第5話
自分の誕生日である今日は定時で仕事を終え、会社を出た。
祝ってくれる恋人や家族がいなくても誕生日ぐらい早く帰りたい。
午後からシトシトと降り続く雨に
周りの人は憂鬱そうな顔をしているが、私はこのような優しい雨が好きだ。
もちろん、災害になるような大雨は嫌いだし、洗濯物が部屋干しになってしまうのも嫌だが、雨自体は好きだ。
今日もそうだが、私の誕生日はいつも雨が降っているような気がする。6月の梅雨時期に生まれたので仕方ないことかもしれないけどね。
今日は仕事を早く切り上げるために、休みなく働いて疲れたので料理を作る気にもならないし、ケーキとビールをコンビニで買って、ピザの宅配を頼もう。
そう考えて、少しだけ早く帰ろうと近道のため少しだけ街灯の少ない道を選んで早足で帰っていると、後ろから誰かがぶつかってきた。
「ちょっと…!」
と少しだけ、怒りながら後ろを向こうとするが腰のあたりに鋭い痛みを感じ、気づいたら地面に倒れていた。
多分、刺されたのだろう。身体の自由がきかないので私を刺した人の顔を見ることもできない。
私は雨にうたれていたが、もう寒気を感じることなく、子供の頃、両親が離婚する前に、最後にお母さんと一緒に入ったお風呂で浴びたシャワーを思い出す。
少しでも長く一緒にいたくてお風呂に入ってもらったんだ。
でも、上手く話せなくて、泣いている顔を見られたくなくて、顔にシャワーでお湯を浴びていた記憶…。
私は最後に思ったことは、後悔の念が2つ…。
両親と学生時代に少しだけ好きだった同じクラスのあの男子生徒にもう一度だけ会いたいということだ。
そう思いを最後に私は深い闇に落ちていった。
ふと気付くと私は暖かいお湯に浮かんでいる。そこには何もなく周りは白い壁や天井が見えるだけだ。
私は命を取り留めたのかな。
でも、周囲は器材も何もなく、私自身、お湯に浮かんでいて、ベッドにすら寝ていないので、病室らしくない。
身体は何も動かすことができない。腰のあたりがズキズキと痛むのは、倒れる前の最後の時のことがあったからだろうな。
「あら。気がついたかしら?」
私が気付くと目の前に綺麗な女性が浮かんでいる。なんか絶世の美女って感じの人だ。とても良い笑顔で私に話しかけてくれている。しかし、どうみても医療従事者には見えない。だって、ギリシャ神話の女神のような格好をしているんだから。
「そうね。私は医療従事者ではないわ。この服は仕方ないわね。元々、身体を持たない存在だからね。今の身体は貴女の持つ女神像を投影しているのにすぎないわ。」
そう言われたけど、意識が追いついてこない。じゃあ、本当に目の前にいるのは神様で、私は死んだってことでいいのかしら。
よく考えてみれば、さっきから私は喋っていないと思うけど意思疎通ができているのは相手が神様だからかしら?
「そう、話が早くて助かるわ!私は貴女の心が読めるから、貴女は言葉を口に出さなくてもわかるから大丈夫よ。なんてったって私は神様だからね!」
女神様は嬉しそうに微笑んだ。
「私はこのあたりの世界を管轄する女神よ。貴女はね。25歳の誕生日に、一方的に惚れられていた会社の同僚の男に刺されて死んでしまったの。今、貴女の身体は、検死解剖が終わって、霊安室に横たわっているわ。今、ここにいるのは、貴女の魂だけってことね。」
そうなのか。私のことを刺した同僚の顔を思い出すことはできなかった。
「それはそうよ。貴女はその同僚とは一度も話したことはないもの。ひょっとしたら、周りを遠目にうろついていたことがあるから、顔をみればなんとなく見たことがあるとは思うかもね。」
女神様は話を一区切りするためなのか手をポンっとたたき、
「それはそれとして、貴女は人に殺されるという、転生の条件の1つを満たしたからね。しかも、理不尽に殺害をされたのでかなり有利な状況で転生できるわね。」
そうなのかぁ。
有利な状況の転生ってなんだろう?
「有利な状況の転生とは、言葉のとおり能力や家柄、容貌なんかを良い状態にして生まれることが出来る転生よ。
貴女を殺した相手はこちらで然るべき対応をしておくからね。」
最後の言葉の時、女神様の笑顔が少しだけ怖くなったのは、私の気の所為だろうか?
「貴女の気の所為ではないわ。サービスで少しだけ教えてあげるわね。貴女が過ごしていた世界では、私は貴女のことを目をかけていたの。そんなお気に入りの貴女を殺した相手はほんのちょっとだけ厳しい境遇に落ちてもらわないと。」
なんだろう。ますます笑顔が綺麗で怖くなっていく。
「例えば、紛争地域に行って地域の水不足の解消に努めるとか、巻き込まれた難民の子供達を奪還するための交渉をするとかね。もちろん刑期を終えた後でよ。現世の人にその死を惜しまれるくらい聖人的な行為はしてもらわないとね。」
聞いていたら相手が気の毒になってきた。とてつもなく長い人生の旅路になりそう。
「でも、貴女の世界では、男は頭より下半身で物事を考える人が一定数いるわね。今度、行く世界はそんな男はほとんどいない世界がいいわね。女性が政治、軍事、経済をコントロールしている世界に行ってもらうわ。」
なんか色々と決まっていく。
圧がすごい。
「貴女に与える能力については、とりあえず運動能力と知力は世界レベルにしておいて〜。
女の子だから不老はいるでしょ。でもごめんね。規定で不死にはできないのよ〜。心配しないでね。不老は成人してから付与されるからね~。」
女神様が嬉しそうに決めているのを私はボーッと眺めている。
「後、3個ぐらい便利なスキルを付与させておくわね。スキルとかについては、転生後に成人してからこの記憶が貴女に戻ったときに付与されるからね。どんなスキルかはお楽しみにしておいてね。」
なんか次々と決まっていく…。
「さて。貴女の転生に関わる設定は以上でおしまい。」
女神様が優しい笑みを浮かべる。
「今度は死ぬ間際に後悔しないようにね。伝えたい思いがあるならしっかりと伝えなさい。」
私の意識は再び暗い世界に沈んていく。
今度は後悔しないようにしよう。
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