蛇陀カラメコラボpart4
「なんでって、俺があなたのファンだったからですよ」
「えっ!?……あ、うん。そう……なんだ。へぇ、うへへ」
俺の言い方に何か問題があったようには思えないのだが、カラメさんの様子が変だ。端的に言うと気持ち悪い。
何か彼女の琴線に触れるようなことを言ったのだろうか。……いや分かっている。俺がカラメさんに対して「ファンです」なんて言ったから彼女が照れているのだ。いやそれは分かるのだけれど、そんなに照れることか?
「うへへ」なんて今日日聞かないコミュ障陰キャみたいな反応が返ってくるとは思わなかった。
カラメさんは腐っても、腐り果てても、腐敗しつくしたとしても
確かに、彼女が褒められ慣れていないだけだと言われればそれまでなのだが、配信上のカラメさんにそんな素振りは見られなかった。
コメント欄
:まあイケボやしな
:本人がピンと来てなさそうなのがまた
:本質的にはオタクってことよ
:親近感が湧くよな
:コメント欄見れてないし、絶対気づかないんやろな
:まあワイも推しからそんなこと言われたら冷静になれない自信はある
:カプ厨大歓喜ってとこか
:つまり俺が歓喜する
カラメさんに何が起こっているのかは分からないが、未だにだらしなく口の端を歪めている彼女を現実に引き戻さなくてはならない。
「カラメさん、続けましょう?」
「はッ!ボクは一体何を……」
「いや知りませんよ」
俺が声をかけると蛇陀カラメのアバターの表情がキュッと引き締まるのが分かった。泡沫の夢から覚めたようで何よりである。
若干数十秒のそのやり取りの後、カラメさんは「こほん」と咳払いでお茶を濁した。
「じゃあ第5問ね」
「よし来た」
「では、『蛇の進化論を根底から覆す、4本足の蛇の化石が2015年に発見されましたが、その蛇の名前は何でしょう?』」
「分かるわけなくない?」
コメント欄
:鬼畜すぎて草
:流石に分からん
:専門的すぎる
:これには動物好きも真っ青
:分かるわけなくて草
これは分からん。いや分かったら逆に俺がイカれていることになってしまうだろう。と言うかイカれてなければこの慈悲と言う概念をまるで知らないとでも言わんばかりの地獄の閻魔も若干引くレベルで鬼畜な問題を答えることなど不可能だ。
この鬼畜の所業から察するに、カラメさんはなんとしてでも俺に正解して欲しくないらしい。アバターとその先の素顔が薄ら笑みを浮かべているのがありありと想像できる。それはそれでなんだか癪に障るのだが。
まあこんな問題で間違えようが分からなかろうが、カラメさんの俺に対するマウントとしては大したことはないように思える。
と言うか逆に大人げなさすぎる問題を出したとして下手したらカラメさん側にバッシングが行くだろう。まあ間違いなく
唯一致命的な欠点としてコメント欄が見れないのが悲しい所か。
「おやおや〜?分からないんでちゅか〜?」
「分かるわけないでしょうが。これで分かったらさすがにおかしいでしょう」
「うん。それはそう」
コメント欄
:カラメもそこはしっかり理解してるようで安心
:もうこれ以上分からされたくないという強い意志を感じる
:黄金の精神ってやつか
:錆びてそうやな
:不純すぎるけど不憫さもある
:苦肉の策ここに極まれり
:鬼畜問題を出すしか無かった悲しきモンスターやぞ
:これで正解したらCHIZU側に不正を疑うわ
「いや、分かりませんよ。お手上げです」
画面上では全く反映されないが、俺はリアルで両手を上げて降参の意を示した。俺以外に伝わらないなんとも無意味な行為だが、これは自己満足の域を出ないのでとやかく言わないでもらいたい。
「ふぅ……。やっぱ分からないかぁー、あれれ〜?」
「いや無駄ですよそのメスガキムーブ。完全に安心してましたよね?『ふぅ……』とか安堵のため息以外の何物でもないものが出ちゃってましたよね?」
今更マウントを取ろうとしたって無茶にも程がある。まずほぼほぼ回答不能の問題を俺に押し付けただけでなく、カラメさんが俺の降参に対して喜ぶ――ないし安堵するような仕草をしてしまったらそれは完全に俺に対して無理無茶無謀を仕掛けてきたという状況証拠になり得てしまうのでは?
それは自分の首を自分で締めているようなものですよ。明確な証拠とは言えないが、まあ
「で、答えはなんです?」
「んん〜?それが人に物を頼む態度ですかぁ〜?」
「じゃあ自分で調べますわ。ええと……」
「えっちょ……」
「ああ、『テトラポドフィス・アンプレクトゥス』って言うんですね。こりゃ分からんわ」
「あの……それボクの役目……」
「あーでも諸説あるみたいですね。まあ今後の研究とかで覆る可能性はあるようです」
「だから……それってボクの……」
コメント欄
:泣きそうで草
:ここまで来るとなんか1周回って可哀想になってきた
:なんと哀れな
:人が嫌がることはやっちゃいけないってはっきりわかんだね
:あーあ
やりすぎてしまっただろうか。でもお仕置はちゃんとしないと教育とは言えないもんね。
ちゃんと分からせてあげなきゃ。
「ひっぐ……ひっぐ……」
「しゃっくりですか?」
「泣いてるんだよ!?」
配信上でなんとも情けない必死の訴えが響いた瞬間であった。
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