第10話 剣舞大会

「お、おはよう。レティシア姫……」


小説では、レティシアはもう婚約破棄を宣言している。

かなり気まずい……


「アスラン様。しばらくお見かけしないうちに、ずいぶんと変わられましたね」

「あはは……ありがとう」


この1ヶ月で俺はかなり痩せた。

毎日剣の稽古をして、食生活も改善した。

見た目の印象は激変し、舞踏会で令嬢から声をかけられるようになった。


「剣のお稽古をしたり、お城の奴隷を解放したり、まるで別人のようだと皆が申していますわ」


中身は別人なんだけどな……


「本当に変わられたのですね」

「まあな」


以前はメイドたちにも嫌われていたアスランは、今はすっかり人気者だ。

見た目がカッコよくなったからか、やたらとみんな話かけてくる。


「で、俺に何か用?」

「えーと、わたくしと一緒に……」

「——兄さん!」


弟のヤマトが走ってきた。


「ここにいたのか。父さんが呼んでる!」


アスランの父親——グインランドの国王だ。

アスランを嫌って、弟のヤマトを後継者にしようとするが、アスランに毒殺されてしまう。


「レティシア姫。またね!」

「……」


◇◇◇


ここは玉座の間。

グインランドの国王が俺の前に座っている。

さすがは国王だ……立派な髭に、豪華な王冠。

貫禄がすごすぎる。


「アスランよ。最近、痩せたな」

「はい!陛下!」

「剣の稽古に精を出していると聞く。お前が変わってくれて嬉しいぞ」

「ありがとうございます」


国王にまで褒められるとはな……

アスランと国王は仲が悪かったが、これで少しでも国王との関係が良くなれば、破滅を回避できるはずだ。


「アスラン。ヤマト。わしも歳だ。そろそろ我が王国の後継者を決めたいのだ。それで、今度の剣舞大会で勝った方を後継者にしようと考えている」

「剣舞大会……!」


剣舞大会——10年は1度、王国中の貴族と騎士が集まって、剣の技を競い合う。

剣舞大会の優勝者は、王国で1番強い剣士と認められ、グインランドの騎士団長に任命される。


「陛下。私は参加しません」

「なぜだ?アスラン」

「次の国王にふさわしいのはヤマトです。国王の座はヤマトに譲ります」


小説では、アスランは国王の座に執着し、たくさんの人を傷つけてきた。

もし国王になれば、何かの拍子に破滅の道へ入ってしまうかもしれない。

できる限り、国王の座から遠ざかったほうがいい。


「ダメだよ!ぼくは兄さんと戦いたい!せっかく2人で剣の修行を頑張ってきたんだ。正々堂々勝負したい」

「いや、ヤマト……」

「うむ!アスランよ、ヤマトの言う通りだ。兄のお前が逃げてどうする?」

「しかし、陛下……」


「私からもお願いです!」


エリンが玉座の間に入ってきた。


「アスラン様の剣才を、皆に見せるチャンスです。アスラン様は人々に誤解されてきました。だから剣舞大会は名誉挽回の絶好の機会ですわ」


ヤバい。

このままじゃ、剣舞大会に参加させられてしまう。


「その通りだ!アスランよ、剣舞大会に参加せよ」

「私もアスラン様の華麗な剣技を見たいです」

「兄さん!一緒に頑張ろう!」


これはとても断れる空気じゃない。

もし断ればせっかく上がった好感度が落ちてしまう。


「……わかりました。剣舞大会に参加します」


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