蛇陀カラメコラボpart5

「えーんえんえん」

「…………」

 

 さて、このお世辞にも泣き真似と言えない下手くそな雄叫びをしている哀れな蛇をどうしようか。

 順当にこれまで通りツッコミをして、リスナーの笑いを誘うのもまた一興だ。しかしそれでは満足できそうにない。理由はなんとなくだ。

 

「ちらちらっ……」


 あからさまに俺に向かって構ってちゃんをしている。まあ見るまでもなく分かるのだが。俺がカラメさんのこの態度を見て弱ると思っているのだろう。ならばこれはフル無視が正解か。それともいっそ逆に褒め散らかして羞恥心を抱かせるというのも良いかもしれない。うん。それで行こう。


「いやー流石っすね。痺れましたよ!あんな専門的な知識を持ってたなんて!俺には知り得なかったその崇高なる知識は素晴らしい!そしてそれをクイズに出してしまおうという発想力!このクイズを作った人はさぞ高徳な人物なんだろうなー」


 自分で言っててなんだかおかしい気がする。というかおかしい(クイズを作るのに高徳なんて微塵も関係がない)のだが、とにかく褒めていることが伝わればそれでよい。


「え、いや、なんていうか、その……」


 さて、これでカラメさんは罪悪感とか後ろめたさとかに苛まれることになったはずだ。その隙さえ作れてしまえばあとはこちらから隙を突くだけだ。


「いやぁー!これ以上の難しい問題がこの後出るんだろうなー。そしてカラメさんはそれを知っていらっしゃる!さてさて、次の問題は何です?ん?」


 コメント欄

 :これは手厳しい

 :陰湿やなぁ

 :うわあ……

 :やり方が汚ねぇ

 :だけどこれは効くやろなあ

 :逃げ道がなくて草 

 :草

 :八方塞がりやぞ


 これでカラメさんは俺に対して謝る他なくなったわけだ。

「勘弁してくれ、もう負かそうなんて考えない」そんな言葉が聞けるのではなかろうか。


 案の定、カラメさんの瞳は右へ左へ泳ぎに泳いでいる。なんとかしてこの不利な状況を打開しようと必死に策を捻り出そうとしているのだろう。しかし、それは無駄だよカラメさん。貴方は自分で自分の首を絞めた。俺はそれを見ながら、「こうすればもっと上手く締まるよ」とアドバイスを出していたに過ぎない。あるいはカラメさんが進んでいた道を崖への一直線へとすり替えた。それだけのことだ。


「……すいませんでした」

「よろしい」


 コメント欄

 :ニッコニコで草

 :勝てて嬉しそうやな

 :カラメの完封負けか

 :これは策士

 :えげつねぇことをするな

 :褒めて罪悪感を刺激するか


 カラメさんの謝罪が聞けたので満足だ。これで次からまともな問題になることだろう。

 さっきの問題は本当に意味不明なものだった。多分わかった人いないんじゃないかな。いたら教えて欲しいくらいだ。


 さて、なにも俺は年上の女性を言葉責めにして屈服させることに快楽を求めるような性癖を持ってはいないし、これ以上カラメさんを弄るのも可哀想という良心の呵責もある。

 彼女にはさっさと調子を戻してこの配信の軌道修正を計ってもらいたいのだけれど。


 そんなことを思っていたけど、どうやら杞憂だったらしい。


「さて、じゃあ次行くよ」

「切り替えの早さは1級品ですね」

「そりゃあね!切り替え早くないと配信者やってけないよ?」

「ごもっとも」


 俺は苦笑しながらも鷹揚に頷く。


 彼女の言い分は尤もだ。配信者歴8ヶ月になった俺でもその事は身に染みて理解している。


「じゃあ第6問!『ボクの誕生日は何月何日?』」

「おい」


 コメント欄

 :草

 :懲りてなくて草

 :懲りてねぇww

 :おいさっきまでのやり取りはなんだったんだよ

 :こんなん笑うわ

 :記憶力ダチョウ並で草

 :頭悪いって


「誰の頭がダチョウ並じゃ!」

「言い得て妙ですね」


 曰く、ダチョウは記憶力が皆無らしい。

 家族の顔すら覚えられないから、家族が入れ替わっていたとしても本人含め誰も気づかないらしい。そして走っていると、何故走っているのか本人でさえ分からないらしい。そんなことある?


 まあでも、今のカラメさんはダチョウ並の記憶力と言われても否定できないのでは?さっき俺相手に痛い目を見たばかりだろうに。


「言い得て妙じゃないわ!ちゃんと脳みそは人間並だし皺だってあります!」

「ダウト」

「んなわけあるかぁ!」

「いやだってそうでしょ。さっき何に対して謝ってたんですか」

「あれは、ほら!難しすぎたよねごめんねって」

「ならなんであなたの誕生日なんて問題になってるんです?」

「いや、ボクの好きな食べ物当ててたし、そこまで鬼畜じゃないかなって」


 コメント欄

 :あー

 :確かに

 :好きな食べ物当てられるんなら誕生日知ってても違和感ないな

 :驚くほど正論だったわ


 うんまあ確かに筋は通ってる。


「…………」

「さ、答えをどうぞ」

「…………」

「……え?嘘でしょ?まさか分からないの?」


 筋は通っているが、答えられるかは別だ。


「……申し訳ないですが、俺はカラメさんの誕生日知らないです」

「ええ〜!!」


 コメント欄

 :うせやろ

 :マジかよww

 :好物は把握してるのに

 :逆にすごいな

 :いや、でもガチファンでもなきゃ誕生日なんて知らんか

 :配信で何回か言ってたはずやで


「ボクの誕生日は1月4日だよ!ちゃんと覚えといてよね!もうっ!」


 呆れたようにカラメさんは言う。

 言われてみればなんとなく思い出したような気がする。ああ、確かに俺はこの情報をどこかで目にしていたはずだ。


「あ〜。なんか思い出したかも」

「……ホントに?」

「ええ、まあ」

「じゃあもう二度と忘れないように!」


 今日1番の大声でカラメさんに忠告されてしまった。好きな食べ物を知っていて誕生日を知らないのは彼女的に納得がいかないのだろうか。カラメさんの態度は中々に不満げだった。


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