第9話
「どうしてこうなってしまったの?」
私は会合をサボって、好きな人の手を引きながら組合長室に向かっている。
いや、悪いのは私だ。
私が受付で胡散臭い女旅商人がロイズ君に話しかけて見かけたため、つい心配になって声をかけてしまったのが原因だ。
もちろん、ロイズ君が怪しげな女旅商人に引っかかるとは思わない。
でも、自分の将来の夫となるかもしれない人が、知らない女と話していて、気分が良い女性はいないと思う。
ロイズ君は、この街ではかなりの権力を有する商会の息子で母親や2人の姉にはおろかその商会に所属する商会員全員に溺愛されている。
私はそのロイズ君に見合いを申し込んだことになっている。
と言っても私が直接、彼をほしいと希望したわけではない。
国から見合いを勧められて、了承したら彼を紹介された訳だけど、一目見て気に入ってしまったのだ。
この世界では、(転生前の世界もそうだが、)普通は国から見合いの紹介なんてない。
私は、転生者なのだ。この世界では転生者はかなりの優遇を受ける。
それは、転生の際に、神や女神から身体的能力、知能指数の向上、スキルという特別な能力の付与、そして前世の記憶(異界の知識)というチートとも言うべき能力を得られるからであって、その能力から得られる恩恵を、転生者を取り込んだ国も享受できるからである。
私の前世は日本生まれ、大学で経済学を学び卒業後は、大企業ではないけど、そこそこ名のしれた会社に勤め、経理部で勤務していた、早期リタイヤを目指し、大学で得た知識を使って、資格取得や投資を積極的に行い、そこそこ資産を貯め、アラサーとして、晩婚の心配を家族にされながらも、それなりに自由な生活をしてきた。
両親に孫の顔と義理の息子(婿)を切実に要求された(父親は一回は「娘はお前なんかにやらん!」と言った後、必死に食い下がる婿と仲良くなってお酒を飲みたいらしい。)ため、恋にも力を入れようかと思ったが、
私は自分の誕生日に、冷たい路上に倒れ、次に目を覚ましたときは目の前に神様がいて、神の恩恵と、能力を与えられた。
私が前世の記憶を取り戻し、長い審査ののちに、貴族位ではなく、商人組合の組合長の地位を与えられた。
これは私の転生前の出自に関係するのだけど、私は転生前は、貧民街に住んでいる移民の両親から生まれ、物心ついた頃から働いていた。ふと気づいたら前世の記憶を思い出し、身体能力や知能指数が向上した事に気づいたら、それまで、栄養の足りないガリガリの身体が前世の10代前半頃、(日本の一般家庭の生まれだが、この世界の貧民に比べたらかなりの恵まれた栄養状況なので、かなりの恵まれた体格だ)に戻った。そして、働いていた商会のガラスに映る自分の顔を見ると、容貌は前世からかなり向上されている。
かつて貧民街出身者から転生者は出たことがない。
私は他の転生者と違ってかなり執拗に調べられたが能力向上、スキル、知識、身体の変化など転生者の特徴を全て網羅しているために最終的には転生者として認められた。
しかし、貧民出身者の貴族を作りたくない王族が、以前、とある商人組合が新人組員のミスで税の未納があった件を持ち出し、組合長をすぐに任期満了させ、
次期組合長を選出する会合を実施時に、王太子が転生者の私を引き連れ、会合に参加、転生者を候補に入れるよう要請、そして、組合の有力者による投票の結果、私が大多数の得票により、組合長に当選、その際、候補者の一人が死んだりと一悶着があったが、組合の存続のために表面上は穏やかに事が運んだ。
私の能力を得たいが貧民出身のために貴族位を与えられない(転生者で貴族位を得ていないのは私だけだ。)
私の機嫌を取りたい王族は、
組合長の権利と男性を与えることで、私を取り込もう検討、元々男性が少ない世界なのに、貴族位と匹敵する男性はかなりの少数なので、ある程度、息子に対して、教養を施したり、見栄えを良く保つ事ができる財力、権力を持つ貴族や有力商人の息子から選ぶことになった。
息子を差し出す形になる人達からすれば、強力な能力を有しているかもしれないが、とこの馬の骨ともわからない貧民出身の私に、大事な息子を差し出すのは、かなりの反発を招いた。
そこで官僚が考え出したのが、結婚ではなく見合いをする権利を与えるということだ。
いきなり結婚では貴族や有力商会から反発を招くが、私の能力を間近にみたら取り込むように動く可能性があり、なおかつ、仮に失敗
したところで、一応、見合いなので相手から断れる余地もあるからだ。
この世界では、見合いをするだけでも女性からすれば、大変喜ばしいことであり、自分から断るか、相手側からお断りがこない限り、デートをする事ができ、公然とその男性にアプローチをすることができる。
もちろん、その期間は他の男性との見合いやデートをすることは厳禁であり、もし他の男性とのそういったことが発覚すれば、かなり厳しく批判され、悪辣な場合は公表される。
まぁ自分の息子に変な噂がつくのを嫌がる貴族や有力商人は訴えない場合もあって泣き寝入りすることもあると聞いたことがある。
男性側も、お見合いをしたら、他の女性との見合いやデートを禁じられ、同じ女性と複数回会うことを推奨される。
これは、男性側が相手の懐事情や権力を見定め、裕福な相手との婚姻を推奨することで、出生率の向上、幼少期は病気がちな男性の死亡率を金の力で減少させることを目的としているからである。
私は数ヶ月前にロイズ君とお見合いをして、一目惚れ、少しでも好きになってもらいたくて、複数回会いたい事、私の働きぶりを見てもらいたいこと、組合長とはいえ貧民出身なので、貯蓄は多くはないことを正直に告白をしたら、ロイズ君が組合員として勤務、ただし、過剰に密接する可能性がある秘書とかは母親や姉二人から禁じられたので、受付として働いてもらっている。
そんなことを思い出しながら、組合長の席にロイズ君を座らせて、私の方針を伝える。
「方針その1、他の女性と仲良く話をしたらダメ!」
私は自分でも嫉妬深いと思う基本方針をロイズ君に伝えて行こうと思う。
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