日常

 1人暮らしと言うものは、相応に自由であり相応に苦労するものだ。

 俺は積み上げられている未洗浄の食器を見てそんなことを思う。


「触りたくな」


 食材の油やらソースやらで汚れた食器たち。普段ならばすぐに洗っておくのだが、今日ばかりはそんな気分にはなれない。


「こんなことなら調子に乗って自炊すんじゃなかった」


 動画投稿サイトを漁っているうちに料理動画にぶち当たり、見ている内に「うおおお!作りてぇー!!」ってなって、その熱量のまま自炊をしたのだが、料理って思うようにいかないもんなのね。途中でやになってきてたわ。もう半ばヤケで作ってたよ。


 美味いとも不味いとも言えない微妙な味の料理を食べて、やる気をなくしてしまったのだ。言ってしまえば燃え尽きた。


 思ってた通りにならなくて拗ねているんだよ。


 子供かって思うかもしれない。でも大人だって嫌なことあったら嫌でしょ。そういうことだ。


「1人暮らしで自炊するといいよって聞いたことあるけど、そこまでメリットが大きく感じないなぁ」


 料理する労力と既製品コンビニ飯の値段を天秤にかけると俺の価値観では後者に傾く。

 分かるよ。食材から作った方が安上がりだって言う人の言い分は尤もだ。でもそれって使い切らなきゃそこまで安上がりじゃないんだよ。


 一食分だけで考えるのならそこまで安くはないというわけだ。


 いやね?定期的に、それこそ毎日自炊する人はスーパーでちょくちょく買い物をするんだろう。そういう人は食材を余らすって考えがないのかもしれない。しかしこちとら怠惰な1人暮らし大学生。毎日自炊などするはずもなく、一時的なモチベーションの増加に伴って意気揚々と材料を買ってきたは良いものの、思ったより上手く作れず意気消沈し、その上材料は余る。

 余った食材をどう消費するかと言う心理的負担と料理をする労力と時間。これらの要素を総合的に考えて多少割高でもコンビニで買った方が良くない?と思うわけだ。まあコンビニなんかより安く売ってるとこなんて探せば幾らでもあるわけだが。


 長々とこんなことを言ってはいたが、要は洗い物がしたくないだけだ。


 目下やるべきことに対して的外れな不満をたらたらと吐き出すことでストレス発散しているに過ぎない。


 なにが一番面倒かってフライパンだよフライパン。

 1人暮らしするにあたって必要だろうって買ったのに、今のところこいつはプラスマイナスで換算すると俺の心象はマイナスである。


「洗う時絶対重いし、油ついてるからスポンジがダメになりそうだし。さては良いことないな?」


 うん。良いことない。


「もう後でいっか」


 任せた。未来の俺。お前ならできる。そう信じてる。


 1時間後か、1日後か分からないがとりあえずこの問題は保留しておく。

 臭い物に蓋をするではないが、その場しのぎであることには変わりないだろう。


「さて何するか」


 とりあえずデスクに向かってパソコンを開いてみる。


「ゲーム実況とか配信とかするならキャプチャーボードとかオーディオインターフェイスとか買った方がいいよな。なんかオーディオインターフェイスって作曲で使うようなイメージがあったけど」


 作曲の打ち込みとかで使うとかなんとか聞いたようなそうでないような。

 まあそれは関係ないけど、やっぱ機材って高いね。数万円掛かるよ。


 とはいえリスナーが求めているのだからそれに応えるのが配信者と言うもの。それに俺もゲーム実況には興味があったし、やってみたいからね。

 それに今のうちにこういう機材に慣れておいた方が、後々のコラボ配信の時に慌てなくて済むだろう。


「あ、ソシャゲのガチャ引こう」


 と、ここで今日のログインボーナスをもらっていなかったことを思い出す。

 俺は暇つぶしにソーシャルゲームをプレイするのだが、ストーリーが面白いゲームだと時間を忘れてのめり込んでしまったりすることが多々ある。

 

 ただの周回ゲーや育成ゲーよりストーリーがあった方がよっぽど楽しいと思うのは個人の意見だが、ストーリーが凝っているゲームに外れはないと思う。


 個人的には作品の設定を知るのが好きだったりする。

 緩い雰囲気のゲームだけど裏設定ではかなりシリアスだったり、主人公とラスボスの戦いの背景にはどんな設定があったのかとか。


 やっぱり設定を知るとその作品を深くまで知れて楽しいからね。


 とまあこんな感じでだらだらと時間は過ぎていく。

 明日はそろそろ配信をしよう。コラボ配信からまだ日は経ってないとはいえ、流石に3日連続で配信をしないのはなんだかムズムズしてしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る