勝った
『ありがとうございます。こちらとしては問題がないのでお引き受けさせて頂きたいと思います』
「…………やった」
届いた返事はまさかのOK。
俺はまさか良い返事が聞けるとは思っていなかったのでこの返信を見て呆然としてしまった。
だって人気イラストレーターさんなんだもの。他の依頼とかたくさん受けてるだろうしただの一個人の依頼が通るとは思ってなかったんだよ。
「っしゃ!!」
気づいたときには俺はガッツポーズをして立ち上がっていた。
だがこの興奮状態も次の瞬間には冷えていた。というのも、れもねぇどさんから依頼をもっと詰めていきたいという連絡が来たからだ。
これに関しては俺もノータイムで返信した。
すると色々と見えてきたことがある。
まずは俺が提示した予算が依頼内容にしては多すぎたことだ。立ち絵1つの依頼としては相場より多く、向こうさんから相場を提示してきたが俺としては別に予算は最初に提示した通りで良かったので、結局差分を多めに描いていただくことで落ち着いた。
次に立ち絵のモチーフである。これに関しては俺は何も考えていなかったので、本職のイラストレーターさんの発想力にお任せすることにした。
だがそれでは流石にれもねぇどさんがゼロから構想を練ってしまうことになる。それでは負担が大きいかと思い、俺からの要望としては以下の通りとなった。
・種族は人間
・成人男性
・生真面目過ぎずチャラ過ぎず
こんなところだ。
あと1つ、ねもねぇどさんから提案された俺のアバターの職業があるのだが、これは今は伏せておこう。
流石はプロのイラストレーターさんだと言わざるを得ない。あの発想力の高さは俺には真似できない。
そうして仕事としての会話が終わったところで、れもねぇどさんから1つのメッセージが届いた。
『私、CHIZUさんのことは前から見させてもらってたんですよ。なので今回のご依頼は私個人としても嬉しいことなんです』
…………は?
いやいや待ってくれ。は?
れもねぇどさんが……俺を……認知して……。
おっと、いつの間にか俺は夢の世界に足を踏み入れてしまっていたらしい。
まさかな。いくら依頼を受けてくださったからと言っても失神することはなかったんじゃないかな。全く俺もしょうがないなー。
え?夢ではない?現実?
『光栄です!俺もれもねぇどさんの大ファンです!画集買いました!』
俺の頭が送られてきた文章が現実のことだと認識した瞬間には既にメッセージを送っていた。
もう一人称とか気にする暇もなく衝動で送ってしまっていたので『俺』になってしまっていた。やっべ。
しかし既に既読が付いてしまっているので後戻りはできない。
『ありがとうございます!私も作業の合間にCHIZUさんの配信を聞かせてもらってます』
ふぁー。超嬉しい。もう死んでもいいわ。駄目だわ。Vtuberになるまでは死ねないわ。
その後も世間話を続け、一区切りついたところでデスクから離れて冷蔵庫へと向かう。冷えた麦茶を取り出し、コップに注ぐと一気に飲み干した。
「これが幸ってやつか」
カラメさんに続きれもねぇどさんに認知されているなんてもう最高どころの話ではなかった。
こんなことを杏に知られたら据わった目で殺して来そうなのが怖いところか。
そう言えば、れもねぇどさんはカラメさんのママであったな。
ママというのはVtuber界隈で立ち絵を担当した絵師さんのことを言う。自分を生み出したということで、親と言えなくもないからこの呼び方なのだろう。
もしかしたらカラメさん経由で知ってくれたのかもしれない。そう考えるとやはり人気Vtuberの影響力と言うものは計り知れないと感じるところである。
まあこれは俺の推測になるので真相がどうなっているのかは分からないのだが。
なんにせよ、これで俺がVtuberとなることは確定したわけだ。
れもねぇどさんからは1ヶ月以内に完成するとのことなので、それまでは気楽に待つことになる。
ならば普段通りに配信でもしますかと、俺はパソコンを起動して配信開始のボタンを押した。
◇
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