配信は唐突に

「やあ」


 コメント欄

 :うお

 :急に始まったな

 :どうしたん急に

 :唐突やな

 :なんか声が高くね?

 :なんかいいことでもあったんか?


「気づいてる人は俺が機嫌が良いことに気づいているようだな」


 見てくれている視聴者にこんなことを言うのもあれだが、この一言で俺の機嫌を見抜けるのは普通にキモい。いや罵倒しているとかじゃないんよ。なんか怖いじゃん。


「まあ一言言いたい。なんで気づくの?」


 コメント欄

 :草

 :CHIZUを見てるんやで

 :いいファンじゃん

 :大切にしていけ

 :君が推しなんだろ

 :ええなー


「いや怖いんだが?あと君らが言ってることは正論なんだけどなんか釈然としねぇな」


 確かにこの些細な変化に気づけるということは日ごろから俺のことを見ているのだろう。それは嬉しいし、ファンとして俺のことに好意的なのだろう。しかしだな、ちょっとストーカーの片鱗が見えてるのよ。

 確かにファンは大切にしていくものだよ?でも怖いもんは怖いじゃん。


「まあいいですよ。俺のことが好きでたまらないってことだからね」


 コメント欄

 :は?

 :は?

 :は?

 :きしょ

 :自惚れんな

 :何言っとるん?

 :自意識過剰ですわよ

 

「なんなん?俺のことが嫌いなんか?」


 コメント欄

 :そんなこと言ってないんだよなぁ

 :それはただの被害妄想では?

 :卑屈思想は損やで

 :嫌いって言って欲しいんか?

 :マゾってこと!?

 :まさかここで性癖を暴露してくるとは

 :強かやな


「性癖開示なんかしてねぇよ!あと俺はMではない!」


 なんかすごい方向に話が進んでいる。

 何故に俺がマゾ呼ばわりされているのか。元はと言えば君たち視聴者が始めた物語だろ。急に梯子を外すな。


 俺の視聴者たち容赦なさすぎでは?なんて考えていると、1つのコメントが俺の目に留まった。



 :なんで機嫌良かったん?



 これに対して俺はVtuberになる目途が立ったと答えようと思ったのだが、まだ立ち絵が完成していないしもっと焦らして発表した方が視聴者の盛り上がりにもなるだろうと思い、今日は適当にはぐらかすことにした。


 テンション上がって配信を開始したけどその要因を教えないのはちょっと不誠実かもしれんが、別にええやろ。


「機嫌が良かったのは長らくフルコンできてなかった音ゲーの楽曲がフルコンできたからよ」


 事実ではある。

 フルコンできたときは普通にテンション上がった。

 これは事実だし別に良いよね?まあテンションが上がった要因は他にもあるわけであるが。


 コメント欄

 :おめ

 :それは嬉しい

 :お疲れ

 :楽しそうで何より

 :音ゲーってむずいよな

 :ワイトもそう思います


 音ゲーの得意不得意は結構個人差があると思っている。

 上手くリズムを取れるかとか、動体視力とかもろもろ基礎スペックの要求値が高いし。だとしても練習さえすれば誰でもできるようにはなる。

 太鼓を叩くのとタップ式の音ゲーとじゃ操作感が違うのでなんとも言えない所ではあるのか。


「いやーいいっすね。あ、ところで俺が他の配信者さんとコラボするってなったらどうする?」


 コメント欄

 :え?

 :え

 :え

 :ファッ!?

 :え!?

 :ファッ!?

 :マジ!?

 

 俺がそんなことを言ったらコメントの進みがかなり速くなってしまった。とはいえコメントの内容は大抵が『え?』なので大した支障はない。

 視聴者たちが驚くのも無理はない。俺はコラボなどとは無縁の配信活動をしていたからな。視聴者たちも俺がコラボすることは想定になかったのではなかろうか。古参であればあるほどそう考えていそうだ。


 この雑談配信でどうやって他の配信者とコラボするんだと思うかもしれないが、やりようはいくらでもあるわけで、何ならコラボ限定で俺がゲーム実況をするというのも面白そうだ。


「まあ現時点で誰かとコラボするってことはまだ決まってないんだけどね」


 全然嘘である。もうミクルさんとのコラボが確定している。


「俺がコラボするとなったら君らどう思うのかなーと。俺自身、興味がないわけではないからな」


 コメント欄

 :え、嬉しい

 :普通に楽しみ

 :いや嬉しいが?

 :需要の塊っす

 :楽しみが増える

 :コラボしてほしいわ

 :なんか独り立ちしていく息子を見てる気分になったわ

 :わかる

 :分かる

 :言い得て妙


「知らないうちに俺には親が増えていたようで。それにしてもコラボは肯定的やなぁ~。問題は、ゲームすることになったら自枠じゃできんことか」


 配信機材がない。そのため自枠じゃ配信できない。

 ミクルさんとのコラボがゲーム実況になったら枠はミクルさんに立ててもらうことになりそうだ。


「俺も色々考えてるってことやでー」


 ミクルさんとのコラボをするにあたって、視聴者の考えを知っておくことは悪くない。むしろメリットしかない。多少コラボの存在を匂わせたとて、大して痛くないのが事実。それにコラボより先に俺の受肉が待っているし、供給が多いのだよ。


 全く、俺ってば良い配信者やで。

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