第18話
僕は狭い裏路地を歩いている。
いつもの浮浪者姿だ。
この恰好だと誰も気にしない。
気にするのは、屋台で食品を売っているおばさんか万引きに悩まされている商店のおばさんぐらいだ。
僕は、いつもの駐屯兵団の裏口を目指して歩いている。仲介人である騎士のお姉さんに会うためだ。
特段、依頼がない場合は7日ぐらいに1回は顔を出すようにしている。
急遽、依頼がくる場合をもあるかもしれないが、僕は急遽の依頼を受けない。
人を殺すのは簡単ではないと思っている。
依頼したら直ぐに殺してくれなんて無視がいい話しだ。
僕は相手の行動を調べ、相手の行動や習慣に絶好の機会があることを見つけて、その機会に自分の出来得る限りの能力や道具を使って殺すのだ。
だから、急遽殺してくれと言われても出来やしない。
僕は駐屯兵団の裏口に立ち、物乞いを始める。
当番の兵士が面倒くさそうにやってきて僕を追い払おうとする。
「また来たのか!汚いから来るなと言っただろ。」
言われたかな?
僕以外にも物乞いをしている浮浪者がいるかもしれないが、こう言われると僕のことが当番の兵士に印象に残っているということだ
仲介人の女騎士さんとは、一応、7日ぐらいに1回と顔を出すとは決めてはいるが、今後はもう少し間隔を空けるべきかな?
あまり習慣づけると、何処から漏れて怪しまれるかもしれないからね。
僕が考えこんで動かないので、女兵士は実力を使って追い払おうとこちらに向かってきた。
不味いな。
素直にここから離れようと足を動かそうとしたときに、仲介人の女騎士さんが兵士の後ろから声をかける。
「おい。何をしようとしている。例え、浮浪者が目障りでも子供に対してすることではないだろ。しかも、ここは裏口で目立つことでもないし、物乞いぐらいさせてやれ。」
「ここは伝統あるカーラー駐屯兵団です。例え子供でも物乞いがいたら目障りだと思います。」
当番兵士は自分は正当な業務だと言わんばかりに主張する。
「確かに、伝統あるカーラー駐屯兵団だが、駐屯兵団の敷地は壁の向こう側で、この道は公道だ。その子は公道、つまりは駐屯兵団の敷地外で物乞いをしていて、我々の業務を妨害している訳でもないのだ。そんなに目くじらを立てなくてもいいだろう。」
「うちの兵士が驚かしてすまんな。別にこいつは浮浪者が嫌いなわけではなく、業務に熱心なだけなんだ。これは詫びだ。こいつを持って今日はもう帰りな」
そう言って女騎士さんが、懐から金入れを取り出し、僕に小銭を渡してくれる。小銭と一緒に小さな紙切れを渡してくれるが、当番兵士には小銭を渡しているようにしか見えないだろう。
「ありがとうございます。」
僕は女騎士さんと当番兵士に向かって頭を下げて場所を離れる。
彼女達が見えなくなってから紙切れをみると、
「依頼無し」
の文字が書かれており、僕は素早く読み取ると、その紙切れを文字が判別できないように細かく破り捨て、破り捨てたゴミは少しづつ分けて別々の場所に捨てる。
「うん。今日も平和で良いね。」
僕はしばらくは人を殺さなくていいという安心感に包まれて帰路につく。
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