子の顔を想像しながら、にやついていると、何だ。人生は楽しみが多いなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます