女の子からのお誘い(やらしくないよ)
秋月ミクルさんからお願いがあると言われた。
配信者として会っているのだから、課題を教えて欲しいとかそんなことではないのは重々承知している。では何なのか。
そう身構えていると、ミクルさんから意外な言葉が放たれた。
「チ、CHIZUさんに私とコラボして欲しいんです!」
「コラボ……?」
コラボとは、配信者や動画投稿者が他の同業者と同じ配信内で関わることである。例えば一緒にゲームをしたり、雑談したり、企画をしたりという具合に。
このコラボ、両者にとって非常にメリットが多い。
どういったメリットがあるのか、それはまず、互いの視聴者がコラボ相手を認知することだ。故にコラボ相手の視聴者をこちらの視聴者にすることができる。
次に話題性だ。俺たちのような登録者数が1桁万人の配信者だって、2人合わせれば合計で10万人。ハチャメチャに大雑把に考えて、コラボ配信に10万人が注目するとなったら、それは普段の配信とは比べ物にならないことになる。そのため、自然と同時接続者数も増える。
あとは配信者のコネが増えることだろうか。俺がミクルさんとコラボすることになったら、必然的に繋がりができるわけなので、ミクルさん経由で他の配信者さんと接点を持つことがあり得るわけである。
デメリットは人が増えることでアンチと呼ばれる人たちの標的となる可能性があることだろうか。まあそれは対策のしようもないので気にしたら負けである。
それと男女のコラボは『杞憂民』や『ユニコーン』などの厄介ファンからお気持ちを表明されて煩わしいことがあるくらいか。彼らの気持ちは少し分かるんだけどね。
これらの要素を加味したうえで、俺はコラボのお誘いに乗り気である。
配信者たるもの他の配信者の方とのコラボはやってみたかったし、それが一方的とはいえ知っている人ならテンションも上がってしまうだろう?
ミクルさんが俺に対してコラボの提案をしてすぐに杏が補足説明をする。
「恋歌は人見知りだから、このコラボをきっかけに配信者としての経験を積んでおきたいんだって」
「ああ……」
その説明に俺は納得した。
というのも、ミクルさんはまだ1回もコラボ配信をしたことがないのだ。俺としては1回くらいはしているものだと思っていたので少し意外に思ったのを覚えている。
もちろん、コラボをしない人はとことんしないのであろう。しかしミクルさんは配信上でコラボについて良い方向で考えている節が発言から伺えた。だから、なんでかなーとは思っていたのだ。
「俺としては断る理由もないので喜んでお引き受けしますが」
俺がそう言うとミクルさんはパッと表情を明るくした。
「ほ、ほんとですか!」
「ええ、ですが少し待っていただきたいのです」
俺としてはこちらも良い経験になるので全然ウェルカムなのだが、今コラボするのは少しもったいない気がする。
「はい。待つだけなら大丈夫ですけど……何かあるんですか?」
「まあ少し」
俺がお預けをしたからだろう、ミクルさんは少し気になっている様子だ。まあこちらとしては言ってしまっても良い。というか配信で公言しているのでなんの問題もないわけだが。
「ああ、なるほどね」
どうやら凛斗は俺の意図が分かったようだ。まあ間違ってないだろうな。
「実はですね。俺は今Vtuberになろうとしているんですよ」
「え……?」
「まあ俺がバズったのはあのカラメさんのおかげですし、顔出しをしていない雑談配信者とかよりアバターがあった方が良いんじゃないかって思って今はとある絵師さんに立ち絵の依頼をしているところでしてね」
「なるほど。つまりVtuber同士の方がコラボしやすいってことですか?」
「そうですね。あとは受肉した後の方が話題性もあるでしょうし。メリットにはなれどデメリットにはなりにくいのではないかなぁー……と」
声だけ配信者とVtuberとなると立ち絵の有無とかあるだろうし。
全然できなくはない。というか前例は全然あるし見たこともあるのだが、俺としてはVtuberになった後の方がVのファンの人たちの受けが良いのではないかとも思うわけだ。
「達平ってそんなことしてたんだ」
ここで意外だと声を上げたのは杏であった。
おや、杏はこのことを知らなかったのか。凛斗から何か聞いているのかと思っていたが。
「君の彼氏にそそのかされましてね」
「へぇ~。凛斗ってばいいことするじゃん!」
そう言って肘で凛斗の脇腹を突いている。
ちなみに杏はVtuberファンである。その中でも『でらっくす』が好きなようで、所謂『箱推し』というやつなのだとか。
趣味が合う彼女っていいよね。その点で凛斗は恵まれている。羨ましい。
ちなみに、カラメさんに俺のことが拡散されたその日に俺のもとに杏から爆速で連絡があったのは言うまでもない。すごく嫉妬された。
あと、杏は俺がVtuberになることで推しとの接点が見込めるとか、そんなことは一切考えていないぞ。
彼女、壁になりたいオタクちゃんであるので自分みたいなのが推しと同じ空間なんかにいられるわけないじゃんとか言うタイプだ。
それはそれとして俺が推しに認知されていたのは羨ましかったらしい。解せぬ。
話が逸れてきたが、コラボはいずれするということで結論付けることでいいだろう。
「じゃあ、近いうちに俺もVtuberになるのでその時はコラボお願いしますね」
「はい!お待ちしています!」
そうして俺らはチャットやボイスチャットができる配信者御用達のアプリで連絡先を交換した。
すると杏が安心したように言った。
「よし。これでコラボに慣れてね」
「う、うん……がんばる……」
なんだか含みがある言い方だったので、それとなく聞いてみるとミクルさんは人見知りだったので今まで他の配信者さんとのコラボのお誘いを色々と理由をでっちあげて断っていたようなのだ。俺としてはまあ人には色々事情があるし別に良いんでね?と思ったのだが、ミクルさん自身が罪悪感を感じていたらしい。
優しいと言うべきか損な性格と言うべきか。
しかし少し心配になってしまうのもまた事実。
「別にいつもコラボできるわけじゃないですし、やりたくないときは断って良いんですよ?」
「い、いえ……CHIZUさんとのコラボが嫌というわけじゃないんです」
「いや、そうじゃなくて。俺とのコラボでコラボ慣れしたとて、その後コラボの打診が来た全員とコラボするわけにも行かないでしょう?断るのも全然悪いことじゃないんですよ」
「そ、それは大丈夫です!」
ふんす。と息を吐きながら気合十分に言い切った。
「そうだよ。恋歌はそんなにヤワじゃないよ。罪悪感を感じていたのは相互フォローのVtuberさん相手だったりした時とかだから」
するとそう杏が補足してきた。
「ああ、なら大丈夫そうだな」
どうやら俺が杞憂民と化してしまったようだ。失敬。これは反省点かもしれない。次に生かそう。
そうして、俺がVtuberになったらミクルさんとのコラボをすることが決定したのであった。
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