第13話

僕はリィズ先輩と並んで市場を散策している。


というのも、組合では、部署ごとに毎月、小額のお金を持ち寄り、定期的にお菓子やお茶を買って置いて、仕事の合間に休憩がてらお茶会みたいなことをしているのだ。


もちろん、誰かがお茶っ葉やお菓子を補充しなければならないので、一番年下で下っ端の僕が買い物をすることになっているのだが、男の僕が買い物に出ると道行く女性たちに声をかけられて、酷いときには連れて行かれそうになるので、毎回、女性の先輩についてきてもらっているのだ。


僕は変装すれば一人でも買い物は出来るのだが、人前で副業の格好をするわけにはいかないので申し訳ないけど、先輩たちに協力してもらっている。


だけど、先輩たちは何故か誰がついていくか必死に検討して、ときには殴り合いにも発展しているのでよほど行きたくないのかな?


そう考える少し悲しいのだが、ついてきてくれる先輩は何故か殴り合いに勝ち抜いた人であり、とても嬉しそうにしているのが不思議だけど。


リィズ先輩は

「なんかこうしているとデートしているみたいだね。」

なんて言っているけど、お互い、商人組合の職員服を着ているので、僕はどう見てもお使いにしか見えないと思うけどね。


市場でリィズ先輩とどんなお菓子が美味しそうとかお茶はどんな物が良いとか話していると、

市場のおばさんからは

「仲良さそうだな。恋人か?羨ましい。」

なんて言われてしまった。


恋人に見えるのか?

そうなのかなと思ってリィズ先輩をみるととても嬉しそうに満面の笑顔を浮かべており、

「おばさん。この店に置いてあるお菓子とお茶全部くれよ!」

なんて言っている。


「先輩!予算を超えていますよ。払えないですよ!」


「大丈夫だ。足りない分は私が出すから。」


なんて言って財布を取り出す。


まぁ、本人が良いのならいいけど。こんなに大量に買っても食べきれないと思うけどね。


買い物も終了し、荷物の大部分をリィズ先輩を持ってもらい、僕は少しだけ荷物を持ち(もっと持とうとしたのだが、リィズ先輩に拒否された)、組合に戻ろうと帰り道を歩いていた。


組合に着いたときにアキ組合長が受付の前で不機嫌な顔をして腕組みをしながら待っていた。


「ロイズ君、どういうことかな?何で私以外の女と買い物デートなんかしているのかな?」


アキ組合長が僕を瞬きもせずにじっと見ている。


「組合長、これはですね。」

リィズ先輩が何か言おうとしたが、

「貴方には聞いてもいないの。少し黙ってもらえるかな。」

とアキ組合長が睨んだら、リィズ先輩は時が止まったかのように動かなくなった。


そういえばアキ組合長は転生者だから不思議なスキルを持っていても

おかしくない。


僕は下手に繕わず正直に買い物に言った経緯を話す。


「何だ。そういうことか。」

アキ組合長がそう言って、指を鳴らすとリィズ先輩の止まった時が動き出した。

「ごめんね。私、勘違いで嫉妬しちゃったよ。でもね。こういった皆の買い物にはロイズ君にばかり行かせるのもどうかなと思うのよね。」

アキ組合長がうふふと笑いながら、リィズ先輩をみる。

「そうですね!やはり、皆が食べるものですから公平に買い物する人を選びます!」

リィズ先輩が慌てて頷くと

アキ組合長はゆったり頷き、

「そうですね。けれども今度は私が買い出しに行きます。だけど、皆さんが普段どういったお菓子とお茶を好むから分からないわね。」

そう言って、わざとらしく手をポンと叩き、

「ロイズ君について来てもらいましょう。ロイズ君はいつも皆さんのお菓子を買っているから、好きなものをわかるでしょう?」

「えっ。でも、さっきは公平にって‥」

と、僕が言いかけると、リィズ先輩が慌てて

「組合長!ナイスアイデアです。ぜひとも次回は組合長とロイズ君にお願いします。」

と勝手に決めてしまう。

「リィズ先輩、だけど今日大量に買ってしまったから、しばらくは大丈夫‥‥」

また、僕が言いかけるのをリィズ先輩が止めて

「ロイズ君、何を言っているのかな?私が持っているのは、自分で買った分だよ。皆の分は君の持っているのだけだから、とても足りないな〜。明日、いや、組合長のお仕事が忙しくなければ、今日にも行ってもらえると助かるな〜」


アキ組合長はリィズ先輩の言葉を聞いても嬉しそうにして手を合わせる。

「そうなの?私もちょうど仕事が終わったから、大丈夫だよ。」

「ロイズ君、ついてきてくれるかな?」

そう言って上目使いで見られると僕は拒否できないことを自分で知っている。

僕が笑顔で頷くと

「はい!では今から行きましょ!」

とアキ組合長が、手を差し出してきた。


僕は彼女に魔法をかけられたわけではないけど、人前で恥ずかしいなどと思う前にその手を握っていた。

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