第8話 アスランは変わりたい

「ぐふ!」


俺は何度もエリンに倒された。


「兄さん。もうやめなよ……」


ヤマトが俺を心配している。


「アスラン様……あなたは私に勝てません。負けを認めたらいかがですか?」


エリンが呆れた顔をした。


「いや、まだだ。俺は諦めない」

「はあ……無駄な努力ですね」


俺は再び立ち上がった。


今までアスランは、何でもすぐに投げ出していた。

何ひとつ身につかず、無能で怠惰で、他人に嫉妬しまくっていた。


だが――今は違う。

アスランは変わるのだ。

豚からまともな人間に。


俺は立ち上がって、剣を構えた。


「本当に兄さんなのか……まるで別人みたいだ」


立ち上がった俺を見て、ヤマトから驚いている。


「せいやあああああああああああああああああああああああ!!」


俺は力を振り絞って、エリンに突撃する。


――キーン!!


エリンが俺の剣を受け止める。


「ぐっ……いい剣ですね。まっすぐで力強い。アスラン様からこんな気持ちの良い一撃が出るなんて」

「……俺は、変わりたいんだ」


俺とエリンは、ギリギリと剣で押し合う。


「アスラン様のお気持ち、しかと受け止めました。私も本気で応えましょう」


エリンは跳んで後ろに下がった。

それから、剣を鞘におさめた。


「あれは……抜刀術か」


小説の中に出てきた。

エリンの剣技、天剣の一閃てんけんのいっせん

一瞬で敵を切り裂く、必殺の抜刀術だ。

エリンは本気らしい。


「どうしました?怖くなりました?」


エリンが俺を煽ってくる。


「……俺は今までの俺じゃない。俺は生まれ変わったんだ」


昔のアスランなら、自分より強い相手と戦わない。

強敵を前にしたら、誰よりも早く逃げ出すだろう。

だが、今のアスランは――


「おりゃあああああああああああああああああああああああ!!」


俺は剣を振り上げ、エリンに突撃する。


「その勇気……称賛に値します。ですが、勝つのは私!」


――キーン!!


「うわあ!」


俺の剣が宙を舞った。

地面に、剣が突き刺さる。


「はあはあ。俺の負けだ……エリン」

「アスラン様。素晴らしい一撃でした。一生懸命なお姿、心を入れ替えたのですね」

「兄さんが頑張る姿、初めて見たよ。本当に変わったんだね」


勝負には負けたが、アスランの努力する姿を見て、2人が褒めてくれた。


「これから毎日、稽古しましょう。アスラン様はもっと強くなれますわ」

「そうだね!兄さんは剣の才能があるよ。ぼくなんかすぐに追い越すさ」

「ありがとう。2人とも」


まともに努力して、人から褒められる。

アスランの人生にはなかった経験だ。


エリンが手を差し出した。


「今日からアスラン様は、私の一番の弟子です。その証として握手しましょう」

「エリン……ありがとう」


俺はエリンと握手した。

ぎゅうっと固く、お互いの手を握る。


一番アスランを嫌っていたエリンと、仲良くなることができた。

破滅の回避へ、また一歩近づいた。






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