第12話


俺はキリア、子供の頃からこのガリア王国の王都に住んでいる。

王都では一般家庭ながらもそれなりに裕福な家庭に生まれた。


まぁ金回りが良いってことだけでも結構、運が良かったのだが、隣の家に3歳下の男の子がいて、その子と幼馴染の関係だったんだ。


最初は、俺の後をヨチヨチ歩きでついてきては面倒くさいと思っていたけど、だんだんお姉ちゃんなんて言って懐いてくれてきて可愛く思えてきたんだよ。


その男の子は成長するにつれて可愛くなって頭も良くなって、周りの女共から声をかけ始められて怖がっていたので俺が寄ってくる女共からその子を守っていた。


やがて、成長するに連れて俺がその子を一人の男性として意識するのようになっていた。

その子も俺のことを女として意識していたと思う。

だけど、だんだん可愛くなっていく彼に対して、平凡な外見の俺には釣り合わないんじゃないかと思ってしまい、告白することができなかった。


やがて彼が15歳の時に年上の金持ち女と結婚する事になってしまった。


彼の家もそれなりに裕福であったし、男性には助成金が支払われるので何不自由なく暮らしていたのだが、ある時、彼の母親が倒れて

身体が不自由になり、治療に莫大な費用がかかるようになった。


その治療費を肩代わりするかわりに彼を婿にくれないかと言われたらしい。


彼もちょうど婚期を迎えていたので、彼を狙っていた以前から彼に目をつけていた金持ちの女が声がかけてきたらしい。


この商人はとんでもない女で、元々は彼の父親を狙っていて、父親にいくら声をかけても靡かない。そこで女は彼の息子に目をつけ、君が私と結婚してくれれば母親の治療費を払う言って声をかけたらしい。


彼は最初は撥ねつけたのだか、自分の母親の状態を見て、心が傷んだらしい。

自分のわがままで治るかもしれない母親をこのまま寝たきりにしてしまうのかと。


俺は彼の事情は知らなかったのだが、ある時、彼は俺にこんなことを聴いてきたんだ。


「お姉ちゃんは年下の男って好きかな?結婚なんてできるかな?」


「やっぱり男は年上がいいかもね。ほら兄さん旦那は金の靴を履いてでも探せっていうだろ。」


俺はこんな時まで卑屈になっていて、素直に好きなんて言えなかったんだ。


「そう‥。」

彼はそうつぶやくと少し悲しそうな顔をして

帰っていった。


3日後、俺は彼の結婚が決まったと聞いた。

彼が結婚を決めたのは母親の治療費のことだともきいた。


彼と最後に顔をあわせたときの質問が頭に残っていた俺は彼と顔を合わせることができずに家に引きこもった。


彼の結婚を邪魔してしまうと、彼の母親の医療費が払えないので、彼に迷惑がかかってしまう。

しかし、俺が直ぐに費用を払えるほど金持ちではないし、婚期を迎えた彼を俺が治療費を払えるまで待ってもらうわけにはいかない。


その時は俺がもらってやるって言っても彼の母親にもし万が一のことがあったら彼も後悔をするだろうし、俺も彼に申し訳ない。


やはり彼は俺と結婚するより、金持ちの女と結婚するのが幸せだろう。

俺はそう思い自分の気持ちに蓋をすることにした。


引きこもっている俺は、彼が結婚のため、金持ち女の住んでいる街に向かう出発日前日になっても彼と会っていなかった。


そしてその夜に俺の部屋のドアがノックされた。


俺の家族にノックをする習慣はないので、多分、彼だろうなと思ってドアを開けるとやはり彼が泣きそうな顔で立っていた。


俺はそんな彼の顔を見て泣きそうだったが、わざと笑顔になって


「何でこんなとこにきたんだよ。結婚するんだからダメだぞ。結婚が決まった男が、別の女の部屋にきたら。」


なんて言ったら、彼の目から大粒の涙が流れはじめた。


「僕はこの結婚は望んでいない。年が15や20も離れた女の人と結婚なんてしたくない。」


俺は彼のそんな告白を聞いても何も言えず黙っていた。


「どうして止めてくれないの?

そんな女のところには行くな。俺のそばにいろって言ってくれないのかな?僕はあなたのことがこんなに好きなのに。」


彼の言葉が俺の心を抉る。

彼は俺の心を分かっているんだろうな。


そして俺の言葉を待っていたんだろうな。

俺だって言いたい、そんな女のところに行くなと俺がお前の母親の治療費をなんとかするからと。

しかし、俺は勇気を出せなかった。

彼と釣り合わない。彼の母親の治療費を払えない。彼を不幸にしてしまうのが怖い。

彼にやっぱり金持ちと結婚すれば良かったと言われるのが怖い。

どうしても一歩踏み出せないんだ。


彼はそんな不甲斐ない俺のために、最後の最後で勇気を振り絞り、自分から告白してくれたんだ。

彼が一歩踏み出してこちらに歩み寄ってくれたのに。

俺は最後まで何も言えず黙っていた。


「どうして何も言ってくれないかな?」


そんな彼の言葉にも俺は何も答えられない。


「さようなら」


彼は何も言えない俺に向かって別れの言葉を言った。




ふぅ。僕はジェニカ姉さんから借りた恋愛小説をここまで一気に読んだ。

やはり愛を伝えないと女男の仲は進展しないのかな?


アキ組合長は明らかに僕のことを好き、少なくとも好ましくは思っているだろう。

僕だって彼女が好きだ。


お見合いもしたし、母さんや姉さんたちも強烈には反対はしていないからゆくゆくは結婚ということになることは分かっている。


問題点は僕の副業のことだ。黙って続けるのか、潔くやめるのか。

僕にも続ける理由はあるが、続けることでアキ組合長に危険が及ぶかもしれないし、僕自身が死んだり、捕まったりするかもしれない。


人を傷つけるような最低な僕にも幸せになる権利はあるのだろうか?


どうしよう?これからの事を考えながら、恋愛小説を読み進めるがどうにも頭に入らない。


今まで一人の女性をこんなにも考えることがなかった僕は、これが恋なのかなと思いながら、頭に入らないまま恋愛小説のページを捲っていく。

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